The Chronicle of Broadway and me #38

★1992年12月~1993年1月(その2)

『Forbidden Broadway』(12月31日22:00@Theatre East)のオープンは1982年1月15日。てことで、もうすぐ11周年を迎える時期だったわけだ。60丁目、三番街と二番街の間にあった劇場は、当時の感覚では地の果てみないな気がした(笑)。観劇後の感想は次の通り。

<小さなテーブルの周りに4~5席ずつが配置されたクラブ式の劇場で、120 ~130人のキャパか。ニュー・イヤーズ・イヴの最終公演のせいもあるのか、満席状態。
内容は、ご存じの方も多いと思うが、文字通りブロードウェイ・ミュージカルのパロディ。キャロル・チャニングのMCに始まって、最近のヒット作を中心に次々に茶化しまくる。特にひどい目に遭うのが最近の非ヒット作で、とうとう巡り合えなかった『Nick And Nora』(#36をはじめ、1月10日で終わる『My Favorite Year』、期間限定公演にも関わらず大コケしたらしい『Anna Karenina』がケチョンケチョンにこき下ろされた。まさに、死者に笞打つだ。その他、バーブラ・ストライサンドとライザ・ミネリの物真似が秀逸だったのと、チタ・リヴェラとリタ・モレノ(『West Side Story』の舞台と映画のアニタ役)の名前が似ているのをネタにしたギャグが印象に残った。>

こき下ろしはするが、そこに愛情が感じられるのが、この演目の優れたところ。批評のポイントが、舞台を深く観ていなければ気づかないところだったりする辺りに、それが表れる。出演者4人の個人芸、アンサンブルの妙が、役者が入れ替わっても高いレヴェルで保たれるのも素晴らしい。
その後も、劇場を移り、内容を更新しながら近年まで断続的に上演されてきたのは、ご承知の通り。
作者であり演出家であるジェラルド・アレッサンドリーニは、このショウでトニー賞特別賞を含む数々の賞を受賞している。

The Chronicle of Broadway and me #37

★1992年12月~1993年1月(その1)

8度目のブロードウェイは1992年の大晦日から1993年初頭にかけて(37歳)。

1993年の俯瞰は次の「1993年5月~6月」の項に回すが、1993年の1月にアメリカ大統領が交代していることは書いておく。父ブッシュからクリントンへ。共和党から民主党へ。
ただし、ニューヨーク市長について言えば、民主党のデイヴィッド・ディンキンズ時代は1993年で終わり、翌年から共和党のルドルフ・ジュリアーニに替わる。

初の冬の渡米。観劇リストは次の通り。

12月31日 22:00 Forbidden Broadway@Theatre East 211 E. 60th St.
1月 1日 12:30 The Big Apple Circus@Lincoln Center Damrosch Park
1月 1日 20:00 My Favorite Year@Vivian Beaumont Theatre/Lincoln Center
1月 2日 14:00 Madison Avenue@Lonestar Roadhouse 240 W. 52nd St.
1月 2日 20:00 Gypsy Passion@Plymouth Theatre 236 W. 45th St.
1月 3日 15:00 Tommy Tune Tonite!@Gershwin Theatre 222 W. 51st St.
1月 3日 19:00 Jacques Brel Is Alive And Well And Living In Paris@Village Gate 160 Bleeker St.
1月 4日 11:00 Christmas Spectacular@Radio City Music Hall 1260 6th Ave.
1月 4日 20:00 Crazy For You@Shubert Theatre 225 W. 44th St.
1月 5日 20:00 Manhattan Moves@American Place 111 W. 46th St.
1月 6日 15:00 Hello Muddah, Hello Faddah!@Circle In The Square(downtown) 159 Bleecker St.
1月 6日 19:30 La Boheme@Metropolitan Opera House/Lincoln Center
1月 7日 20:00 Ruthless!@Players Theater 115 McDougal St.

なぜ、この時期に飛んだのか。今となってはまるで覚えていないが、考えられるのは、『Tommy Tune Tonite!』の終了に合わせて、か。1月3日は日曜だから、観た昼公演が最終公演だったはず。当時のトニー・テューンは注目の的だった。
いずれにしても、この回は、堰を切ったようにオフの劇場に足を運んでいる。目玉は最終日の『Ruthless!』だが、とりあえず、ここではミュージカル以外について簡単に触れておく。

『The Big Apple Circus』はホリデイ・シーズンにリンカーン・センターの敷地内にテントを立てて行なわれていたサーカス。
<規模は大きくなく、演出もハッタリが少ないが、よく練られていて、とても楽しい。>と当時の感想に書いてある。すでに記憶の彼方だが、<ゲストとして出演していたシーザーという人のスピード感のあるパントマイム芸が、他ではちょっと観られないもので、感心した。>ともある。
2016年に倒産するが、再建されて昨年暮れからのホリデイ・シーズンには無事リンカーン・センターでの公演が行なわれたようだ。

『La Boheme』はご承知の通りプッチーニのオペラ。日本では1988年に公開された映画『月の輝く夜に』(Moonstruck)に影響されての観劇。$55でオーケストラ後方の席。
出演者は、ミミ=レオナ・ミッチェル、ロドルフォ=リチャード・リーチ、ムゼッタ=ダイアナ・ソヴィエロ、マルチェッロ=クリストファー・ロバートソン、ショナール=ヴァーノン・ハートマン、ショナール=ヤン=ヘンドリック・ローテリング、という布陣。指揮ジョン・フィオーレ。
当時の感想を読むと、第二幕の大人数に驚いている。

The Chronicle of Broadway and me #36

★1992年7月(全)

1992年7月、7度目のニューヨークは仕事絡み。初めてブロードウェイ・ミュージカルを観る執筆者の方を案内しての渡米だった。そんなこともあって、6本中5本が再見(★)。#30で書いた『Jelly’s Last Jam』中断事件が起こったのは、この時。

7月22日 20:00 Five Guys Named Moe@Eugene O’Neal Theatre 230 W. 49th St.★
7月23日 20:00 Jelly’s Last Jam@Virginia Theatre 245 W. 52nd St.★
7月24日 20:00 Crazy For You@Shubert Theatre 225 W. 44th St.★
7月25日 14:00 Guys And Dolls@Martin Beck Theatre 302 W. 45th St.★
7月25日 20:00 Cats@Winter Garden Theatre 1634 Broadway★
7月26日 15:00 Tubes@Astor Place Theatre 434 Lafayette St.

初見の『Tubes』は、今ではすっかり演者である「Blue Man」の方がタイトル化してしまったが、元々の演目タイトルはこちら。ブルー・マン・グループによるパフォーマンスがパブリック・シアター向かいのアスター・プレイス劇場で幕を開けたのが1991年。その翌年の観劇だったわけで、話題の舞台として観客の熱が(最初の)ピークを迎えつつある、という気配を感じた。
ウナギの寝床のように細長い劇場で繰り広げられる驚いて笑えるパフォーマンスの数々については多くの方がご承知かと思うが、よく練られたパーカッション演奏が基本にあることがロングランを支えていると思った。
印象的だったのは、開演前、いろいろと笑える案件が掲出されていた電光掲示板にジェファーソン・エアプレインの「White Rabbit」(1967年)の歌詞が流れた始めたら会場全体が歌いだしたこと。日本では音楽好きの間でも認知度が高いとは言えないこの楽曲が、
アメリカではこんなに有名なのか、と、当たり前のことながら驚いた。
レイト・カマー(遅刻者)をいじるのが仕込みなのは後の2度目の観劇時にわかったが、途中で舞台に上げる観客が日本人の女性である確率が高いのも意図的だったのか。プロデューサー、出口最一氏に尋ねたことがあるようなないような(笑)。

その出口氏とお話しする機会を得るのはもう少し先だが、この時には、同行した執筆者の取材で現地の日本の方何人かにお目にかかった。
その人脈に後々いろいろと助けられることになる。ことに、正規のチケット・エージェント業を営んでいたMご夫妻にはお世話になった。
そういう意味では、新たに観た演目が『Tubes』のみだったにもかかわらず、結果的に実り多い渡米となった。

The Chronicle of Broadway and me #35

★1992年5月~6月(その9)

例によってトニー賞を参考に1991/1992シーズンを振り返る。

作品別獲得数は多い順に次の通り。

『Guys And Dolls』4(リヴァイヴァル作品賞※/演出賞/主演女優賞/装置デザイン賞※)
『Crazy For You』3(作品賞/振付賞※/衣装デザイン賞※)
『Jelly’s Last Jam』3(助演女優賞/主演男優賞/照明デザイン賞※)
『Falsettos』2(楽曲賞/脚本賞)
『The Most Happy Fella』1(助演男優賞)
(※印のカテゴリーは、ミュージカルとプレイが混合で候補になっている。また、この年、編曲賞、音響デザイン賞はない。)

『Jelly’s Last Jam』がミュージカル作品賞を獲らなかったことについて、トニー賞翌日のニューヨーク・タイムズにコラムニストのグレン・コリンズがこう書いている。<トニー賞選考者の大多数は、過ぎ去った栄光のブロードウェイを蘇らせたことで『Crazy For You』を選び、そして、ジェリー・ロール・モートンの人種差別主義に対する痛烈な問いかけをもった『Jelly’s Last Jam』は、研磨剤のように何人かの選考者に痛みを与えたかもしれない。>
痛烈な問題提起よりもノスタルジーを選んだトニー賞に対する皮肉。
確かに、『Crazy For You』『Guys And Dolls』も、出来がよかったとはいえ、1970年代から続くノスタルジー・ブームの流れの中で生まれたものではあった。時代の空気としては、そうだ。そんな中で『Jelly’s Last Jam』『Falsettos』が出てきて、それなりの成果を収めた辺りに、ブロードウェイの変化が見え始めた。そんなシーズン。そういう意味で1992年は忘れられない年となった。

ちなみに、このシーズンに登場して観られなかったミュージカルは次の5本(開幕順)。いずれも渡米前にクローズ。

『André Heller’s Wonderhouse』
『Peter Pan』
『Nick & Nora』
『Metro』
『The High Rollers Social and Pleasure Club』

『Nick & Nora』『Metro』は、いずれも本公演が2週間もたなかったが、オリジナル楽曲を持たない作品の多いシーズンだったからだろう、トニー賞の楽曲賞候補になっている。
『Nick & Nora』は個人的に期待していた作品で、原案はダシール・ハメットの「The Thin Man」(邦題:影なき男)。映画版でウィリアム・パウエルとマーナ・ロイが演じて人気となった夫婦探偵の名前がタイトルになっている。作曲チャールズ・ストロース、作詞リチャード・モルトビー・ジュニア、脚本・演出アーサー・ローレンツ。これまたノスタルジックな一作だったろうが、観てみたかった。ただ、脇役でフェイス・プリンスが出ていたので、こちらが当たっていたら『Guys And Dolls』のアデレイド役はどうなっていたか。プリンスは『Nick & Nora』でトニー賞を獲ったのか。いろんな「たられば」が想像できて面白い。
『The High Rollers Social and Pleasure Club』は、今回調べたら、音楽的にアラン・トゥーサンが中心になり、ジェリー・ウェクスラーやチャールズ・ネヴィルも関わって作られたニューオーリンズものだったようで、これも観たかったなあ。
『Peter Pan』は、#26で触れた前シーズンのキャシー・リグビー版が再びホリデイ・シーズンに帰ってきての限定公演。

The Chronicle of Broadway and me #34

19925月~6月(その8

Man Of La Mancha(@Marquis Theatre 5月31日15:00)の当時書いた感想。

<初演は、まずANTA(アメリカン・ナショナル・シアター・アンド・アカデミー)ワシントン・スクエアというオフ・ブロードウェイの劇場で1965年11月から約2年4カ月行なった後、ブロードウェイのマーティン・ベック劇場に移り、終盤バタバタと劇場を変えながら1971年6月26日までロングラン。市川染五郎時代の幸四郎(当代松本白鸚)が1970年に出演したのは有名だろう。
世界各地で何度も上演されている評価の定まったショウで、作家セルヴァンテスが審判を待つ牢獄で囚人を相手にドン・キホーテの話を聞かせる、という構成の巧妙さにまず感心。大掛かりな吊り上げ式の長い階段はあるものの、舞台装置は小規模でどちらかと言えば抽象的。それをうまく生かして、展開もスムーズ。思ったほど重厚ではなく、適度にユーモラスで観客を飽きさせない。有名な「The Impossible Dream」はショウの中で聴くとやはり感動的で、他の曲もスペイン音楽の豊かな味をうまく取り入れていて、いい。
が、映画スターとしても知られるラウル・ジュリア(貫祿充分)、シーナ・イーストン(熱演だが力不足)、サンチョ役者として定評のあるトニー・マルティネスという知名度の高い配役、きらびやかなホテル内にあるマーキーズという劇場の雰囲気等の要素から、野心的なところのない、専ら観光客向けの公演という風に映り、今一つノレなかった。>

東宝の幸四郎版も観ていない時代の話。

Forever Plaid(@Steve McGraw’s 5月31日19:30)は、交通事故で亡くなった高校の仲良し4人組プラッドが志半ばで終わった夢を実現させるために現世に戻って一夜限りのショウを行なう、という設定のショウ。事故の原因が、エド・サリバン・ショウに出るビートルズを観に行く女子校生の乗ったバスとの衝突だった、というのは当時わかっていなかった。わからないながら書いた当時の感想は次の通り。

<72丁目の地下鉄の駅からほど近いスティーヴ・マッグロウズという、1階がバ-・レストランになっている店の2階で行なわれるオフ・ブロードウェイ・ミュージカル。昨年始まり、東京公演もあったようだ。
半分アマチュアのような(そう演じているだけで実はうまい)1950年代のコーラス・グループ4人組が “プラッド”。彼らが現代に甦り(ということなのだと思う)、ピアノとウッドベースをバックに、おっかなびっくりにショウをやる、という設定。音楽は当時の名曲の数々。観客を巻き込んでの和やかで楽しいショウ。この日は代役の1人がやや頼りなげだったが、$30の価値はあった。>

前年に観た#24)『The Will Rogers Follies(@Palace Theatre 6月 3日20:00)を再見。その感想。

<劇場の大看板がキース・キャラダインの写真のままなので気づかなかったが、主演が代わっていた。新しいウィル・ロジャーズはマック・デイヴィス。カントリー系のシンガー・ソングライターで、自らもヒット曲を持つが、エルヴィス・プレスリーのグラミー賞ノミネーション曲「In The Ghetto」の作者でもある。このショウでブロードウェイ初登場。さすがに歌は味があり、映画出演の経験もあるだけあって演技も無難にこなしていたが、残念ながらキース・キャラダインほどの華はなかった。>

#24に書いたようにWOWOWで字幕入り映像が放送され、その録画を観た後の観劇だったので、<ドラマ部分がよくわかり、アイディアに満ちた構成に気づいて驚いた。>とも書いている。ちなみに、録画してくれたのは友人の小関君でした。ありがとう。

ついでに言うと、この劇場に日本人ビジネスマンの団体客が多く来ていたようで、<その「見ても見なくてもいいんだけど経費で落とせるんで話のタネにまあ見にきた」という態度が不愉快だった。幕間になってから入場してくる等、言語道断。>と怒ってもいる。

The Chronicle of Broadway and me #33

★1992年5月~6月(その7)

『Falsettos』(@Golden Theatre 5月30日20:00)についての観劇当時の感想。

『Falsettos』は、オフ・ブロードウェイで演じられた2つのミュージカル『March Of The Falsettos』(1981)と『Falsettoland』(1990)を合体させる形で作られている。そして、登場する成人男優3人は3人とも、その2つの作品に出演している。そんなこともあってか、非常によく練られている印象を受けた。
場面転換はスピーディ。舞台装置はシンプルで、背景には何もなく、可動式のソファやドアや草野球場のスタンド等が役者によって入れ換えられる。タイミングも絶妙なこの入れ換えには振付があり、ショウの一部になっている。また、セリフは全て歌になっているが、ソロ→コーラス→ソロ→合の手→ソロ→コーラス、といった風な展開がかなりのテンポで行なわれる場合が多いにも関わらず、一糸乱れないピッタリの呼吸。ま、ブロードウェイなのだから当たり前と言えばそれまでなのだが、そういった部分を越えて、小規模のプロダクションならではの親密なものを感じた。
同時に、その親密さが、テーマである “愛” の問題をよりリアルに表現しているように思え、プロダクション全体のショウの本質に対する理解の深さを感じた。>

登場するのは7人。前述したように成人男性が3人、それに成人女性が3人と10歳の男の子が1人。
主人公と元妻。2人の間の子供。主人公の同性の恋人。元妻と交際することになる、主人公のセラピスト。主人公の隣人の女性カップル。
「 “愛” の問題」とは、そんな人たちの心の問題。
登場人物たちは複雑な思いを抱きながらも交流を絶やさない。そしてある日、主人公の恋人がエイズで亡くなる。人々は主人公の元に集まり、慰め、励まし合う。
『Rent』より4年早くブロードウェイに登場した、エイズを扱ったミュージカル。

作曲・作詞・共同脚本ウィリアム・フィン。共同脚本・演出は『Into The Woods』はじめスティーヴン・ソンドハイムとの仕事でも知られるジェイムズ・ラパイン。このコンビは2005年に『The 25th Annual Putnam County Spelling Bee』を、今作同様オフからオンに送り出す。

この舞台の出演者は、子役以外はその後も息長く活躍している人が多いので書き留めておく。
主人公マーヴィン役はマイケル・ルパート。もちろん今も現役だが、初めて観たのは『City Of Angels』のスタイン役(交代後)だった。
その恋人役がスティーヴン・ボガーダス。ブロードウェイの常連。つい先日(2018年8月)は、オフの『On A Clear Day You Can See Forever』に出演していた。
セラピスト役は『Into The Woods』に出ていたチップ・ザイエン。直近のブロードウェイ出演は2015年の『It Shoulda Been You』
主人公の妻役がキャロリー・カーメロ。この人も『City Of Angels』組。もしかしたら、ブロードウェイで最も多くの作品で観た女優かもしれない。『Parade』の主人公の妻役はこの人。
女性カップルの1人を演じたバーバラ・ウォルシュは2006年リヴァイヴァル『Company』で「The Ladies Who Lunch」を印象的に歌う。
女性カップのもう1人はヘザー・マクレイ。ブロードウェイではその後久しく観なかったが、2008年の『A Catered Affair』に出演していた。

The Chronicle of Broadway and me #32

★1992年5月~6月(その6)

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『Crazy For You』(@Shubert Theatre 5月29日20:00)のロングランは約4年。その間に(ブロードウェイ版だけで)11回観ている。基本、より多くの作品を観たいと思うので、同じ作品を重ねて観ることはめったにないのだが、『Chicago』と並んで例外的に複数回観ている作品。大好きだった。
まずは、観劇当初に書いた感想の作品概略部分を。

<『Crazy For You』は、アイラ(作詞)&ジョージ(作曲)・ガーシュウィン兄弟による1930年開幕の『Girl Crazy』の改訂版リメイク。
①1930年代という時代設定、②主人公がニューヨークから田舎町(旧作アリゾナ州カスターヴィル→新作ネヴァダ州デッドロック)にやって来てショウを開く、③そしてその町の女性と恋に落ちる、といった点を踏襲していて、基本的にはユーモラスでロマンティックな、典型的なミュージカル・コメディ。この新作の“売り”は、そのオールド・ファッションドな枠組みを使って、ガーシュウィン兄弟の名曲と、タップをふんだんに盛り込んだ粋で華やかなダンスを、たっぷり聴かせ、見せるところにある。

ガーシュウィン兄弟の曲は、元々あった6曲(「Bidin’ My Time」「Embraceable You」「I Got Rhythm」「But Not For Me」等)に、未発表だったりして知られていなかった4曲、昨シーズン(1990/1991)のリヴァイバル公演は討ち死にした1926年のOh, Key!』の「Someone To Watch Over Me」、ジョージ・ガーシュウィン最期の年のフレッド・アステア映画2本、ジンジャー・ロジャーズとの『Shall We Dance?』(踊らん哉)及び、ジョージ・バーンズ、グレイシー・アレンと組んだ『A Damsel In Distress』(踊る騎士)から7曲(「They Can’t Take That Away From Me」「I Can’t Be Bothered Now」「Nice Work If You Can Get It」等)他を加え、質量共に充分すぎるほど。
タイトルを記したものからもわかる通り、スタンダード・ナンバーとして知られている曲も多数ある。

そしてダンス。結局このショウはトニー賞のベスト・ミュージカルに輝くのだが、同時に振付でもトニー賞を獲得する。それが充分に納得できる、アイディアに満ちた素晴らしいダンス・ナンバーが次々に登場。>

……と、これが1992年5月に初めて観た後で書いた感想の前半部分。続いて、ブロードウェイ最終公演(1996年1月7日20:00)を観た後に書いた詳細なレポート。

<ここでお断わりしておくが、『Crazy For You』には無駄なシーンが一つもないのである。ショウ場面を見るために、メロドラマの部分を忍耐する必要がない。
ショウ→スケッチ→ショウ→スケッチ→ショウ
という具合に、ヴァラエティ風につながり、しかも、結局はちゃんとドラマになっているのが、ミソだ。

実は、この文章は、映画『The Band Wagon』(邦題:バンド・ワゴン)について小林信彦氏が書いた文章(「われわれはなぜ映画館にいるのか」晶文社→「映画を夢みて」筑摩書房)の作品タイトル部分を入れ替えただけのものなのだが、これが『Crazy For You』の特長をほぼ言い当てている。
「ショウ」というのはもちろんソング&ダンスの場面。「スケッチ」というのは、例えばランダムハウス英和大辞典を見ると「(ボードビルなどのユーモラスな)短い劇、寸劇」とある。『Crazy For You』には、この二つ以外の要素は全くと言っていいほどない。

ストーリーを要約すると、1930年代、ニューヨークで銀行を経営する母親の元にあってダンサーへの夢を捨て切れず、ブロードウェイの大プロデューサー、ザングラーに売り込みを繰り返している不肖の息子ボビーが、母親の命を受けてネヴァダ州のちっぽけな町デッドロックにある古い劇場を差し押さえに行き、劇場の所有者の娘ポリーに恋してしまう話。

第1幕。
前述のような事情でネヴァダに向かったボビーが、ポリーに恋したあげく、件の劇場でショウを開いて抵当権を買い戻そうと提案するが、差し押さえに来た銀行の人間だという正体がバレてフラれたため、ザングラーに化け、ブロードウェイから旧知のテス率いるザングラー・ガールズを呼び寄せて再度デッドロックに乗り込む。
で、ポリーに横恋慕する宿屋主人ランクの横槍や、望まざる婚約者アイリーンの突然の来訪、男性ダンサー(デッドロックの男たち)の出来の悪さを乗り越えて、なんとかショウを仕立て上げるものの、宣伝不足で客が一人も来ない。
責任を痛感するザングラー(実はボビー)に、こんなにデッドロックの人間たちをいきいきさせてくれた、とポリーが礼を言う。そこに本物のザングラーが惚れてるテスを追って人知れず到着する。

第2幕。
ポリーは偽ザングラーに恋してしまうが、本物のザングラーの出現でボビーの二役だったとバレる。余計に気分を害したポリーだが、劇場明け渡しの期日も迫っていた。
もう一度ショウに挑戦して劇場を取り戻そうとボビーが提案し、怒っていたはずのポリーは乗るが、町のみんなやガールズはあきらめ気分。
万策尽きたボビーはニューヨークに帰る。ところが今度は本物のザングラーが、テスの願いもあってプロデュースを買って出る。
一方ニューヨーク。抜け殻のようなボビーを元気づけようと母親が誕生日にプレゼントしたのは、ブロードウェイのザングラー劇場。ザングラーが劇場を手放した理由(ショウのための資金作り)に気づいたボビーはデッドロックへ急ぐ。
その頃デッドロックではボビーのアイディアによるショウが大ヒット中。ところが主役のポリーはボビーへの思い断ちがたく、ニューヨークへ。あわや二人はすれ違いか、というところから一気にハッピー・エンドへ。

第1幕11景、第2幕6景の構成だが、この内、歌もダンスもないのはわずか3景。しかも、いずれも短い。順を追って簡単にミュージカル・ナンバーを挙げる(曲目の後のは盛り上がり度と言うかショウ場面としての規模を示す)。

[第1幕]

第1景。
「K-ra-zy for You」
大プロデューサー、ザングラーを強引に説得して舞台裏でオーディションを受けるボビーのソロ・タップ。観客への軽い挨拶といったところ。

第2景。
「I Can’t Be Bothered Now」★★★
ボビーと、なぜか自動車の中から次々に現れる女性ダンサーたちのユーモラスで華麗なタップ・ダンス。女性ダンサーはボビーの幻想の中の存在で、第2幕終盤に再登場する。

第3景。
「Bidin’ My Time」
ポリーとデッドロックの男たち(オリジナル・キャストではマンハッタン・リズム・キングズというトリオ)の、のんびりした歌。
「Things Are Looking Up」
ボビーがポリーに一目惚れして歌う心の中の歌。

第4景。
「Could You Use Me?」
口説くボビーと戸惑うポリーの掛け合いの歌。ボビーが迫りポリーが逃げるアクションが次第に早くなり、次のナンバーにそのままつながる。ボビー役がアクロバティックな動きを垣間見せる。

第5景。
「Shall We Dance?」★★★歌はボビーのソロだが、ボビーとポリーによるアステア&ロジャーズ張りの長いデュオ・ダンス・ナンバー。2人の高まる想いがダンスでわかる。

第6景はミュージカル・ナンバーなし。

第7景。
「Entrance to Nevada(Stairway To Nevada/Bronco Busters/K-ra-zy for You)」★★
ネヴァダの地平線に横一列に並んだシルエットで現われるザングラー・ガールズ。デッドロックの町に入るや一斉に踊り始める。翻弄される町の男たち。そこに現われるザングラーに変装したボビー。ダンスのフィニッシュは山のように積み上げたトランクの上に立って見栄を切るボビー。
「Someone to Watch Over Me」
劇場を救ってくれると言う頼もしいザングラー(ボビー)にほのかな恋心を抱いたポリーの歌。

第8景はミュージカル・ナンバーなし。ただし、ここでギャグとして使われる振付練習の動きが次の景で本当のダンスとして出てくる。

第9景。
「Slap That Bass」★★★
町の男たちのダンスの質がひどく、クサるボビーだが、1本のベースがきっかけでリハーサルが盛り上がる、という長いナンバー。ロープを弦に、ガールズをベースに見立てたアイディアを初めて観た時には息を呑んだ。
「Embraceable You」
チーク・ダンスを踊りながら、ポリーが偽ザングラーに熱い想いをユーモラスに告白する。

第10景。
「Tonight’s the Night」
初日開演前の楽屋で準備しながら、いよいよ本番だ、とみんなで歌う。途中に、ボビーがザングラーに化けていることから来る誤解のギャグがいくつか挟み込まれる。

第11景。
「I Got Rhythm」★★★★
観客が1人も来ず責任を感じる偽ザングラーのボビーに、ポリーは、みんながこんなに明るくなったのはあなたのおかげ、と励ます。歌と踊りの輪が広がり、町中お祭り騒ぎになる。様々な小道具が登場。全編中最もアイディアの詰まった、最も長いナンバー(オリジナル・キャストCDで見ると7分34秒ある)。

[第2幕]

第1景。
「The Real American Folk Song(is a Rag)」
ランクの宿屋のサルーンで(オリジナル・キャストではマンハッタン・リズム・キングスが)ジャグ・バンド演奏。
「What Causes That ?」★★
真ザングラーと偽ザングラー(ボビー)が共に酔っぱらい、シンクロした動きで大いに笑いをとった後(『Lend Me A Tenor』『Moon Over Buffalo』でも観られる脚本家ケン・ラドウィグの得意技)、ユーモラスなアクションを見せながら歌うデュオ・ナンバー。

第2景。
「Naughty Baby」★★
ボビーを追ってやって来た欲求不満の婚約者アイリーンが、町の男たち4人を従えて、フェロモン全開でランクに迫る“艶笑”ナンバー。女が男に馬乗りになるのは振付スーザン・ストロマンのお気に入りスタイル。

第3景。ミュージカル・ナンバーなし。セット替えのための短い幕前芝居だが、それを思わせないアイディアがある。

第4景。
「Stiff Upper Lip」★★★
劇場に集まって今後のことを話し合うみんなを励ますためにイギリス人旅行者カップルが歌い始める人生の応援歌。やがて全員のタップ・ダンス合戦に突入。最後は椅子のバリケードが出来上がって旗が振られ、『Les Miserables』状態に。
「They Can’t Take That Away from Me」
デッドロックを去ることにしたボビーが未練いっぱいでポリーに歌いかける傷心のバラード。
「But Not for Me」
ボビーを引き止めなかった自分を悔いるようにポリーが歌う傷心のバラード。

第5景。
「New York Interlude」
ニューヨークの街角を行き交うオシャレな男女のファッション・ショウのような動き。
「Nice Work If You Can Get It」★★★
第1幕第2景で登場した幻想の女性ダンサーたちと再び歌い踊るボビー。今度はタップなしの抑えた調子。ダンサーたちが消えた後のボビーの長いソロ・ダンスは、主役最大の見せ場。

第6景。
「Bidin’ My Time(French Reprise)」
新装なったランクのサルーン前で(マンハッタン・リズム・キングスが)フランス語で第1幕第3景のナンバーをテンポ・アップして歌う。
「Finale」★★★★
デッドロックに戻ったボビーに町のみんなが「Shall We Dance」を歌いかけ、次いで花嫁姿のポリーとボビーが流麗な調子の「I Got Rhythm」に乗って踊り始める。背景のデッドロックの町は消え、舞台上はジーグフェルド・フォリーズ風の華やかなステージに早変わり。ボビーとポリーが踊っていた舞台中央部分の床がゆっくりとせり上がり、孔雀のように着飾ったショウ・ガールズが2人を彩るように次々に現われ、踊り終えた主役2人がポーズをとって、幕。
すぐにオーケストラ演奏が始まり、カーテン・コール。テンポの速い「K-ra-zy for You」に始まるメドレーに乗って脇役から順に出てきて挨拶。ポリー、ボビーと出てきたところで演奏がゆったりした「Embraceable You」に変わり、全員が歌いながらそれぞれペアを組んで踊る。歌詞の最後の“you”をきっかけにいきなりテンポ・アップして曲は「I Got Rhythm」に。第1幕第7景と同じようにザングラー・ガールズが横に並んで登場、威勢よくタップが始まる。他のキャストもそれに加わり、最後は全員が横一線になってのタップの嵐で再び幕。

ね、見せ場が多くて退屈してる暇がないでしょ。おまけに、隙間を埋め尽くすようにケン・ラドウィグの仕込んだギャグが炸裂するから、楽しいことこの上ない。細かい辻褄なんて、まるで気にならない。(中略)そう言えば、日生劇場で四季版を観た時(1997年2月22日)、帰りに前を歩いていたカップルがフィナーレについて、「なぜあの町が突然あんなショウのステージに変わるのかわからない」と言っていて、ああ、この人たちとは永遠に友達になれないなと思ったりしたものだ。>

#25でも書いたが、振付家スーザン・ストロマンの出世作。このところ何度もご登場いただいているフランク・リッチ(当時のニューヨーク・タイムズ劇評担当)は、ストロマンを「トミー・テューン以降で、ブロードウェイにやって来た最も想像力に富む新しい振付家」と言い、「アメリカのレパートリーの中で最も親しまれ愛されている歌を、まるで昨日作られたもののように、聴かせ、見せてくれる。」と絶賛している。
演出のマイク・オクレントは#6で書いた『Me And My Girl』の、ロンドンとブロードウェイ両方での演出家。
特筆すべきは脚本家ケン・ラドウィグ。上記引用部分でも触れたが、この作品の前に『Lend Me A Tenor』、後に『Moon Over Buffalo』というプレイで当たりをとるコメディの名手。
主演のハリー・グローナーは演技もダンスも軽快。彼なくしては、この作品は成立しなかっただろう。