The Chronicle of Broadway and me #320(Debbie Does Dallas)

2003年1月@ニューヨーク(その6)

 Debbie Does Dallas(1月4日22:00@Jane Street Theatre)で驚くのは、シェリー・レネ・スコットがデビー役で出ていること。
 この時すでに彼女は、『Aida』のアムネリスや『The Last Five Years』のキャシーを演じていた。にもかかわらず、ここでデビーを演じるって……。というのが、『Debbie Does Dallas』という作品に関するイメージ。

 当時の渡米概観に書いた、この作品の内容の要約は、「田舎町の高校生チアガールズを中心にして“プレイボーイ的世界”を展開する、爆笑セックス・ミュージカル」。それもそのはず、元になっているのは1978年の同名“ポルノ”映画。大ヒットした有名作品らしい。
 有名になった理由のひとつには、公開当時、NFLの有力チーム、ダラス・カウボーイズのチアリーダーズが上映禁止の訴えを起こしたこともあるようだ。訴えの理由は商標権侵害等。劇中のチアリーダーたちの衣装がダラス・カウボーイズのチアリーダーズのそれに酷似している、と。
 そもそも、映画のストーリーは、ダラスにあるテキサス・カウガールズというチアリーディング・チームの入団試験を受けたいデビーのために、高校のチアリーダー仲間が“風俗ビジネス”で資金稼ぎをする、というもの。テキサス・カウガールズは架空だが、設定はまさにダラス・カウボーイズのチアリーダーズであり、ユニフォームまで似ているとなれば、これは確信犯。裁判は(ホンモノの)チアリーダーズ側が勝つが、映画がヒットしたわけだから、話題作りに成功したということだろう。

 四半世紀後に上演されたオフ・ブロードウェイ・ミュージカル版も、ストーリーは映画に準じている。高校のチアリーダーたちはボーイフレンドとのデートを我慢して、デビーのために資金稼ぎに勤しむ。その過程で、ボーイフレンドを獲り合って友情が壊れそうになったり、という青春ドラマもあることはあるが……。
 元の映画は未見なので不明だが、ミュージカル版が意図するのは、明らかに、NFLに代表される“強者のイメージ”としてのマチズモやミソジニーに対する揶揄だろう。
 もうひとつは、劇中の金銭についての表現から推測するに(そもそもダラスはダラーズに意味をかけてある→例:楽曲「Ten Dollars Closer To Dallas」)、セックスや恋愛を含む全ての価値観をドルに換算してしまう資本主義に対する皮肉か。それは、結果的には、元のポルノ映画に対する批判にもなっている(元の映画がマチズモやミソジニーに対する揶揄を孕んでいたとしても)。
 そうやって全てを笑いのめして、いささかお下劣な“艶笑ミュージカル”として作られたのが、この『Debbie Does Dallas』。雰囲気はTV番組「Saturday Night Live」のコントに近い。記憶にはないが、劇場全体がストリップ・バーっぽく装飾されていたようだ。とはいえ、舞台版にはハダカは出ない。あくまで気分。

 最初に戻ると、そこに出てくるシェリー・レネ・スコット、やるなあ、という感じ。彼女が出たことで、明らかに作品の“揶揄”度/“皮肉”度が上がった。
 それ以外のチアリーダーズ役は4人。いずれもブロードウェイ経験者。ストレート・プレイ畑が多いようだ。
 男性俳優は3人で、それぞれ3役以上(1人は6役)をこなす。そのあたりも面白いところ。

 楽曲は、話の中身とは裏腹に、シンガー・ソングライター系のフォーク/ロック的な良曲が多い。そんな中、タップ・ダンスを伴うオールド・タイミーな「The Dildo Rag」という曲が、いいアクセントに。
 楽曲作者としてアンドリュー・シャーマン(映画/TVでの仕事が主な人らしい)の名前が挙がっているが、実際には4人が関わっており、その内の1人は、6年後にオフに登場する『Next To Normal』で俄然注目を集めることになるトム・キット。1曲は単独で、4曲をシャーマン及び演出家のエリカ・シュミットと共作している(共作の1曲が「The Dildo Rag」)。キットは音楽監修としてもクレジットされている。ちなみに、2010年にブロードウェイに登場するシェリー・レネ・スコットのショウ『Everyday Rapture』の編曲も彼。
 もう1人の楽曲作者はジョナサン・キャリカット(経歴不明。単独で1曲のみ)。

 脚本と言うか(セリフ/ストーリーはほぼ映画通りらしいから)原案(と言うより発案か)はスーザン・L・シュワルツ。演出は前出のエリカ・シュミット。振付はジェニファー・コディ。全員女性だ。
 メインのプロデューサーは、『Urinetown』の成功でブロードウェイに進出したアラカ・グループ(The Araca Group)。

 その後、全米各地で様々なプロダクションによって上演されているらしいが、日本でも2006年に翻訳上演されたとか。幸か不幸か観ていないが、“揶揄”する対象への実感を伴わない土地での上演って、どうなんだろう。
 演劇は上演される時代/地域と密接に結びついていると思うのだが。

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