The Chronicle of Broadway and me #042

199212月~19931月(その6

オフを4本まとめて。<>カッコ内は当時の感想。

『Madison Avenue』(1月2日14:00@Lonestar Roadhouse)の劇場は、カントリー系のライブハウスとして有名なローンスター・ロードハウス。いわゆるレストラン・シアターで、テーブル席。全部埋まって100人そこそこの印象だった。
<物語は、田舎出の若い女性がニューヨークの広告業界に入って一人前になるまで。それを、揶揄とまではいかない、いささか生温い切り口で、ユーモラスに見せようというミュージカル・コメディ。正攻法な作りだが、如何せん脇役の2人を除いてキャストが弱い。
唯一印象に残ったのが、レモネードのセールス・アイディアを考えるシーンで、オペレッタ風、30年代ミュージカル風、屋根の上のバイオリン弾き風の3パターンでCM案を演じてみせたところ。
劇場の雰囲気も、この手のミュージカルにはそぐわない気がした。>

『Jacques Brel Is Alive And Well And Living In Paris』(1月3日19:00@Village Gate)は、男女2人ずつ計4人が出演するレヴュー。
<今回と同じグリニッチヴィレッジのジャズクラブ、ヴィレッジ・ゲイトで25年前に、今回と同じスタイルで上演され大ヒットした(1968年1月22日より1,847回上演)作品。フランスで活躍したベルギー人のACI(シャンソンの世界ではシンガー・ソングライターをこう呼ぶらしい)、ジャック・ブレルの楽曲と発言で構成されている。
「ミュージック・ガイドブック88(ミュージック・マガジン増刊)」の蒲田耕二氏の記述によれば、ブレルは「シャンソン史に残る大歌手」で、「飽かずプチブル攻撃をくり返し」「保守層から国事犯呼ばわりをされながらガンとして節を曲げ」ず、「大衆動員力とレコード・セールスにおいても結局は流行歌手のそれを上回った」人。
パリでブレルと知り合ったのが、ドリフターズ「Save The Last Dance For Me」やエルヴィス・プレスリー「Viva Las Vegas」の作者で自身も歌手であるモート・シューマン。シューマンは、詩人で出版やTV・舞台の製作も手がけるエリック・ブロウの、ブレルの楽曲を英訳してレヴューの形にしたいというアイディアに共鳴。ブレルの了解を得て、ブロウと共に英訳を行ない、ブレルの曲を歌っていた歌手エリィ・ストーンを中心に据えたキャストで、自らも出演して公演を実現した。
ブレルは1979年49歳でパリで、シューマンは1991年52歳でロンドンで亡くなっている。その2人に捧げられた今回の公演は、ブロウが共同製作、ストーンが演出という形で関わっている。
ヴィレッジゲイトの地下劇場は、余裕を持たせて配置されたテーブルと椅子が全部埋まって 250人ぐらいという規模の広さ。高さ1メートル程の小さなステージが半円形に突き出ている。日曜夜の公演の客数は40~50人というところか。25年前にもここで同じショウが、と考えると、薄暗い店内(という言い方が相応しい)には1960年代後半の残り香が漂っているような気がしてくる。
ピアノ、ギター/マンドリン、アコースティック・ベース、パーカッション/マリンバという編成をバックに、4人の歌手が、ソロで、デュエットで、全員で、時にパントマイム的な動きを交えながら、2幕にわたって26曲を歌い継ぐ、というのが、このレヴューのスタイル。ジャック・ブレルの歌詞の題材は、断片的に理解できる単語から類推するに、愛や孤独、若さや老い、生と死、戦争、等々。それらの楽曲は、穏やかだったり激しかったりユーモラスだったりと様々な表情を見せながら、力強い情感を確実に聴く者の心に伝える。
ガブリエル・バレ、ジョゼフ・ニール、アンドレア・グリーン、カレン・ソーンダーズの4人の出演者の内、前3者はブロードウェイやオフ・ブロードウェイの豊富な経験を持ち、ソーンダーズはクラブやキャバレーのショウでキャリアを積んできている。いずれも個性豊かで、歌唱力のみならずトータルな表現力が素晴らしい。
1968年時点でのこのショウのねらいは、ジャック・ブレルの作品を英語に翻訳した上でレヴューという形に再構成することで、アメリカの観客にブレル作品の素晴らしさを伝えつつ、単独でブレル作品を聴く以上の大きな感動を生み出そうとしたことにあったと思う。1992年の再演は、ブレル作品の魅力を25年前には非常に有効であった方法で現代に蘇らせようとする試み。そして、それは、かなりの程度で達成されたと見ていい。
が、一方で、1968年当時、ベトナム戦争で疲弊していたアメリカの、ニューヨーク、グリニッチヴィレッジでは、反体制のシャンソン歌手ジャック・ブレルの楽曲はリアルタイムの作品として生きていたはずだ。では、1993年のグリニッチヴィレッジではどうか。感じるのは”幻想の郷愁”。25年前と同じ場所で、25年前の主要スタッフとキャストが製作と演出で関わって、60年代後半に大ヒットしたレヴューを復活させる、ということ自体が今回の舞台の”売り”になっていることは製作側も充分に意識しているだろう。
この”幻想の郷愁”が現代の観客にどこまで有効に作用するか。充実した舞台なだけに、ぜひ成功してほしいと思うのだが。>
このリヴァイヴァルのことはウィキペディアにも載っていないぐらいだから、興行的には失敗だったのだろう。とはいえ、1995年にはウェスト・エンドで、2006年には再びオフで、直近では2014年にロンドンのフリンジ(オフ)でリヴァイヴァルしている。ジャック・ブレルはパリのみならず今なお生きている!
この時の出演者の1人、ガブリエル・バレとは、その後、役者としてだけでなく、演出家としても出会うことになる。

『Manhattan Moves』(1月5日20:00@American Place Theatre)は、ダンスだけのショウ。
<演じるのは、ベテランらしい男女のペアを中心に、若い男性3人女性2人が脇を固めるという構成のチーム。ダンスのスタイルはモダンだが、メインの2人のデュオにはバレエの要素が混じる。
ニューヨーカーたちの1日を、適度にユーモラスにダンス化してみせて、退屈はしないのだが決め手に欠ける。技術的にも高い水準にあると思うのだが。
ダンスだけのショウの場合、わかりやすさと面白さとのバランスが難しいのかもしれない。より斬新な演出・振付が必要なのだろう。
アメリカン・プレイス劇場はブロードウェイ劇場街近くにある、小さいが立派な劇場。普段はプレイの上演が多いようだ。>

『Hello Muddah, Hello Faddah!』(1月6日15:00@Circle In The Square downtown)は、アメリカに住むユダヤ人の一生を、ギャグをちりばめたスケッチで綴るミュージカル・コメディ。
<サークル・イン・ザ・スクエアという名の劇場は、今回『Tommy Tune Tonite!』(#41を観たガーシュウィン劇場の隣にもあるが、そちらは1972年に出来た分家。こちらはヴィレッジ・ゲイトの向かいにある本家で1951年の設立。ダスティン・ホフマンやジョージ・C・スコット を擁するオフ・ブロードウェイ演劇の拠点として出発したらしい。奥に長いステージ空間を三方から取り囲む客席は500人程度のキャパか。そこに水曜の昼公演の客が50人。あまりの空き具合に係員も、チケットの指定に関わりなく「好きな所に座ってください」と言う。初めから親密な雰囲気が漂う中で始まった舞台は、入りの悪さを物ともしない熱演で盛り上がった。
「The Allan Sherman Musical」と銘打たれたこの作品、『Jacques Brel Is Alive And Well And Living In Paris』の音楽がジャック・ブレルの既成曲だったように、音楽にアラン・シャーマンという、1960年代にコミックソングの分野で活躍したシンガー・ソングライターの既成曲が使われている。と言うよりも、アラン・シャーマンの楽曲からインスピレーションを得て作られたらしい。
タイトル曲「Hello Muddah, Hello Faddah!」は、キャンプに来た少年が自分の悲惨な体験を綴った両親宛ての手紙、という内容の詞を、アミルカレ・ポンキエッリ作曲「Danza dell’ Ore」(時の踊り)のメロディに乗せてユーモラスに歌った曲で、発売後10週間で100万枚以上の楽譜を売ったという。この曲が歌われるのが、第1幕の中盤、正に主人公が少年時代にキャンプに行ったシーン。こういった調子でアラン・シャーマンの曲を元にして作られたコミカルなスケッチを並べて、ユダヤ人の一生を戯画的に描いたのが、このミュージカルという訳だ。
いきなりの分娩シーン(主人公の誕生)から、死後の世界まで、絶妙のテンポで展開して飽きさせないのは、アラン・シャーマンの楽曲の面白さをうまく捉えた脚本(ダグラス・バーンスタイン、ロブ・クラウス)と演出・振付(マイケル・リーズ)の力だと思うが、キャストの魅力も大きい。
出演するのは5人(男3人、女2人)。5人のいずれもが舞台経験豊富で芸達者。ハナからエネルギー全開で迫ってくるが、中でも、妻の勝ち気な母役になるトヴァ・フェルドシャーと、マイクを持つと血が騒ぐ伯父役のステファン(スティーヴン?)・バーガーが強力。役柄のせいもあるが、何が何でも客を沸かせてやるというギラギラするような自己主張が、それを裏づける確かな演技力を伴って前面に出ていて、圧倒された。
そんな訳で大いに楽しんだのだが、十全に楽しめたかというと、やはりギャグが理解できない (以前に言葉が理解できない)ので、本来このミュージカルの持つ面白さの10分の1も楽しんでいないのだろうなあ。>

以上の4演目が上演された劇場は、いずれも今は当時の姿では存在しない。

 

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