The Chronicle of Broadway and me #699(Dog Fight)

2012年7月@ニューヨーク(その4)

 『Dogfight』(7月28日15:00@Tony Kiser Theater/Second Stage Theater)は、今をときめく楽曲作者ベンジ・パセック&ジャスティン・ポールのオフ・ブロードウェイ・デビュー作。劇場は、4年後に『Dear Evan Hansen』を上演することになるセカンド・ステージのトニー・カイザー劇場。

 プレイビルに書かれた設定は、1963年11月21日、サンフランシスコ。
 沖縄経由ヴェトナム行きを翌日に控えた海兵隊の十代の若者たちが、自分たちの自由になる最後の夜に愚かしいパーティを企てている。名付けて「ドッグファイト」。街で誘った女の子を連れてくるのがルールなのだが、実は、一番イケてないパートナーを選んだヤツが優勝、というゲームなのだ。
 ……という超ネガティヴな条件下で知り合ったエディー(海兵隊)とローズ(ダイナーのウェイトレス)の必ずしもハッピーとは言えない、いくぶん感傷的な恋物語。ではあるが、力のこもった、心に残る作品だった。

 元になっているのは、リヴァー・フェニックスとリリ・テイラーが主演したナンシー・サヴォカ監督の1991年の同名映画。脚本ボブ・コムフォート。1963年の物語を回想にして1967年のエピソードで挟み込んである構成も映画と同じ。
 この映画、日本は劇場未公開だったようだが、リヴァー・フェニックスは『Indiana Jones And The Last Crusade』(邦題:インディ・ジョーンズ/最後の聖戦)の2年後で、それなりに人気はあったはず。題材が暗いという判断だったのだろうか。
 驚くような内容ではないが、映画も、舞台同様に丁寧に作られていて、共感を覚える。’60年代前半の社会性を持ったフォーク・ソングに傾倒しているローズと、そうしたことに無自覚なまま戦場に送り込まれるエディー、という対比も、図式的ではなく、“あの時代”のアメリカの空気を自然に表わしているように感じられて、悪くない。
 映画では、そうしたフォーク・ソングが背景で効果的に使われている。
 一方、舞台版でのパセック&ポールの楽曲はどうかと言えば、映画が再現していた時代性からは少し離れつつも(パーティ・シーンの楽曲に’60年代前半の香りは残している)、青春期にいる登場人物たちの瑞々しさや繊細さを感じさせる仕上がりで、充実している。そういう意味では、『Dear Evan Hansen』の世界に直結していると言ってもいい。

 脚本はピーター・デュシャン(『イリュージョニスト』)。
 演出は『Angels in America』で名を成したジョー・マンテロ(『Love! Valour! Compassion!』『Proposals』『A Man Of No Importance』『Wicked』『Assassins』『Laugh Whore』『Pal Joey』『9 To 5』)。振付クリストファー・ガッテリ(『The Baker’s Wife』『Altar Boyz』『Bat Boy: The Musical『I Love You Because』『Martin Short: Fame Becomes Me』『High Fidelity』『Sunday In The Park With George』『South Pacific』『13』『Godspell』『Women On The Verge Of A Nervous Breakdown』『Silence! The Musical』『Newsies The Musical)。

 出演者では、なんと言っても、ローズ役のリンゼイ・メンデズ(『Grease』『Everyday Rapture』『Godspell』)。6年後にリヴァイヴァル版『Carousel』でトニー賞助演女優賞を獲ることになるが、その気配がすでにある。エディー役デレク・クレナも、この後、『The Bridges of Madison County』『Anastasia』『Jagged Little Pill』とブロードウェイで活躍することになる。

 この作品を翻訳上演すると知った時には驚いた。まあ、ミュージカルの翻訳上演案件にはよく驚かされるんですが(笑)。