The Chronicle of Broadway and me #981(Twisted Melodies: The Donny Hathaway Story)

2019年5月~6月@ニューヨーク(その3)

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 『Twisted Melodies: The Donny Hathaway Story』(6月1日15:00@Apollo Theaer)について書いた観劇当時の感想(<>内)。
 

<「ダニー・ハサウェイ・ストーリー」というサブタイトルの付いた1人ミュージカル。そっくりショウ的なものを想像していたが、意外にもアイディア満載で面白かった。

 開演前、舞台に幕はなく、ホテルの1室を模したセットが見える。屏風のように部屋の三方の壁が立っていて、その左右が三面鏡を開けた形で客席に向かって斜めに開いている。右側の壁の上手寄りに廊下に出るドアがあり、そこを入ってすぐの所にエレキピアノ。左側の壁に接してベッド。そして正面に、カーテンがかかってはいるが、その向こうは明らかに窓。
 ああ、そうか、とダニー・ハサウェイを多少は知る者として思う。ホテルの窓から飛び降りる、ハサウェイ最後の日なのだな、と。

 客電が落ち、演者(ケルヴィン・ロストン・ジュニア)がドアから入ってきてエレピの前に座り、弾き語りを始める。が、思いのほか演奏は短く、モノローグが始まる。どうやらハサウェイは精神的に追いつめられているようで、被害妄想の気がある(妄想型統合失調症と診断されたいた)。
 このまま展開していくと退屈しそうなのだが……と心配になり始める頃、あれこれ思いを巡らせていたハサウェイが、自分の音楽を聴きにきてくれる観客との関係の重要性に思い到り、目の前に観客がいるかのように(いるのだが)語りかけ始める。俄然ライヴ感が強まり、ギアが1段上がる。なるほど、そう来るのか。

 中央の壁のカーテンは早い段階で開けられるのだが、大きな窓から見える景色(高層ビル街)が、途中からハサウェイの意識の波に応じて変化し始めるのにも驚く。なにしろ、一見カネのかかっていない書き割り的なセットに見えるから。
 照明の変化も思いがけなく多彩。
 終盤になると、セットはさらに効果を発揮する。なにしろ、ハサウェイの精神の崩壊に伴って、左右の壁がいきない内側に傾くのだ。えーっ、そんなスペクタクルな舞台だったの? と思う間もなく、決定打となる幕切れが訪れる。
 ここからネタバレです。

 ハサウェイが悟りを開いたように舞台中央で正面を向き、両腕を左右に広げて立つ。そんな彼に向かって、最後まで垂直に立っていた、窓の付いた奥の壁が、ゆっくりと倒れ始める。ハサウェイの体は開いた窓の部分を通り抜けていく。それにシンクロして、背景のビル街の画像が、水平に見たものから上空から見下ろしたものに変わっていく。すると、実際にはまったく動いていないハサウェイが、窓から飛び出して、腕を翼のように広げたまま、ゆっくりと路上に落ちていくように見える。
 最後には窓から飛び降りることがわかっていただけに、そのアイディアに、オーッ! と思う。

 脚本はハサウェイを演じているケルヴィン・ロストン・ジュニア自身。演奏ぶりは、そっくりというよりは、ハサウェイの本質に迫っていく感じで、違和感はない。
 この作品は、シカゴのコンゴ・スクエア・シアター・カンパニーというところで作られていったようで、今回の舞台は、その新演出版らしい。演出は同カンパニーのデレク・サンダース。
 驚きの装置はコートニー・オニール。照明はアラン・C・エドワーズ。

 ちなみに、歌われる楽曲は次の通り。
 「I Love You More Than You’ll Ever Know」
 「She Is My Lady」
 「Ghetto」
 「Song For You」
 「Someday We’ll All Be Free」
 「Giving Up」
 「For All We Know」

 観た回の終演後、専門医によるメンタル・ヘルスについての講演が行われていた。

 なお、ケルヴィン・ロストン・ジュニアは2013年の再来日版『Dreamgirls』でジミー・アーリーを演じていたようだ。>

 この頃の定宿は123丁目にあったので、散歩がてらに観に行く気分だった。

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