On Your Feet!@Marquis Theatre(1535 Broadway) 2015/10/21 14:00

『Allegiance』との関連でアップします。観劇当時に旧サイトに書いた感想です。

<『On Your Feet!』は、サブタイトルに“エミリオ&グロリア・エステファンのストーリー”とある通り、その2人が出会って音楽業界で成功し、大事故に遭って再起不能を噂されながらも見事復活するまでの話で、ここにもう1作、『Jersey Boys』のフォロワーが現れたわけだ。

この手の作品は、例えば『Motown: The Musical』のように、結局はただの自慢話に見えたりする可能性もあって心配だったが、予想を超えて、かっちりした内容だった。グロリア一家もエミリオ・エステファンもキューバからの移民であることを軸に、全体をキューバ移民がアメリカで生き抜いていくドラマとして描いた、脚本のアレグザンダー・ディネラリスの功績が大きいだろう。
グロリアの父がヴェトナムの戦場でグロリアからの歌のメッセージを受け取るところから始まるあたりに、このドラマの根っこが見える。ヒスパニックに対する音楽ビジネスの無理解もきちんと描かれている。

グロリアがプロ歌手になることに反対する骨のある母(『In The Heights』のアンドレア・バーンズ)、グロリアを応援するユーモラスな祖母、という構図もうまい。ディネラリスの脚本ではオフのミュージカル『Zanna Don’t!』の面白さが印象に残るが、最近の話題は映画『Birdman』でアカデミー賞を獲ったことだろう。
演出ジェリー・ミッチェル (『Hairspray』『Kinky Boots』)によるスピーディな展開、振付セルジオ・トゥルージロ(『Jersey Boys』『Memphis』)による躍動的なダンスも見どころ。
楽曲は当然のごとく、出世曲「Conga」をはじめとする彼らのレパートリー。グロリアとエミリオの2人が、楽曲作者であると同時に編曲にも携わっているので、演奏は限りなくホンモノに近い(笑)。ちなみに、プロデューサーとしても、彼らの会社が名を連ねている。

劇場には、グロリア・エステファンやマイアミ・サウンド・マシーンのファンと思われる人が多く集っていたようだが、仮に彼らの音楽を知らなくても面白く観ることができる、というレヴェルの出来だと思う。>

Allegiance@Longacre Theatre(220 W. 48th St.) 2015/10/22 20:00

最近ブロードウェイ・オン・デマンドで配信された『Allegiance』の、ブロードウェイ上演時に旧サイトに書いた感想を上げておきます。

<allegiance(アリージャンス)とは“忠誠”という意味。『Star Trek』のヒカル・スールー(日本語版役名カトー)役で知られる日系アメリカ人二世ジョージ・タケイの体験を元に作られた、第二次世界大戦時に強制収容された日系アメリカ人家族のドラマだ。当のジョージ・タケイも出演、『Miss Saigon』のオリジナル・キム役だったレア・サロンガと並んで主演扱いになっている。

日本軍の真珠湾攻撃を機に、日系アメリカ人たちは財産を奪われ、過酷な環境の強制収容所に入れられる。力を合わせて理不尽な扱いに耐えていくが、やがて、日本やアメリカに対する思いの違いから収容所内で対立が生じ、家族間にも亀裂が広がっていく。
シリアスな話だが、ユーモラスなシーンも多く(この辺はジョージ・タケイの味が生きる)、適度にダンスのあるショウ場面も交えて、空気が重くなりすぎないように配慮してある。間違いなく悲劇だが、最後にはカタルシスが用意されている。

楽曲作者のジェイ・クオの作風にはロイド・ウェバー的な“歌い上げ”志向があるようで、実際レア・サロンガには、ここぞという場面でそうした歌を歌わせているが、ストーリーの起伏に合わせて、比較的ヴァラエティに富んだ曲作りをしている。
例えば、ダンス場面では時代に合わせてスウィング・ジャズ風な楽曲も登場する。一部、日本的なメロディも使われるが、それは日系人たちの生活の中での日本の歌なので、こうした素材のミュージカルにありがちな無理矢理な日本情緒の付加といった印象は受けない。
それとは別に、ジョージ・タケイ演じる“オジイチャン”の教えとして出てくる「Gaman」という、ドラマの肝になる歌があって、なるほど移民一世ならそういう考えを持つかもとは思うが、「ガ~マ~ン」と間延びした感じで歌われると、日本人観客としては妙な感じがするのは否めない。まあ、そもそも観客として想定されているのはアメリカ人なので、これは余計な感想なのだが。

いずれにしても、アメリカで成功を遂げた日系人が敢えて日本とアメリカという2つの国家に翻弄された自分たちの過去を描くその舞台に、日系の他に多くの中国系をはじめとするアジア系アメリカ人が参加しているのを目の当たりにすると、昨今の日本の国情がいかに島国的かと痛感せざるをえない。
加えて、先に観た『On Your Feet!』の内容も含め、アメリカというのは本当に移民たちの国なのだということを改めて実感するしだいだ。

残念ながら、2月14日で幕を下ろした。>

文中の『On Your Feet!』は前日に観ている。こちらの感想も併せて上げておきます。

[My Favorites]『Kiss Me Kate』(film)

KissMeKate

「ミュージカルのたしなみ/家にいながら楽しむ映像化作品(その3)」として、『The Band Wagon』『Easter Parade』に続いて、三たびMGM映画を採り上げ、ボブ・フォッシーの映画出演作と振付家への転身について、こちらに書きました。

当ブログの過去記事「[考察001]ボブ・フォッシー初期振付映画の謎を追って」の変奏ですが、角度を変えた情報も加えてあります。
また、後半のフォッシー関連映像情報に書かなかった映画以外のソフトを1つ、ここで付け加えておきます。ライザ・ミネリのTVショウ『Liza With A “Z”』。ボブ・フォッシー演出・振付。エミー賞を大量受賞した名作です。

1999年リヴァイヴァル版『Kiss Me, Kate』の感想にもリンクを貼っておきます。

「緊急事態宣言」はなんとなく解除されましたが、どうかみなさん、お気をつけて。

 

The Chronicle of Broadway and me #232(Swing!)

20001月@ニューヨーク(その4)

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Swing!』(1月4日14:00@St. James Theatre)について、「むしろ見どころは歌場面」というタイトルで旧サイトに書いた感想です。

<『Swing!』は、文字通り“スウィング”をキーワードにしたレヴュー。
昨今のアメリカでのウェスタン・スウィング熱に乗って登場したショウで、昨年の今頃の情報で音楽担当がスクァーレル・ナット・ジッパーズだと言われていた(実際には、その録音音源を1曲使用)『Contact』と、スウィング・ダンスをメインにしたショウとして真っ向からぶつかるのではないか、という予想もあったが、実際には、『Contact』はドラマ性のあるダンス・パフォーマンスで、音楽もスウィングばかりというわけではなかった。
一方、『Swing!』は、予想通りにスウィング・ダンスを中心に据えたヴァラエティ豊かなダンス・ショウだったのだが、実のところ、見どころはむしろ、歌=シンギング・パフォーマンスにあった。
まず言っておくと、この作品、“スウィング”という1点だけでつながっている舞台なので、統一感には乏しい。したがって、例えば『Fosse』のようなアーティスティックな深みはない。
ただし、個々のパフォーマンスの質は高いので、理屈抜きで楽しむには、いいショウだ。

で、見どころの歌だが。

何と言っても、アン・ハンプトン・キャラウェイ。彼女の、幅の広い、洗練された歌の芸に魅了される。
最も印象に残るのは、こちらも達者なエヴァレット・ブラッドリーとのスキャットによるかけ合いのデュエット「Bli-Blip」。レストランに入ったカップルが互いに会話を交わしながら、一方でウェイターにオーダーもするのだが、その歌詞の大半が意味のないスキャット。なのに、ちゃんとニュアンスが伝わる。しかも、歌として、そのスキャットが実にうまい(ここでチラッと使った「I Won’t Dance」を後半やはりこの2人のデュエットの中で再び使うという細かい演出もある)。
トランペット(ダグラス・オバーハマー)とのデュエット「Bounce Me Brother (With A Solid Four)」で聴かせるトランペットの音声模写も見事。
かと思えば、「I’ll Be Seeing You」や「Blues in the Night」をデュオ・ダンスのバックで、味わい深く歌ってもみせる。
元々楽曲作者としての経歴も持つ彼女は、そちらでも貢献していて、前述の「Bli-Blip」等にユーモラスな歌詞を書き足している他、共演のローラ・ベナンティのためにユニークなナンバーを書き下ろしてもいる。

キャラウェイの書いた「Two And Four」でぎこちなく登場する、そのローラ・ベナンティ。
もちろん、ぎこちなさは、彼女のちょっと堅い印象の外見を生かした演出で、アタマ打ちのリズムで歌う歌手というトロい役どころ。それを熟練ミュージシャンのケイシー・マッギールに矯正されるという設定で、楽曲タイトルの「Two and Four」は、2拍めと4拍めでリズムをとるんだよ、という意味。その教授のかいあって、アッと言う間にノリがよくなり、最後には妖艶にさえなるというオチがつく。
ベナンティには、キャラウェイのような芸域の広さはないが、「Cry Me A River」で見せるトロンボーン(スティーヴ・アーマー)との対話のようなデュエットなどは、ユーモラスで面白い。
歌手は男性が3人。前述したエヴァレット・ブラッドリー、ケイシー・マッギールと、マイケル・グルーバー。

キャラウェイと軽妙なデュエットを聴かせるエヴァレット・ブラッドリーは、キャラウェイ同様自ら曲も書く才人で、このショウにも共作者として2曲を提供。プレイビルによると複数の楽器もこなすらしい。ダンスもイケる。

ケイシー・マッギールは白人ながら、ちょっとキャブ・キャロウェイを連想されるような人で、自身の仕事ではそういうスタイルのジャンプ・ナンバーなんかをやってるんじゃないかなあ。おそらく“スウィング”が最も身に染みている人で、自作曲はじめいくつかの濃いナンバーで、ホンモノらしいイメージを漂わせる。

マイケル・グルーバーは、上の2人に比べると至極まっとうな(笑)ミュージカル俳優。ベナンティと組んで美男美女の甘いデュオも聴かせるが、「Boogie Woogie Country」でのロック寄りのヴォーカルが印象に残る。

以上の3人に女性陣2人を加えた5人によるマンハッタン・トランスファーばりの“スウィング”するコーラスも、このショウの聴きどころの1つだ。

さて、じゃあダンスはどうなんだというと、うまいです。ただし、初めに言ったように、全体の統一感に乏しいので、印象が弱くなるのは否めない。
けれども、それぞれのダンスにアイディアはあり、シーン1つ1つは面白い。また、ブロードウェイ周辺のダンサーに加えて、ウェスタン・スウィングのチャンピオン・カップルも登場して華麗な技を披露するなど、他のショウでは観られない楽しみもある。
個人的には、リヴァイヴァル版『Chicago』のオリジナル・キャストとして印象的だったケイトリン・カーターが、キャラウェイの歌う「Blues in the Night」をバックに濃厚なダンスを見せてくれたのがうれしかった。

今シーズンの作品の中では話題になることの少ない『Swing!』だが、いろんな方面から集められた才能のあるキャストや、質の高い演奏陣(ゴッサム・シティ・ゲイツ)の作り出す舞台は、けっして通り一遍のありがちなレヴューにはなっていない。むしろ、ジャズを中心にした過去の名曲に交えて、前述のキャストたちやバンマスのジョナサン・スミス、演出のリン・テイラー=コルベットらが書き下ろしたり手を加えたりした楽曲も用意するあたりに、懐かしモードではないところで勝負しようという姿勢も見える。
もし、観る舞台に迷った時には、一見をオススメしたい。ブロードウェイのショウとしての品質の高さは保証します。>

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The Chronicle of Broadway and me #231(Kiss Me, Kate)

20001月@ニューヨーク(その3)

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『Kiss Me, Kate』(1月2日15:00@Martin Beck Theatre)について、「上質だがスリルなし」のタイトルで旧サイトに書いた感想です。

<コール・ポーター最大のヒット作(初演上演回数1,070回)『Kiss Me, Kate』は名曲が多く、初演(1948年)のオリジナル・キャスト・アルバムは愛聴した。もちろん、その舞台は観ていないが、今ではボブ・フォッシー絡み(映画初振付シーンを自演している)で語られることの多い、ダンス場面の充実したMGMでの映画版は楽しく観た。
だから今回のリヴァイヴァルに期待していたかというと、そうでもない。時代とズレる部分が出てくるのではないかと思っていたからだ。そして、その危惧は半ば的中した。
……と、ここまでを読んで観るのを止める人がいるかもしれないので付け加えておきますと、けっして観てがっかりするような舞台ではない。半世紀以上前の名作のリヴァイヴァルとしては上出来と言っていい。
ただ、コール・ポーターのミュージカル・コメディにしてはやや立派すぎてスリルがなかった、というお話をこれから。

話の内容は、こうだ。

1948年6月、ボルティモアのフォード劇場に、シェイクスピアの『The Taming Of The Shrew』(じゃじゃ馬ならし)を演じるカンパニーがやって来る。その中心役者は、“じゃじゃ馬”カタリーナを演じるスター女優のリリーと、その元夫で、カタリーナをならすペトルーキオを演じるワンマン座長のフレッド。
別れても実は惹かれ合っているこの2人が、舞台の上同様、舞台裏でも丁々発止の恋の主導権争いを行なう、というのがメイン・ストーリー。
これに、カタリーナの妹ビアンカを演じるロイスと、ビアンカの恋人ルーセンショーを演じる、ロイスの恋人でギャンブル好きのビルという若いカップルや、ビルの借金の取り立てに来て間違えてフレッドにつきまとうギャング2人組、リリーの婚約者の軍人などが絡んで、もつれた糸がさらにもつれ……。
という展開は、同じコール・ポーターの14年前の傑作『Anything Goes』に似てないか? 最後は全て丸く収まって大団円、というのも同じ。

ともあれ、(劇中の)舞台上のみならず舞台裏にまで、『The Taming Of The Shrew』的勘違いと男女の策謀が横溢するコメディで、ひたすら軽く、明るい。
この作品の魅力は、そうした、ある種喧噪的なドタバタ世界を、コール・ポーターの洒脱で優美な楽曲が彩り、ちょっぴり毒を含んだロマンティックな気分で染め上げていくところにある。
だから、むずかしいのだと思う。そのバランス感覚と言うか距離感と言うか。
冒頭に書いた、「時代とズレる部分が出てくるのではないか」という危惧は、まさにこの部分についてで、ブロードウェイ初演の1948年という年には、まだぎりぎり、“喧噪”と“優美”とが溶け合うシャレた古き佳き世界が、舞台と客席の間に成り立っていたと思うのだ。
しかし、ロジャーズ&ハマースタインの活動は5年前に始まっており、ミュージカルの世界は新たな潮流に乗って、この頃から急速に現実度を増していくことになる。同時に観客の感覚も変わっていく。
そうした時代の流れの中で、1940年代後半という時期がちょうど過渡期だったことを示す次のようなエピソードが、アラン・ジェイ・ラーナー著「ミュージカル物語」(千葉 文夫・梅本淳子・星優子訳/筑摩書房)に載っている。
『Kiss Me, Kate』の製作過程で、脚本を書いたサム&ベラ・スピーワック夫妻 が「作詞作曲にはコール・ポーターを推薦した」ところ、「コールはだいぶ前から時代遅れと見なされており(時代は変わっていた)」、「製作者の側からは反対の声も上がった」というのだ(ちなみに、ポーターの最後のブロードウェイ・ミュージカル『Silk Stockings』の開幕は1955年)。

で、今回の舞台だが、半世紀を経てのリヴァイヴァルであるにもかかわらず、正攻法で作られている。正攻法というのは、初演当時リアルタイムであった1948年という時代設定を、例えばノスタルジックに彩るでもなく、あるいは現代に移し替えるでもなく、そのままストレートに描いている、ということだ。
象徴的なのが、冒頭に歌われる「Another Op’nin’ Another Show」。
このナンバーは、作品の舞台となる、おかしなバックステージ世界を観客に紹介する意味も持ったショウビズ讃歌だが、その演出がリアル。初演の録音を聴くと、序曲の後で、いかにも「これからお芝居が始まります」というくっきりした調子で歌われ、作品世界へのワープ感が強いが、ここでは、序曲がないまま、装置を準備中のスタッフが静かに歌い始め、それを劇場にやって来た役者が思い入れたっぷりに歌い継いでいく。その後、演奏は序曲的な登場ナンバーのメドレーに変わってダンスが始まり……とショウ的に盛り上がりはするが、導入の描写は写実的。ことさら「半世紀前のボルティモアへようこそ」でもなければ、「おかしな世界の始まり始まり」でもない。あえて言えば、「今も昔も変わらないバックステージのお話でございます」という感じ。
この辺、最近のリヴァイヴァルの例で言えば、冒頭からフィクション中のフィクションというスタイルを強調した『Annie Get Your Gun』と対照的。
その理由は、おそらく、楽曲がいい上に脚本もしっかりできているから、作品世界の印象を特にひねらなくても、各場面をきっちり作っていけば古びたものにはならない、と判断したからだろう。加えて、バックステージの世界そのものが時代の変化ほどには変わっていない、ということもある。
結果、正攻法の作りで、現代の観客を充分沸かせている。その限りでは、コール・ポーター・ミュージカルの再生に成功しているように見える。

その背景にはキャストの健闘もある。
ことに、『Kiss Me, Kate』の楽曲は、ポーター作品の中でも優美さの勝ったものが多く、時にオペレッタ的でもあり、純粋に歌唱の技術としても高度なものを要求されることを考えれば、歌で実力を発揮する主演の2人、リリー役マリン・メイズィーとフレッド役ブライアン・ストークス・ミッチェルの貢献度はかなり高い。このカップルを中心に、粒ぞろいのキャスト陣が力のこもった歌と踊りで充実した舞台を作り出している。

だが一方で、コメディ・リリーフのギャング役2人(リー・ウィルコフとマイケル・マルヘレンはそろってトニー賞ノミネート)や、リリーの婚約者ハウエル将軍役(ロン・ホルゲイト)などは、彼ら自身の演技は悪くないにもかかわらず、否応なく時代がかった存在に見えてしまう。
なぜなら、半世紀前も今も様子の変わらぬバックステージの演劇関係者たちと違って、現代の感覚からすると、黒ずくめのトボケたギャングや芝居がかった将軍(演技がマッカーサーのパロディになっている……のだが、「I shall return.」なんて、若い世代にわかるのか?)など、まるでリアルではないからだ。
登場人物の、この微妙なバランスの崩れが、今回のリヴァイヴァルが内包する時代とのズレを露呈させる。“喧噪”と“優美”とが必ずしもうまく溶け合ってはいないのだ。
もっとも、それは小さなズレにすぎない。すぎないのだが、ミュージカル・コメディの中で、もっぱらコメディ部分を担うはずの人物たちがズレてしまうと、なんだかピリッとしないのも事実で、個人的には、舞台全体が“懐かしの名作”という気分で包まれているように見えて、スリルがなかった。
ないものねだりであることを承知で言えば、立派な再演よりも、時代設定を現代に移し替えて再生させた冒険的『Kiss Me, Kate』が観たかった、というのが正直なところ。

演出マイケル・ブレイクモア。
振付のキャスリーン・マーシャルは、若い男優3人が献身的に踊る「Tom, Dick Or Harry」など各所で力を発揮するが、最大のダンス・ナンバー「Too Darn Hot」のキレが悪かったのは、演出プランのミスか。

『Chicago』他でシャープなダンサーとして印象の強かったマイケル・ベレースが準主役のビル役でクレジットされているのだが、代役が立って観られなかったのが残念。
彼を観るためにもう1度チケットを買うかどうか、迷うところ。>

The Chronicle of Broadway and me #230(Minnelli On Minnelli)

20001月@ニューヨーク(その2)

『Minnelli On Minnelli』(1月1日20:00@Palace Theatre)について、「愛すべき父と越えがたき母と」というタイトルで旧サイトに書いた感想です。

<とにもかくにも、この公演を観ようと渡米予定を3日も早めて元旦に飛び、客が少なかったせいで直行便のキャンセルに遭ったりしながらも無事にニューヨークに到着したわけだが、ホントのところそれほど大きな期待を抱いていたわけではない。なので、メチャクチャがっかりしたというほどでもないけど、残念ながらショウの出来は、心配した主役の調子だけでなく、演出面でも、けっして満足できるものではなかった。
主演ライザ・ミネリの状態は、『My Favorite Broadway』の時よりは確かによかった。しかし、それは、前回はほとんど出ていないに等しかった歌声が少しは出るようになった、という意味で。最高を5とすれば、2が3になった程度だ。
不健康に太ったライザの身体はキレが悪く、思うように踊ることはできず、話し声は絶えずゼーゼーとこすれるような音を伴い苦しそうで、聴いているこちらが心配になるほどだった。

そして、演出(フレッド・エブ)。
今回のショウのタイトル『Minnelli On Minnelli』とは、ライザ・ミネリが父ヴィンセント・ミネリの監督作品のナンバーを歌い踊るという意味。となれば、ライザの出来はともかく、ヴィンセント・ミネリ作品をどう料理するのかという興味も当然ある。

ご存知の通り、ヴィンセント・ミネリ監督は、全盛期のMGMミュージカルを支えた大プロデューサー、アーサー・フリードの主要スタッフとして活躍した人で(それ以前は舞台の仕事をしていた)、監督したミュージカル映画には、スタンリー・グリーンの「ハリウッド・ミュージカル映画のすべて」(原題:HOLLYWOOD MUSICALS Year By Year/村林典子訳、音楽之友社)に載っているだけでも次の13作品がある(※はアーサー・フリード製作)。

『Cabin In The Sky』※1943年
『Meet Me In St. Louis』※1944年
『Ziegfeld Follies』※1946年
『Till The Clouds Roll By』※1946年
『The Pirates』※1948年
『An American In Paris』※1951年
『Lovely To Look At』1952年
『The Band Wagon』※1953年
『Brigadoon』※1954年
『Kismet』※1955年
『Gigi』※1958年
『Bells Are Ringing』※1960年
(以上 MGM)
『On A Clear Day You Can See Forever』(晴れた日に永遠が見える)1970年
(パラマウント)

ミネリ監督のミュージカル映画は、前掲書でのスタンリー・グリーンの記述によると16本あるらしいから、これに、 MGMの『I Dood It』1943年と『Yolanda And The Thief』※1945年の2本を加えると、残るは1本。それがおそらく、ジュディ・ガーランド出演場面のみ演出した『Till The Clouds Roll By』やファッション・ショウ場面のみ演出した『Lovely To Look At』同様、一部だけを演出してクレジットされなかった『Babes On Broadway』※1941年ということになるのだろう。でも、そうすると、グリーンの「4作品以外はMGMのアーサー・フリードがプロデュースしている」という発言と矛盾するのだが、ま、いいや。

こうした作品群の中から今回のショウで採り上げられたのは、
第1幕=『Cabin In The Sky』『Ziegfeld Follies』『Meet Me In St. Louis』『The Band Wagon』
第2幕=『An American In Paris』『Kismet』『Gigi』『On A Clear Day You Can See Forever』
(これに、意外にも第1幕冒頭に『The Clock』※1945年という非ミュージカル映画のナンバーが加えられていたのだが、その謎については後述)
この選択は、ハリウッド映画監督デビュー作の『Cabin In The Sky』以下、出来やヒットの度合いから言って、まず順当なものだろう(『The Pirates』の「Be a Clown」や『Bells Are Ringing』の「Just in Time」などの有名曲は、確か第2幕冒頭のコーラスによるメドレーで歌われていた)。
ところが、こうしてわざわざ映画を絞り込んだにもかかわらず、登場するナンバーのほとんどが、ショウ場面としてのさしたる工夫もなく、ただ歌われるだけなのだ。
もちろん、舞台にはライザ1人が現れるわけではなく、6人の“ライザ・ボーイズ”とでも呼ぶべきソング&ダンス・マンたちがいて、ライザをサポートして様々な趣向で登場する。が、どのナンバーの演出も、映画の名場面の再現でもなければ、ミレニアムらしい(笑)新たな切り口で臨んだものでもない、凡庸な仕上がり。
例えば、『The Band Wagon』の名場面の1つで、フレッド・アステアとジャック・ブキャナンがデュオで歌い踊る「I Guess I’ll Have to Change My Plan」を、ライザはボーイズの1人とデュオで歌うが、振りらしい振りはほとんどなく、舞台奥から2人並んで体を揺らしながら前に進んでくるだけ。オリジナルのあの優美さを再現しろとは言わないが、間違いなく見どころの1つにすることのできるナンバーだったはずだから、なにがしかのアイディアがほしかったところだ。
まあ、それも、ライザがあの状態では仕方がないかもしれない。主役が動けないのでは振付が限られてくるのも当然だろう。

しかし、だ。セットの工夫はできたはずだ。
ホリゾントの壁部分を縦に4つに区切るように3枚の細い帯状の鏡が等間隔に並び、やはり鏡でできた可動式の角柱が2本、そして、吊り下げ式の大きなパネルが何種類か。パネルには人物の写真や映画公開当時のポスターなどの他、ミネリ監督の映画そのものがダイジェストで映し出される場面もある。
と、まあ、ほとんど驚きとは無縁のセット。なにより、豪華さ、贅沢さが感じられない。

唯一、このショウのねらいから言ってこれしかないというアイディアを盛り込んだナンバーが、第2幕の大詰めに登場する。
第1幕後半に置かれていた『Meet Me In St. Louis』のシークエンスが、第2幕の『On A Clear Day You Can See Forever』の後にもう1度現れる(アメリカでの『Meet Me In St. Louis』の認知度は非常に高い)。その最後に、映画中で最もヒットした「The Trolley Song」をライザがボーイズを率いて歌うのだが、歌い出すと同時に、下りていたパネルに映画で歌っているジュディ・ガーランドが映し出される。
演奏は生オーケストラ、歌っているのはライザ・ミネリ、映し出されているのはガーランド、そして音楽は、ガーランドの姿(口の動き)に完璧にシンクロしている!
さらに! 極めつけの演出が用意されている。歌の終盤になって、突然、音楽が映画のサウンドトラックに切り替わるのだ。1943年12月2日に録音されたガーランドの歌とMGMスタジオ・オーケストラの演奏に。それが数秒間。そして再び生演奏とライザ&ボーイズの歌に一瞬にして戻る。

この後、このショウは、ライザによって歌われる、ジョン・カンダーとフレッド・エブのコンビが書き下ろした「I Thank You」というナンバーで幕を閉じるのだが、クライマックスはと言えば、結局、あのガーランドの声に切り替わった数秒間だったということになる。
愛すべき父へのリスペクトを込めたショウが、終わってみれば超えがたい魅力を持った母の素晴らしさを再確認させる結果になっている。本人が不調だったことも含めて、ライザの、なんとも皮肉で複雑な境遇が図らずも浮き彫りになった、そんなショウだった。
にもかかわらず、多くの観客はライザを受け入れる。アメリカの芸能を愛する人々にとって、母ジュディ・ガーランドと二重写しになって、ライザは、愛すべきショウビジネスの象徴なのだと思う。
ボロボロになって亡くなった母が生きた以上の歳月を、すでに生きてきたライザが今何を思うかなんて想像もつかないが、彼女が健康な歌声を取り戻すことだけは心から祈りたい。

最後に、『The Clock』のことだが、これ、ジュディ・ガーランドが初めて出演した非ミュージカル映画として知られている。未見だが、とにかく彼女は全く歌わないという。そこからの楽曲がこのショウで使われたということなのだが、プレイビルに挟み込まれたクレジットに書かれている楽曲作者の名前と、映画のクレジットにある音楽担当者の名前とが違っていることも含めて、いろいろ調べてみますので、ちょっと宿題ということにしてください。>

『The Clock』の件は、次のような事情。
楽曲名は「If I Had You」。1928年に、作曲テッド・シャピロ、作詞アーヴィング・キング(ジミー・キャンベル&レッド・コネリーの共作ペンネーム)という顔ぶれで書かれた、いわゆるスタンダード・ナンバー。『Minnelli On Minnelli』にあるのは、このクレジット。で、『The Clock』ではインストゥルメンタルとして流れて、この曲のクレジットはない。
20年前は、こうしたことを調べるのもひと苦労だった(笑)。

The Chronicle of Broadway and me #229★(2000/Jan.)

20001月@ニューヨーク(その1)

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31度目のブロードウェイ(44歳)。

以下、旧サイトの記述だが、若い方のために若干の説明を。
「Y2K問題」とは別名「2000年問題」または「ミレニアム・バグ」。1999年から2000年に変わる時に(古い)コンピュータが誤動作を起こす可能性があるとされた。そのため、年を跨ぐ日の航空機での移動も敬遠された。「乗客が少ない」というのは、そういうことです。なお、ノースウェストは今は亡き航空会社。

<乗客が少ないためにノースウェストの直行便はキャンセルになったものの、デトロイト経由で夕方にはマンハッタン入りができた2000年元旦。と言うわけでY2K問題は無事に乗り越えたのだが、残念ながらライザ自身の問題はクリアできていなかった『Minnelli On Minnelli』(詳しくは同作の感想で)。
まあでも予想していたことだから、と気をとり直したのではあるが、観劇に邁進するつもりの翌日から、ひきかけていた風邪が一気にひどくなって、半ば寝たきり状態に。ビッグ・アップル・サーカスやラジオシティに行くのも我慢して、最小限の劇場通いのために体調の維持に努めるという情けない1週間だった。
しかし今回は、幸か不幸か、前回(11月)のようには期待作がなく、そんな体調でもあまり焦ることがなかった。で、結局、観直した『James Joyce’s The Dead』(オンに移行)と『Marie Christine』がいちばんよかったという予想通りの結果に。
大平和登氏もブロードウェイのプロデューサー不在を憂えておられたが、大型ミュージカルは今、曲がり角に来ているのかもしれない。>

1月1日20:00 Minnelli On Minnelli@Palace Theatre 1564 Broadway
1月2日15:00 Kiss Me, Kate@Martin Beck Theatre 302 W. 45th St.
1月2日19:00 Inappropriate@THEATRE ROW THEATRE 424 W. 42nd St.
1月3日20:00 Tango Algentino@GERSHWIN THEATRE 222 W. 51st St.
1月4日20:00 The Great Gatsby@Metropolitan Opera House/Lincoln Center
1月4日14:00 Swing!@St. James Theatre 246 W. 44th St.
1月5日20:00 James Joyce’s The Dead@Belasco Theatre 111 W. 44th St.
1月6日20:00 Marie Christine@Vivian Beaumont Theatre/Lincoln Center
1月7日20:00 Our Sinatra@Blue Angel Theatre 323 W. 44th St.

各作品の感想は別稿で。
上掲写真は、『Minnelli On Minnelli』が終わるとすぐに(1月3日)次回作に看板を掛け替えたパレス劇場。