The Chronicle of Broadway and me #761(The Bridges Of Madison County)

2014年2月~3月@ニューヨーク(その3)

 『The Bridges Of Madison County』(2月26日14:00@Gerald Schoenfeld Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<元になっているのは、ロバート・ジェイムズ・ウォラーの同名小説(1992年)と、それを原作とするクリント・イーストウッド製作・監督の映画(1995年)。
 ご承知かと思うが、アメリカの田舎町に住むイタリア系の人妻が、古い橋の写真を撮りに来たカメラマンと恋に落ちる話。

 今回のミュージカル化は、作曲・作詞・編曲ジェイソン・ロバート・ブラウン(『Parade』『The Last Five Years』)、脚本マーシャ・ノーマン(『The Secret Garden』『The Color Purple』)、演出バートレット・シェール(『The Light In The Piazza』『South Pacific』)というスタッフが顔を合わせ。これ見よがしな派手さのない、静謐な印象の、どちらかと言えばオフの雰囲気を持つ舞台に仕上がっている。そう言えば、『Parade』『The Light In The Piazza』も心にグッと来る素晴らしい作品だったが、どちらもリンカーン・センターでの上演で、舞台を観慣れない観光客がフラッと入って楽しむことができるような娯楽性には乏しかった。

 そうした舞台の雰囲気を醸し出す要因の1つは、間違いなく装置にある。
 装置のマイケル・イヤーガンは、バートレット・シェールと組んだ『The Light In The Piazza』及び『South Pacific』で陰影に富んだ美しい舞台を作り上げた人(両作品でトニー賞受賞)。
 今回の舞台は、奥に、大きく枝を張った木が1本と、街灯と公衆電話の付いた木製の電柱が1つあるだけ。そこに、移動式のセット――ヒロインの家の要素(テーブル、椅子、キッチン、流し、冷蔵庫、玄関扉、2階への階段、屋根)、農場の柵、そして、“マディソン郡の”橋、等――を役者が出し入れする。屋根や橋といった大型のものはデザインの抽象性が高い。出し入れする時に、舞台上のヒロインとカメラマンとの間をわざと横切って、装置(日常)が人間関係を微妙に分断することを象徴的に見せたりもする。舞台の周囲にポツンポツンと置いてある7脚の椅子にも意味があり、そこに、芝居をしていない役者が座って舞台を見ていることで、主役2人のやりとりの緊迫感が増す。結果、閉鎖的なスモール・タウンの、退屈だが官能的でもある微妙な空気感を生み出している。
 照明のドナルド・ホールダーとのコンビネーションも見事。
 そうした諸々が、楽曲や演技と相まって、ヒロインの焦燥感・孤独感として凝縮されていく。

 ジェイソン・ロバート・ブラウンの楽曲(及び編曲)は、シンガー・ソングライター世代の音楽を通過した楽曲作者ならではの繊細さと力強さとを併せ持つ。カントリー風味と室内楽的な弦の響きを中心とする奥行きのある音像も魅力的だ。
 そんな中にあって、カメラマンの元妻(ウイットニー・バショー)がギター弾き語りで歌うジョニ・ミッチェル風の楽曲(「Another Life」)と、主役2人が抱き合って踊る時にラジオから流れるブルースがかったバラード(「Get Closer」)が、いい感じのスパイスになっている。
 特に後者は、途中から隣家の中年女性(キャス・モーガン)が、やはりラジオで聴いていて、陶酔しながら歌い始める。それがユーモラスでもあり、同時に(踊る2人のすぐ近くに人がいることを示唆して)不穏でもある、という意味で、表現が深い。
 役者は、ケリ・オハラに尽きる。もちろん周囲も皆うまいのだが(ことに、キャス・モーガン)、平凡な主婦の内に潜む深い情愛を、せつないまでに表現しきっている。

 この舞台がトニー賞授賞式を待たずに終わってしまうのは実に残念。機会のある方は、5月18日までです。ぜひ。>

 振付(movement)ダニー・メフォード(『Bloody Bloody Andrew Jackson』『Fun Home』)。

 カメラマン役のスティーヴン・パスクァール(『A Man of No Importance』)は『The Light In The Piazza』のトライアウトでケリ・オハラの相手役だったが、TVシリーズ出演のために降り、代わりにマシュー・モリソンが同役を務めることになった、という経緯がある。ここで改めてオハラと組むことになったわけだ。
 出演は他に、ハンター・フォスター(『Urinetown』『Little Shop Of Horrors』『Frankenstein』『Happiness』『Ordinary Days』『Million Dollar Quartet』『Hands On A Hardbody』)、マイケル・X・マーティン(『1776』『Kiss Me, Kate』『Oklahoma!』『All Shook Up』『9 To 5』『Ragtime』『Catch Me If You Can』『Nice Work If You Can Get It』『Curtains』)、ケイトリン・キンヌネン(後に『The Prom』)、デレク・クレナ(『Dogfight』、後に『Anastasia』『Jagged Little Pill』)。上記のウイットニー・バショーは『MJ The Musical』に出演中、キャス・モーガンは『The Capeman』『Ring Of Fire』『Mary Poppins』『Memphis』で主要な役を演じてきた人。

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