The Chronicle of Broadway and me #050

19935月~6月(その6

『Kiss Of The Spider Woman』(6月2日20:00@Broadhurst Theatre)についても、ニューヨーク・タイムズのフランク・リッチの記事を引きながら、当時、感想を書いている。

<フランク・リッチは、トニー賞最優秀作品賞はThe Who’s Tommyではなく『Kiss Of The Spider Woman』が獲るだろうと予測してみせた。その上で、『Kiss Of The Spider Woman』は最近のトニー賞(作品賞受賞)ミュージカルよりは遙かに冒険的であるが、作品賞受賞予測の根拠は、そのことよりも、作品の持つ「ショウビジスネの閃きと自由主義的な感傷の伝統的混合」が審査員にアピールしやすいことにある、と書いて、暗にトニー賞審査員の体質は古い、と皮肉った。
その是非はともかく、結果を先に言えば、ミュージカル作品賞はリッチの予測通り『Kiss Of The Spider Woman』が獲った。そして、トニー賞の審査の基準がどの辺にあるのかはわからないが、個人的には、今シーズンの新作の中では『Kiss Of The Spider Woman』が最も満足できた作品だった。
とにかく、1993年のチタ・リヴェラのダンスを、現在考えられうる最高の形で観られたことが、何よりもうれしかった。現在60歳のチタのダンスは体の隅々まで神経が行き届いていて切れ味が鋭い。確かに振付は、体力的な問題を考慮してか、できるだけ無理がなく、かつ最も華麗に見える、という動きを考えているように見えたが、そうしたことを超えて、彼女の放つオーラに魅せられた。遅れて来たミュージカル・ファンにとっては、これ以上の喜びはない。
1985年の映画版では一人三役だったという、蜘蛛女(人を死に誘う、言ってみれば死神のような存在)、幻想の映画女優、革命闘士の恋人。その前者二役を演じるのがチタ・リヴェラ。その出演場面を大幅に拡大し、彼女の凛々しく情熱的なダンスと歌をたっぷり見せ、聴かせるこのミュージカルは、まさしくチタのもの。
男物の白いスーツに白いボルサリーノという鮮やかなスタイルでダンディに歌い踊る「Where You Are」(トニー賞授賞式の舞台でも披露)、極楽鳥の如き扮装で密林ダンスの華になる「Gimme Love」、そして、ステージいっぱいの蜘蛛の巣を背に幻想的に歌う「Kiss Of The Spider Woman」といったナンバーでの印象は強烈だ。
想像だが、チタの「蜘蛛女」という構想はかなり早い段階で決まっていたのではないか。まずチタの見せ場があって、そこに残りの部分(実は物語の骨子の部分)が付け加えられていって全体ができ上がったとしても不思議はない。
軍事独裁国家の監獄で同房になったホモセクシャルのショーウィンドウ装飾家と革命闘士の物語という、いわゆる本筋のドラマ部分は、よく噛み砕かれているし、出演者たちも熱演している。チタの見せ場とのバランスもうまくとれている。やはり、ハロルド・プリンスの演出の力が大きいのだろう。ミュージカル舞台化が難しいに違いない題材を見事に料理しきったことは間違いない(リッチは、その題材の選び方を「冒険的」と言い、演出の手法を「伝統的」と言っているのか。しかし、伝統的で何が悪い?)。舞台全体を覆う可動式の格子のセットや、『The Who’s Tommy』同様スライドを駆使する照明等も効果的だった。
が、万が一そうした部分の作りが失敗していたとしても、チタ・リヴェラの素晴らしい見せ場があるというだけで、『Kiss Of The Spider Woman』を評価する。
極端に言えば、ミュージカルとはソング&ダンスの見せ場の連なりで、全体のドラマはその見せ場をより魅力的にするためのつなぎなのだ、と思う。もちろん、それが分かちがたく結びついて、より大きな感動を生む、という方向で発展してきたのではあるが、面白さの根本は、あくまでそこにあるはずだ。>

とにかくチタ・リヴェラを観たかった。すでに伝説だったし。ミュージカルの舞台で観られるのは最後かも、と当時は考えた。四半世紀後も現役だとは夢にも思わなかった(笑)。

この作品、カナダの興行会社ライヴェント(Livent)の単独プロデュースで、同社のブロードウェイ進出第1弾だった。『Kiss Of The Spider Woman』の後、同社は、1994年『Show Boat』、1997年『Barrymore』、同年『Candide』をブロードウェイで上演。翌1998年に倒産する。『Barrymore』(演出ジーン・サックス)は二人芝居のストレート・プレイだが、それ以外は大がかりな装置のミュージカルで、なにかバブルの置き土産のような印象の興行会社だった。ミュージカル3作は全てをハロルド・プリンスが演出している。
『Kiss Of The Spider Woman』は、当初、プリンス演出、スーザン・ストロマン振付で1990年に試演を行なったものの、芳しい評価が得られず、2年後にライヴェントが乗り出してトロントで再スタート、という経過だったらしい。この時すでにブロードウェイ初演の主要キャストが顔を揃えていたようだ。ショーウィンドウ装飾家=ブレント・カーヴァー(カナダ人俳優の鮮烈なブロードウェイ・デビュー)、革命闘士=アンソニー・クリヴェロ。振付はヴィンセント・パターソンに変更。共同振付でロブ・マーシャルの名前もある。
同1992年、ウェスト・エンドで開幕。1年近く上演してからブロードウェイ入り。ロンドン経由にしたのは、カナダの興行サーキットがイギリス(やオーストラリア)と関係が深いせいだと思うが、このロンドン公演は観に行こうかとかなり真剣に考えた。結局、初のロンドン訪問は、この年の秋になるのだが。
ついでに言えば、プリンス+ストロマンのコラボレーションは、ライヴェントの次作『Show Boat』でブロードウェイ入りする。

最後に一点書いておくと、ショーウィンドウ装飾家は自分の性認識が女性なのでホモセクシャルではなくトランスジェンダーと捉えるべきだという説が今日では有力らしい。

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