The Chronicle of Broadway and me #882(Anastasia)

2017年3月~4月@ニューヨーク(その3)

 『Anastasia』(4月3日20:00@Broadhurst Theatre)についての観劇当時の感想です。宝塚歌劇版『アナスタシア』の感想を上げるにあたり先行してアップしておいたもので、配信音楽誌「ERIS」19号(2017年6月)に「ブロードウェイ春の新登場作特集」と題して書いた原稿からの抜粋(一部編集)です(<>内)。

<映画絡みの作品『Anastasia』。帝政ロシアのロマノフ王朝最後の生き残りアナスタシアの真偽を巡る物語。

 大元には『追想』の邦題で知られる、アナトール・リトヴァク監督によるイングリッド・バーグマンがアナスタシアに扮した1956年の同名映画があり、さらに遡れば同名の戯曲もあるようだが、今回のミュージカルに直結しているのは1997年の20世紀フォックスの同名ミュージカル・アニメーション映画で、楽曲作者がスティーヴン・フラハーティ(作曲)とリン・アーレンズ(作詞)という、ブロードウェイでも『Once On This Island』『Ragtime』でお馴染みのヴェテラン・コンビ。
 今回の舞台版の楽曲も彼らで、新曲に加えて、映画版の主要な楽曲が生かされている。もちろん、アナスタシアの記憶の鍵となる「Once Upon A December」も、アカデミー賞主題歌賞の候補になった「Journey To The Past」もしっかり使われている。そういう意味では、経緯は違うが、ミュージカルとしては『Charlie And The Chocolate Factory』の舞台版と似た立ち位置の作品ということになる。

 脚本は新たに名匠テレンス・マクナリーが書いていて、アニメーション映画にあった魔力を使う怪僧ラスプーチン等の“お子様向け”ファンタジー要素が削られ、代わりにアナスタシアに横恋慕する革命政府公安関係の男が『Les Miserables』のジャヴェール的存在として出てくる等、現実寄りに修正されている。
 が、それでも、皇女アナスタシアをでっちあげて詐欺を働こうとする2人組が発端となる大筋は同じなわけで、マクナリーの手を経たにもかかわらず、ディズニーの「アニメーション映画→舞台ミュージカル化」路線に似た無難な印象に留まった。

 フラハーティ&アーレンズのコンビは、ブロードウェイでは先に挙げた『Once On This Island』を除くと映画→舞台ミュージカル化の仕事が多いが、『Once On This Island』が元々はオフの作品だったように、オフ・ブロードウェイではもっぱら挑戦的な舞台を作ってきている。そろそろ、そちら方面での活躍にも期待したい。>

 アーニャ(アナスタシア)役クリスティ・アルトメア。詐欺コンビ2人組は、アーニャと恋に落ちるディミトリ役デレク・クレナ、ヴラド役ジョン・ボルトン。革命政府の男グレブ役のラミン・カリムルーは『Les Miserables』のジャヴェールならぬジャン・ヴァルジャン経験者。アナスタシアの祖母役メアリー・ベス・ピールは2003年版『Nine』でグイドの母役を務めてた人(この作品でトニー賞助演女優賞にノミネート)。その付き人(アニメーションのソフィに当たる)リリー役はキャロライン・オコナー。
 演出は2013/2014シーズンのトニー賞を『A Gentleman’s Guide To Love & Murder』で獲ったダルコ・トレジニャック。振付は、やはり同作に参加していたペギー・ヒッキー。

 ちなみに、映画『追想』(1956年)の脚本は『West Side Story』『Gypsy』で知られるアーサー・ローレンツ。その元になった戯曲(1954年)を書いたのはマルセル・モーレット。

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