The Chronicle of Broadway and me #121(Moon Over Buffalo)

19966月@ニューヨーク(その3)

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『Moon Over Buffalo』(6月26日20:00@Martin Beck Theatre)は、後に『バッファローの月』という邦題で翻訳上演もされたコメディ。『Crazy For You』の脚本家ケン・ラドウィグの新作ってことで観た。以下、当時の感想。

<文字通りのバックステージ・コメディ『Moon Over Buffalo』は、“ドア芝居”と呼ばれるところの、舞台に人物を出し入れするタイミングが笑いの元になるファースで、ギャグの洪水。主演のキャロル・バーネット(チャーミング!)、フィリップ・ボスコをはじめとする出演者もみなうまく、心から楽しんだ。

1953年、ニューヨーク州バッファロー(ナイアガラの南)にあるアーランガー劇場。公演中のレパートリー劇団のスターはヘイ夫妻(ボスコ&バーネット)。リハーサルをやっているが、どうもサエない。さて舞台裏。ヘイ氏の若い劇団員との浮気が発覚。相手は妊娠しているという。ヘイ夫人は怒って、ずっと言い寄られていた後援者(だと思う)と出ていく。自棄になったヘイ氏は止められている酒をがぶ飲みしてメロメロに。そこに、映画監督フランク・キャプラが次作の主演選びのために夫妻の芝居を観に来るという情報が入る。業の深い役者のこと、夫妻はなんとか再び一緒に舞台に立つところまでは寄りを戻す。妊娠した劇団員の代わりを務めるのが、両親の元を離れていた夫妻の娘ロザリンド。婚約者を紹介するために戻ってきたばかりなのだが、早くもかつて恋人だった舞台監督との仲が再燃しそうな気配。あたふたしている内に、さあ開演時間が迫ってきた……。

楽屋には、外の路地から入ってくる楽屋口の他に、舞台から下りてくる階段、やはり舞台につながっているらしい出入口が2つ、計4つの“ドア”がある。で、例えば、久しぶりに帰ってきたロザリンドが両親を捜して出入口の1つから消えると別の出入口から親たちが現われるといった具合に、会わなくちゃいけない人が会わなくちゃいけない時に限って会えないという状態が繰り返され、それが積もり積もって事態が複雑になっていく。
典型的なのがロザリンドの婚約者。ロザリンドが両親に事情を説明する機会を見つけられないおかげで、わけのわからない扱いを受ける。まず、楽屋口まで来ていながら、きちんと紹介するから後からもう一度来てくれとロザリンドに言われる。出直してくるとヘイ夫人がいて、ファンと間違えられサインを渡されて追い返される。再度戻ってくるとやはりヘイ夫人がいて、今度は偏執狂かと疑われ警戒される。その次に来た時には、キャプラだと勘違いされて下にも置かないもてなしを受けてしまう。
観客には、そうした事情のほとんどが見えているから、ハラハラしながら笑ってしまうわけだ。
そんな風に混迷を深めていく状況の中で、追いつめられながらも機関銃のようにしゃべり続ける登場人物たちのセリフは、ダジャレや下ネタまでを含んで、ことごとくギャグになっていく。100%“笑わせてなんぼ”の世界だ。登場人物当人たちは笑っている場合じゃないのだが。
かくして劇場内は笑いの渦、となるわけだが、とりわけ印象深かったのは、第1幕最後に見せたキャロル・バーネットの卒倒の演技。まっすぐ立ったその姿勢のまま、突然後ろにヒューッと倒れていくのだ(床にぶつかる直前に両脇の役者が受けとめるのだが)。紛れもないスラップスティックの伝統! 年季の入り方が違います。
他の役者では、フィリップ・ボスコのとぼけ具合も見事だったが、ロザリンド役のランディ・グラフのコメディエンヌ振りが実に達者で魅力的。彼女が脇にいるおかげで舞台の格がワンランク上がったと思う。
ところで、今回のニューヨーク行きの前(6月16日)に、加藤健一事務所による『Rend Me A Tenor』 (邦題:レンド・ミー・ア・テナー)を本多劇場で観た。ケン・ラドウィグの出世作だが、アメリカの小さな街の劇場が舞台、大切な公演を前にトラブルが積み重なっていくという展開、’30年代と’50年代の違いはあるがノスタルジックな雰囲気、“ドア芝居”など、『Moon Over Buffalo』と似た要素がたくさんある。そしてなにより、ショウ・ビジネス世界への深い愛情が底に流れているということが共通の魅力になっている。そういったことは『Crazy For You』にも当てはまるな、と改めて考えた。>

ロザリンドの婚約者のところで「偏執狂」と書いているのは「ストーカー」という言葉が流通していなかったからだろう。
いずれにしても、細かいギャグはわかっていなかったはずで、それでも笑えたのだから、脚本、演出(トム・ムーア)、演技が合体したコメディとして、かなり面白かったということだ。
こうしたコメディは別にして、ケン・ラドウィグ脚本のミュージカルは、この後、2001年に『The Adventures of Tom Sawyer』が登場する。ケン・ラドウィグ、御年69歳(2019年現在)。お元気な内に、もう1本ぐらいお願いしたい。

[My Favorites] 『The Band Wagon』Original Motion Picture Soundtrack(CD)

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ツイッターで、フレッド・アステア生誕120年絡みなのだろう、映画『The Band Wagon』の名場面の動画が回ってきたので、旧サイト正式立ち上げの日にアップした下の文章を読み直しながら、当該CDを久しぶりに聴いてみようと思ったら、なぜか見当たらない。同じシリーズの『Hit The Deck』とか無駄に2枚もあるのに。
いずれにしても、その旧サイトも、このブログも、同作品にちなんで名前を付けさせてもらっているので、その22年前の文章をアップしておきます。タイトルは、「アステアの未公開シーンを見せてくれ」

<ライノ・レコーズがリリースしている映画音楽シリーズの1つとして昨年登場した、1953年のMGMミュージカル映画『The Band Wagon』(邦題:バンド・ワゴン)のサウンドトラック盤。
と言ってもライノだけに、過去に出ていたサウンドトラックとは比べものにならない“超”コンプリート盤。サウンドトラック全曲に、アウトテイクが4曲、弾き語りのデモが2曲加えられている。

アウトテイク4曲は、撮影されながら編集時にカットされたショウ・ナンバーの“ほぼ”全てのサウンドトラックで、以下の通り。

「Sweet Music」
ナネット・ファブレイ、オスカー・レヴァント

「You Have Everything」
ザ・MGMスタジオ・オーケストラ

「Got A Bran’ New Suit」
ナネット・ファブレイ、フレッド・アステア

「Two-Faced Woman」
インディア・アダムズ

この内、「Two-Faced Woman」の映像は映画『That’s Entertainment! Ⅲ』で公開されている。シド・チャリースが女性ダンサーたちを従えて踊るナンバーで、劇中で失敗に終わる現代版ファウストのリハーサル・シーンとして撮影された。この映画のチャリースの歌は全曲インディア・アダムズの吹き替え。

「Sweet Music」はファブレイ、レヴァントの楽曲作家夫妻が上演に向けて、出資者たちの前で披露する1曲。レヴァントお得意のピアノ・テクニック発揮の場らしい(これは見られなくても、まあいい)。

問題は残る2曲。いずれもアステアのダンス絡みのナンバーだ。

「You Have Everything」は、アステアとチャリースが偶然隣り合わせの部屋でリハーサルをするというシーンで使われる、ジャズ調とクラシック調が交互に表れる曲。左の部屋でアステアが、右の部屋でチャリースが踊るのを一度に見せるというこのナンバー、どんな振付だったのだろう。

そして「Got A Bran’ New Suit」。ファブレイがレヴァントのピアノ伴奏で歌って聴かせた曲を、アステアが劇場のそこここでリハーサルしながらソング&ダンス・ナンバーとして仕上げていく、という実に興味深いもの。
この曲、劇中でも結局カットされてアステアが落ち込む、という設定だったらしいのだが。

後の2曲の映像は、なんとしても公開してほしい。
同じシリーズでCDが出ている『Ziegfeld Follies』にもアステアのアウトテイク「If Swing Goes, I Go Too」が収録されているし、この辺は映像が残っているんじゃないでしょうか。
『That’s Entertainment! Ⅲ』では、ヒットしなかった『The Belle Of New York』から「I Wanna Be A Dancin’ Man」の別テイクが公開されたぐらいなんだから(素晴らしいナンバーでしたが)。

ところで、先に、収められたアウトテイクが「カットされたショウ・ナンバーの“ほぼ”全て」と書いたのは、本編に残った「The Girl Hunt Ballet」の一部として撮影されたというアステアとチャリースの電話を使ったダンス・ナンバーもアウトテイクになっているからだ。
このシーンも観たいなあ。

ちなみに、最後にボーナス・トラックとして付け加えられた2曲のデモを弾き語っているのは、MGMの音楽監督だったロジャー・イーデンス。このデモ版の「That’s Entertainment!」もなかなか味わい深い。ぜひご一聴あれ。

以上、参考文献はジョン・ミューラー著「Astaire Dancing The Musical Films」でした。>

★from WEBsite Misoppa’s Band Wagon(5/1/1997)

上記の未公開シーンの内、その後公開された映像があることをごぞんじでしたら、ぜひご教示ください。と言いつつ、「You Have Everything」の映像を観たことがある気がするんですが、夢の中ですかね。

 

The Chronicle of Broadway and me #120(Cowgirls)

19966月@ニューヨーク(その2)

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『Cowgirls』(6月23日19:00@Minetta Lane Theatre)は、当時の感想によれば、<カントリー・ミュージックの酒場を舞台に、芸達者の女優たちが自分たちで楽器を演奏し、歌いまくる、楽しいミュージカル。>ってことで、以下続き。

<カンザス州にあるカントリー・ミュージックのライヴ・ハウス、ハイラム・ホールの舞台にいるのは3人の女性、リタ(ピアノ)、リー(チェロ)、メアリー・ルー(ヴァイオリン)。彼女たちがおもむろに演奏を始めたのは格調高いベートーヴェンのソナタ。驚いたのは経営者のジョーと、舞台に立つのを夢見ながら働いている従業員のミッキーとモー。“カウガールズ”という名前のカントリー・バンドを雇うつもりだったジョーが、よく似た名前のクラシック・トリオを呼んでしまったのだ。
ということになれば、後はご想像の通り。ぎくしゃくドタバタしながらもトリオは“カウガールズ”として舞台に立ち、カントリー・バンドとして成功する。

女性ばかりが歌って演じて楽器を演奏するというのは、昨年6月15日に観た『Swingtime Canteen』と似ている。と思っていたら、その舞台でバンジョーとサキソフォンを演奏していたジャッキー・サンダーズがミッキー役で登場して、ここでもバンジョーを弾いてみせた。
楽器演奏のうまさで言えば、まずはピアノ弾きリタ役のメアリー・アリンガー。クラシックからブルーズまで見事に弾きこなすが、中でも、第2幕2曲目のブギウギ・ナンバーでの超絶テクにはシビレた。全編を通して演奏もキャラクターもノリがよく、コメディ・リリーフとして舞台を支える。妊娠8か月という設定なのだが、このミュージカルを最初に地方劇場で演じた時には本当に妊娠8か月だったという。
ヴァイオリニスト、メアリー・ルーに扮するメアリー・マーフィットはマンドリンやギターやハーモニカもこなすマルチ・ミュージシャン。このミュージカルの作曲・作詞者にして発案者でもある。クラシック・アーティストの誇りにこだわって、なかなかカントリー・ミュージックに馴染まないというお堅い役柄だが(すぐに緊張して硬直したり、ラヴェルの曲だかを聴くと身悶えたりするのがおかしい)、もちろん結局はカントリー的演奏も見事にこなす。しかも第2幕中盤では、ギターを抱え、エルヴィスやジーン・ピットニーの物真似を交えた派手なアクションでホットなロカビリー・ナンバーを歌ってみせて大受け。ショウストッパーになった。
トリオの残る1人、リー役のロリ・フィッシャーもチェロの他にギターを弾く。歌もうまい。彼女の役柄は陽気なレズビアン。
この3人のコーラス・ワークが、練れていて素晴らしい。
モー役ベッツィ・ハウィーはミッキーのバックでジャグ・バンド系のパーカッションやハープなどを演奏し、コーラスを付ける。この人が脚本も書いている。脚本については、マーフィットがシアター・ウィーク誌のインタヴューで、最初は友人の男性に頼んだのだが女性の描き方があまりにステロタイプだったので断わった、と語っている。そのことと無関係ではないと思うのだが、この舞台全体に、男性中心社会に対する愛憎半ばのややメランコリックな感情が流れているように思えた。
もう1人、スター格のジョー役ロンダ・クーレットは凄みのあるハスキー・ヴォイスで渋い歌を聴かせる。

楽曲では、第1幕最後にみんなで歌い上げる、モーツァルトのメロディを織り交ぜたバラード「Looking For A Miracle」が、見え見えの“泣き”が入っているのがわかってもグッと来て印象に残る。同じ傾向でメアリー・ルーを励まそうとリーとリタが歌う「Don’t Look Down」も、わかっちゃいるけど、のうまい作り。>

役者が演技同様、様々な楽器を達者にこなすというのが彼の国では“普通”のこと、という典型例。

 

The Chronicle of Broadway and me #119★(1996/Jun.)

19966月@ニューヨーク(その1)

19度目のブロードウェイ(40歳)。

1996年の社会的事件は、国内では、オウム真理教の解体へ向けての動き、薬害エイズ事件の責任追及問題、銀行の破綻や再編、といった事項が目立つ。
政局は、自民社会さきがけ連立内閣の変動(村山内閣退陣→橋本内閣発足)から民主党結成へと流れている。日本社会党は党名を社会民主党に変更。
そんな中、まだ橋本内閣の厚生大臣だった菅直人が薬害エイズ事件で血友病患者に直接謝罪したのは、民主党結成に向けてのパフォーマンスだった可能性もあるが、そうだとしても、現安倍政権の閣僚たちの酷さと比較すると信じられないぐらい誠実に見える。
携帯電話・PHSの契約者数が急増した年でもあるらしい。2月に発売されたゲームボーイ用「ポケットモンスター赤・緑」によりポケモンが世に出たのも、この年。11月には「たまごっち」が発売されている。
パフィがデビュー。ってことは、個人的には、この年辺りを境に数年遠ざかっていた新しい音楽を再び聴き始める感じか。
ミュージカルでは、宝塚歌劇版『エリザベート~愛と死の輪舞~』の雪組による初演がこの年。

アメリカでは11月にクリントンが大統領選で再選。
7月のアトランタ・オリンピック開催直前に、ニューヨーク沖でトランスワールド航空機が爆発、墜落する事故が起こっている。原因は、直後に疑われたようなテロではなく、電気配線のショートによる燃料への引火とされている。

その事故の少し前に訪れたニューヨーク。観劇タイトルは次の通り。

6月23日 19:00 Cowgirls@Minetta Lane Theatre 18 Minetta Lane
6月24日 20:00 Curtains@John Houseman Theatre 450 W. 42nd St.
6月25日 20:00 Bring In ‘Da Noise, Bring In ‘Da Funk(Noise/Funk)@Ambassador Theatre 215 W. 49th St.
6月26日 14:00 How To Succeed In Business Without Really Trying@Richard Rodgers Theatre 226 W. 46th St.
6月26日 20:00 Moon Over Buffalo@Martin Beck Theatre 302 W. 45th St.
6月27日 20:00 Pilobolus Dance Theatre@Joyce Theatre 175 8th Ave.

前回からひと月半ほどの間隔で飛んだのは、1つには『Crazy For You』の脚本家ケン・ラドウィグの新作『Moon Over Buffalo』を観るためだが、仕事上の仲間たちのニューヨーク熱が高まって、その案内役を買って出た感なきにしもあらず。なので、オンのミュージカル2本を彼らと一緒に再見。
残り3本の内、ミュージカルはオフの『Cowgirls』のみ。『Curtains』はイギリス産のブラック・コメディ、『Pilobolus Dance Theatre』はその名のダンス・カンパニーの公演。
結果、地味めのラインナップとなったが……。以下、個別の感想に続く。

 

 

Last Stop On Market Street@Linda Gross Theater(336 W. 20th St.) 2019/03/30 10:30

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『Roald Dahl’s James And The Giant Peach』と同じ、アトランティック・シアター・カンパニーによる子供のための演劇シリーズ「Atlantic For Kids」の1つ。

『Last Stop On Market Street』の原作は、『おばあちゃんとバスにのって』のタイトルで邦訳も出ている、マット・デ・ラ・ペーニャ(著)、クリスチャン・ロビンソン(画)による絵本。こちらで話題になった、ダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包括)について子供の視点で考える、というのがテーマで、自分の周りだけの小さな世界に閉じ籠もりがちだった少年が、おばあちゃんに連れられて様々なところに出向き、様々な人々と出会い、少しずつ世界のことを理解していく話になっている。

実は、そのことは知らずに観た。「Atlantic For Kids」のシリーズは土日の午前中という、他の公演がない時間に上演されるので、タイミングが合えば観るのだが、それとは別にこの演目を選んだ理由は、「A Hip Hop Musical」というサブタイトルと、楽曲作者のラモント・ドジャーという名前にある。
ラモント・ドジャー。ブロードウェイで上演中の『Ain’t Too Proud』にも登場するザ・スプリームスを筆頭に、黄金期のモータウンに数多くの楽曲を提供した3人組、ホーランド=ドジャー=ホーランドの1人だ。今回は息子のパリス・ドジャーとの共作。
今回、驚くような楽曲はなかったが、子供たちを飽きさせない楽しい仕上がり。その辺りは、ディズニー系でも仕事をしているパリスの功績かも。

振付のニチ・ダグラス(綴りが変わっていて、nicHi douglas)がこれから面白そう。『Be More Chill』のステファニー・シューも参加している「Political Subversities」というグループの一員のようだ。

Smart Blonde@Theater B/59E59(59 E. 59th St.) 2019/03/30 19:15

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ジュディ・ホリデイは日本でどのぐらい知られているのだろう。ミュージカル好きなら『Bells Are Ringing』の舞台・映画両方で主演したことはごぞんじかと思う。
同作の作詞・脚本を担当したベティ・コムデン&アドルフ・グリーンと組んで、若い頃グリニッチ・ヴィレッジのクラブでショウをやっていたことやなんかはどうだろう。自分の場合はコムデン&グリーンについて調べていて知ったんだっけか。この3人の友情は、ホリデイが1965年6月、44歳を目前に乳ガンで亡くなるまで続く。
そもそも『Bells Are Ringing』自体が、コムデン&グリーンがホリデイのために書いた作品だったはず。電話交換手を主人公にしたのは、それがホリデイが最初に就いた職業だからだったと思う(要考証)。彼女は、オーソン・ウェルズとジョン・ハウスマンが運営していたマーキュリー劇場の電話交換手だった。奇しくも、今回の渡米でこの作品の翌日に観た『The Cradle Will Rock』とのつながりが見えてくる。その辺りの人間関係から、後に共産主義との関わりが取り沙汰され、政府筋から取り調べを受けることにもなるのだが。

『Smart Blonde』というタイトルが秀逸。おそらく、ホリデイが出世作『Born Yesterday』で演じたヒロイン、ビリー・ドーンのイメージから来ていると思われる。
無学なショウ・ガールだったビリー・ドーンが教養を身につけて、愛人である資本家の不正を暴くことになる、というのが『Born Yesterday』の大筋。そのビリーの髪がブロンド。
同作は、1946年のブロードウェイ版が3年近いロングラン、1950年の映画版もヒットし、両方に出演したホリデイは後者でアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
ブロンド=無学、というイメージがアメリカ人にとって一般的なものかどうか、はっきりとは知らない。が、1953年の映画化の際にマリリン・モンローが軽薄なブロンド娘を演じた『Gentlemen Prefer Blondes』(邦題:紳士は金髪がお好き)の原作小説は1925年の発表。その頃すでに、そうしたイメージがあったのだろう(ちなみに1949年のブロードウェイ・ミュージカル版のこの役はキャロル・チャニング)。加えて言えば、そのモンローも、モンローとほぼ同じ時代にセックス・シンボル的な立ち位置で活躍したジェイン・マンスフィールドも、わざわざ髪をブロンドにしている。「dumb blonde」という言葉があるぐらいで、少なくとも一部の人間は、ブロンド=無学という偏見を抱いていると思われる。
「smart blonde」は正にその逆。無学と見られているが実は賢い金髪。それがジュディ・ホリデイのイメージというわけだ。そう言えば、劇中に一瞬モンローも出てきて、ホリデイと親しげに言葉を交わす。

この舞台では、その賢い金髪が生きづらい時代をどう乗り切って生きたのかが描かれている。映画会社幹部のパワハラ×セクハラを振り払い、赤狩り時代の政府筋からのプレッシャーをはねのけ、苦い離婚を乗り越えていった姿から、勇敢な女性だと見られているが、実は繊細で傷つきやすい人でもあった、というホリデイ像が、演じているアンドレア・バーンズ(『In The Heights』『On Your Feet!』)のキャラクター・イメージと掛け合わさって魅力的。
加えて、主人公以外の多数の人物を熟達した3人の役者が見事に演じ分けていく演出が面白い。しかも、時代も場所も行ったり来たりで、複雑な構成。にもかかわらず、わかりやすく効果的なのは脚本の手柄でもあるだろう。出演/マーク・ロティート、アンドレア・ビアンキ、ジョナサン・スパイヴィ、演出/ピーター・フリン、脚本/ウィリー・ホルツマン。
最初に登場する場所がレコーディング・スタジオで、ここが基点となって何度もここに戻ってくることもあり、気分転換のように歌が入るのも好ましい。ただし、『Bells Are Ringing』のナンバーは歌われない。ジュディ・ホリデイが、亡くなるまで恋人だったジェリー・マリガンと共作した「It Must Be Christmas」が心に沁みる。

[Tony2019] トニー賞受賞予想

旧サイトで毎年やっていたトニー賞受賞予想です。授賞式1か月前になったので公開します。
その旧サイトに倣って言えば……トニー賞は興行成績に直接影響が出るのでプロダクション側にとっては重要だけれども、選考には政治的判断による偏りもあるので、観客である我々にとっては“話のタネ”に過ぎません。必ずしも作品選びの基準にはならないことも、心に留めておいてください。
……という訳で、授賞式(現地時間6月9日夜)までの“話のタネ”としてお楽しみください。

現地時間4月30日朝に発表された2018/2019年シーズンのミュージカル関係トニー賞候補と受賞予想は次の通り(マークのニュアンスは、本命=審査員が投票しそう、対抗=案外これが獲るかも/獲ってくれないかな、といった感じ)。

[作品賞]
Ain’t Too Proud
Beetlejuice
Hadestown 
The Prom 
Tootsie
[リヴァイヴァル作品賞]
Kiss Me, Kate 
Oklahoma!
[主演女優賞]
Stephanie J. Block The Cher Show
Caitlin Kinnunen The Prom
Beth Leavel The Prom 
Eva Noblezada Hadestown
Kelli O’Hara Kiss Me, Kate
[主演男優賞]
Brooks Ashmanskas The Prom 
Derrick Baskin Ain’t Too Proud
Alex Brightman Beetlejuice
Damon Daunno Oklahoma!
Santino Fontana Tootsie 
[助演女優賞]
Lilli Cooper Tootsie
Amber Gray Hadestown 
Sarah Stiles Tootsie
Ali Stroker Oklahoma!
Mary Testa Oklahoma! 
[助演男優賞]
André De Shields Hadestown
Andy Grotelueschen Tootsie
Patrick Page Hadestown
Jeremy Pope Ain’t Too Proud
Ephraim Sykes Ain’t Too Proud
[楽曲賞]
Joe Iconis Be More Chill
Eddie Perfect Beetlejuice
Anaïs Mitchell Hadestown 
Music/Matthew Sklar Lyrics/Chad Beguelin The Prom 
Music/Adam Guettel To Kill A Mocking Bird(play)
David Yazbek Tootsie
[編曲賞]
Michael Chorney and Todd Sickafoose Hadestown 
Simon Hale Tootsie
Larry Hochman Kiss Me, Kate
Daniel Kluger Oklahoma! 
Harold Wheeler Ain’t Too Proud
[脚本賞]
Dominique Morisseau Ain’t Too Proud
Scott Brown & Anthony King Beetlejuice
Anaïs Mitchell Hadestown
Bob Martin & Chad Beguelin The Prom
Robert Horn Tootsie 
[演出賞]
Rachel Chavkin Hadestown
Scott Ellis Tootsie
Daniel Fish Oklahoma!
Des McAnuff Ain’t Too Proud
Casey Nicholaw The Prom
[振付賞]
Camille A. Brown Choir Boy(play)
Warren Carlyle Kiss Me, Kate 
Denis Jones Tootsie
David Neumann Hadestown
Sergio Trujillo Ain’t Too Proud 
[装置デザイン賞]
Robert Brill and Peter Nigrini Ain’t Too Proud
Peter England King Kong
Rachel Hauck Hadestown 
Laura Jellinek Oklahoma!
David Korins Beetlejuice 
[照明デザイン賞]
Kevin Adams The Cher Show
Howell Binkley Ain’t Too Proud
Bradley King Hadestown
Peter Mumford King Kong
Kenneth Posner and Peter Nigrini Beetlejuice
[衣装デザイン賞]
Michael Krass Hadestown 
William Ivey Long Beetlejuice
William Ivey Long Tootsie
Bob Mackie The Cher Show
Paul Tazewell Ain’t Too Proud
[音響デザイン賞]
Peter Hylenski Beetlejuice
Peter Hylenski King Kong
Steve Canyon Kennedy Ain’t Too Proud
Drew Levy Oklahoma! 
Nevin Steinberg and Jessica Paz Hadestown

今シーズンはナショナル・シアター経由で箔を付けて戻ってきた『Hadestown』が勢いで大量受賞するのでは、という推測を元にした予想。なので大半のカテゴリーで同作を本命にした。
考えどころは対抗をどうするか、なのだが、むずかしいのが『Ain’t Too Proud』『Oklahoma!』に対する投票者の評価。
『Ain’t Too Proud』はとてもよくできているし、面白いのだが、『Jersey Boys』の二番煎じと見られる可能性も高く、どこまで評価されるかが気になるところ。『Oklahoma!』は、こちらにも書いたが、初演の価値観をひっくり返す解釈を投票者が称賛するのかしないのか。
個人的には、娯楽性、時代性、志の高さ、完成度で今シーズンの最高作は『The Prom』だと考えているのだが……。
といった辺りを判断の軸に、各カテゴリーの予想の根拠を並べてみる。

[作品賞]のポイントは、『Ain’t Too Proud』には行かないんじゃないか、という読み。理由は、前述したように『Jersey Boys』の二番煎じのように見えるから。その『Jersey Boys』の2005/2006年シーズンのミュージカル作品賞受賞自体が、既成楽曲で作られたジュークボックス・ミュージカルだっただけに異例。オリジナル楽曲を持たない作品賞受賞作ということでは1977/1978年シーズンの『Ain’t Misbehavin’』や1999/2000年シーズンの『Contact』等、前例がないわけではないが、同じタイプの(演出家も同じ)特定ミュージシャンの伝記的ミュージカルを選ぶ2度目の“異例”はない気がする。
で、本命が春に登場して印象も新鮮な『Hadestown』。対抗が高い志と娯楽性を併せ持つ『The Prom』『Beetlejuice』『Tootsie』は元が映画な分、割り引かれる可能性大。

[リヴァイヴァル作品賞]は、前述の通り『Oklahoma!』に対する評価しだいだが、評価されると判断して本命に。もちろん『Kiss Me, Kate』でも問題ない。

[主演女優賞]で意外だったのは、『Beetlejuice』のソフィア・アン・カルーソがノミネーションから外れたこと。トニー賞好みな気がしたんだが。
ともあれ、ここに限っては『Hadestown』をハズして『The Prom』の2人を推す。自然体のケイトリン・キヌナン、思い切り芝居がかったベス・リーヴェル、どちらかに獲ってほしい。

[主演男優賞]に回った(って間違いなく主演なんだけど経歴的に助演の印象が強い)ブルックス・アシュマンスカスは逆にチャンス。助演の方が競争が熾烈そうだから。この役で獲らせてあげたい。が、スターになりつつある感じのフォンタナに行く気も。
助演女優賞も含め、『Oklahoma!』を役者単位で評価するのはむずかしい。獲るんなら演出賞と一緒にまとめてか。

[助演女優賞]……と書いておいて『Oklahoma!』のメアリー・テスタを対抗にしているのは、豊富な経歴、かつ、いつも印象的なのに、トニー賞はノミネーションそのものがまだ3度目で受賞はナシ、ってのが不思議だから。本命は『Hadestown』で。

[助演男優賞]『Hadestown』のヴェテランどちらかが獲る気配濃厚。で、どちらかと言えば、という話で、より強烈な印象のパトリック・ペイジに代表してもらった。個人的には、歌にダンスに大活躍のデイヴィッド・ラフィン役エフライム・サイクスにあげたい。

[楽曲賞]は、ブロードウェイ初挑戦のアネイス・ミッチェルにまっすぐ行くか、ブロードウェイ歴10年を超える(コンビを組んで25年だそう)マシュー・スクラー&チャド・ベゲリンに行くのか。ミュージカル楽曲の技としては後者に一日の長がある。『To Kill A Mocking Bird』については授賞式前に確認してくる予定。

[編曲賞]はむずかしい。『Oklahoma!』の大胆なアメリカーナ・アレンジが評価されると面白いのだが。で、一応、本命は『Hadestown』にしておくが、実は『Ain’t Too Proud』の、ほとんど途切れることのない、物語を乗せて流れていく巧みな編曲に感心している。

[脚本賞]は、全くのオリジナル2作、『Hadestown』『The Prom』の争いと見るべきなのだろうが、『Hadestown』の脚本についてはこちらに「若干弱い」と書いたので、ここは潔くハズして、映画版とはひと味違ったミュージカルならではの仕様に仕立てて現代性も加味した『Tootsie』を推しておく。

[演出賞]は、『Natasha, Pierre & The Great Comet Of 1812』で獲り損ねたレイチェル・チャヴキンの『Hadestown』に対する多大な貢献か、『Oklahoma!』を大問題作に仕上げたダニエル・フィッシュか。ここが今シーズンのトニー賞の分かれ目。これ以外って選択肢はあるのか?

[振付賞]は、『Choir Boy』が未見だが、すんなり、普通に素晴らしかった『Kiss Me, Kate』でいいのでは? 対抗がカッコいい『Ain’t Too Proud』で。

以下、[各デザイン賞]は、もっぱら『Hadestown』を本命に、ご覧の通りに予想したが、ポイントは音響デザイン賞。編曲賞同様『Oklahoma!』の大胆な音響に対する評価がどっちに振れるのか興味津々。なお、『King Kong』に関しては特別賞がコングを作って操ったソニー・ティルダー・アンド・クリーチャー・テクノロジー・カンパニーに贈られているので、その他の賞は獲らないのではないかと考えた。

2018/2019シーズンのトニー賞授賞式は現地時間6月9日の20時からです。

上演中の作品の観どころをまとめた記事がこちらにアップされています。