SMOKE@浅草九劇 2018/10/25/14:00 Renacsence@Abrons Arts Center(466 Grand St.) 2018/11/04/15:00

2週間と間をおかずに観たこの2作、いずれも実在した詩人についての、トンガリ具合が刺激的なミュージカルだった。
『SMOKE』の詩人が朝鮮のイ・サン(李箱)で、『Renacsence』の詩人がアメリカのエドナ・セイント・ヴィンセント・ミレイ。

『SMOKE』は、イ・サンの連作詩「烏瞰図(うかんず)第15号」からインスピレーションを得て生まれた、と公式サイトに書いてある。ことに楽曲の詞には、それがかなり反映されているのだろうと想像する。
日本版ウィキペディアによれば……イ・サンは1910年9月14日(陰暦8月20日)生まれ、1937年4月17日没。難解で過度に自己中心的な作風は「天才」と「自己欺瞞」の両極端な評価を受け、独特の世界を描いている。27歳という若さで世を去ったことが、更に李箱の評価を難しくしている。亡くなる前年に東京に渡りホームレス的な生活をしていたが、思想不穏の嫌疑で西神田警察署に拘禁され、1か月後に健康悪化のため釈放。
……といった情報をまるで知らないまま観始めたのだが、冒頭のシーンはこの釈放の場面だった、と後でわかる。
倒れている男がいる。そして暗転。若者2人が誘拐計画を実行しようとしている。1人はさっき倒れていた男で、これが強気な詩人。もう1人は意志薄弱そうな画家。誘拐は成功し、金持ちの娘が2人の部屋に連れてこられるが、詩人が身代金のことで外出している間に画家は娘に懐柔され……。と、ここまでを読んで想像するいくつかの展開の、いずれでもない方向に話は進んでいく。登場人物が3人しかいないのに、その3人の正体すらわからなくなってくる。謎が謎を呼ぶ、というやつ。
緊迫感に満ちたドラマの行き着く先は、今後の再演をご覧になる方がいないとも限らないので伏せたままにするが、3人の役者の鬼気迫る演技もあって最後までハラハラ。見応え充分だった。
この作品、元は韓国産で、脚本・演出チュ・ジョンファ(추정화)、作曲・音楽監督ホ・スヒョン(허수현)。それを、あなたの初恋探します同様、菅野こうめいが日本版に仕立てたようで、クレジットには、上演台本・作詞・演出:菅野こうめい、とある。脚本・作詞にどれだけ手が入っているのか不明な上に、韓国版を観たことがないので比較はできないが、日本版単体で評価するなら、日本語詞の楽曲の質も含めて充分に成果は上がっている。
それと同時に、この日本版に意味があるのは、最初に書いた、イ・サンが東京で思想不穏の嫌疑で拘禁されていたことを描いていること。最後に再び釈放シーンがあるのだが、そこで彼に投げつけられる言葉が「不逞鮮人」。今の日本の空気を抉る瞬間だ。
役者は、大山真志、木暮真一郎、池田有希子。後者2人はダブル・キャスト。音楽・演奏には伊藤靖浩のクレジットがあった。

『Renacsence』は、エドナ・セイント・ヴィンセント・ミレイの若き日の断片×ポエトリー・リーディングといった趣向の舞台。
ミレイは1892年2月22日メイン州生まれ、1950年10月19日没。20歳の時にコンテストに応募した「ルネッサンス」という詩が評判となって頭角を現し、25の年にグリニッチ・ヴィレッジに移り住んでいる。その後、1923年に「竪琴をつくる者」(The Ballad of the Harp-Weaver)でピューリッツァー賞受賞。と、まあ、そういった経緯が、家族や友人や編集者との葛藤を交えたドラマとして描かれる。と同時に、ミレイの詩が楽曲となって歌われる。
作曲のカーメル・ディーンは、これが作曲家デビューだが、これまでブロードウェイで『If/Then』『American Idiot』『Hands On A Hardbody』『The 25th Annual Putnan County Spelling Bee』の音楽監督/編曲の仕事をしてきている。さらに、グリーン・デイやフィッシュ(Phish)とも仕事をしている。どちらかと言えば、エッジの立った音楽寄りの人。それが、ここでは生きている。
面白いのは、最後に観客を舞台に上げ、壁際にセットした椅子に座らせて、キャスト全員によるポエトリー・シンギング&ダンシングを間近で体験させること。100年前の詩人エドナ・ミレイならやったかもしれないと思わせる、小さな劇場ならではのアイディアだった。
ついでに書いておくと、上演されたアブロンズ・アーツ・センターは初めて訪れたが、マンハッタンには珍しい、のどかな雰囲気の中に佇む落ち着いた劇場だった。

 

あなたの初恋探します@オルタナティブシアター 2018/07/24 19:00

初恋の人を探す商売って聞き覚えがあるなあ、と観る前に思って自分のサイトの観劇リストを検索したが出てこない。劇場で観始めたら、やっぱ見覚えあるんだけどなあ、デジャヴュか? って感じになり……。カーテンコールで背後に英語タイトルが映し出されてわかった。1年前に観た『ファインディング・ミスター・デスティニー』の再演、正確に言えば再々演だったんだ。しかし、ややこしい。
元々は韓国のオリジナルで、2006年に始まってロングラン・ヒット……と言うが、切れ目なく続いているのかどうかは不明。ごぞんじの方があったら教えていただきたいが。ともかく、ハングルの原題は『김종욱 찾기』(キム・ジョンウク探し)、英語タイトルが『Finding Mr. Destiny』。それが2010年に映画化され、2011年に日本で公開される際、『あなたの初恋探します』という邦題が付いた。と、そういうことでよろしいでしょうか。で、2016年に日本でも舞台版をやることになり、付いたタイトルが『キム・ジョンウク探し〜あなたの初恋探します〜』。キャストを替えて翌年に再演した際のタイトルが『ファインディング・ミスター・デスティニー』。で、今回が日本初演のキャストで再々演の『あなたの初恋探します』
どんな事情があるのかわからないが、観客の立場から言えば混乱の元。あまり誉められたことではない。

とはいえ、中身はよくできている。
ヒロインは活動的な若い女性(この設定がポイント)。戦場取材に行かせてほしくて提出した、新聞社の上司を脅すつもりの見せかけ辞表を受理されて失職。放浪の旅に出ようとするも父親に叱責され、結婚を促される。ってのが事の発端。
もうひとつの発端は、会社員としてはちょっとズレてる若い男が社長の不興を買ってクビになるが、ひょんなことから初恋の人を探す商売を思いつく。
二人が出会うのは、ヒロインが父親に押し付けられた見合いの相手から逃れるために、結ばれるなら初恋の人と、と言い出したため。その人とはインドで出会ったのだが、わかっているのは名前だけ。それがキム・ジョンウク。そして始まるキム・ジョンウク探しだが……。

この後、三転はしないが二転ぐらいする話も、そこそこ意外性があって面白いのだが、それ以上に面白いのが役者3人のコンビネーション。
この舞台、3人しか出演しないのに役数は25。数えてないけど、公式発表を信じれば。
ヒロイン役者は1役。初恋探し業の男役はキム・ジョンウクを兼ねて2役。で、残り22役を1人が演じる。これが肝。3人の緊密なやりとりと、本筋とは別に、3人目の役者が、いつ、どんな役で次に出てくるのかを楽しむ構造。
昨年のキャストは、ヒロイン=玉置成実、初恋探し業=高田翔(ジャニーズJr.)、第三の男ときどき女=坂元健児。初演及び今回が、ヒロイン=彩吹真央、初恋探し業=村井良大、第三の男ときどき女=駒田一。
去年もけっこう楽しんだ記憶があるが、今年のキャストはかなり強力。同じメンバーでの再演だからということもあるのか、まずは非の打ち所のない出来。宝塚歌劇を観てきた者としては、彩吹真央って女優になってもうまいな、と感慨深い。この役がハマリ役だということもあるのだろうが。

オリジナル・スタッフは、作曲/Hae Sung Kim、作詞・脚本/You Jeong Chang(発音の仕方をご教示ください)。日本版は、脚本・演出/菅野こうめい、振付/広崎うらん。バンドが素晴らしく、音楽監督・キーボード/かみむら周平、ギター/窪田晴男、ベース/バカボン鈴木、ドラムス/山下嘉範。

それにしても、このレヴェルの国産ミュージカルが、なぜ作れないかなあ。