The Chronicle of Broadway and me #790(The Last Ship)

2014年10月@ニューヨーク(その3)

 『The Last Ship』(10月10日20:00@Neil Simon Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<作曲・作詞のスティングの故郷である英国北東部の港町を舞台に、斜陽の造船業に携わる労働者たちのドラマが描かれる。

 楽曲はドラマと有機的に結びつき、魅力的。叙情的なワルツ「The Night The Pugilist Learned How To Dance」等、美しい。
 ただ、主要登場人物に魅力が乏しく、人間関係の描き方もやや図式的で、舞台としては成功していなかった。>

 チケットの売れ行きが芳しくなく、途中からテコ入れでスティングが出演までしたものの、翌年のトニー賞授賞式を待つことなく、1月にクローズした。

 とはいえ、上記感想中にもあるように、楽曲はよかった。2018年に出たルネ・フレミングがミュージカル楽曲ばかりを歌ったアルバム『Broadway』にも1曲採り上げられていて、印象に残る仕上がりだった。そのアルバムについて書いた無料配信音楽誌ERIS第26号の原稿から、その曲「August Wind」に関する部分を引用する(<>内)。同曲は第1幕の初めの方で歌われる、物語世界への導入のような歌。作品全体の雰囲気が伝わるかと思う。

<「August Wind」は造船の町で育ったヒロインが、港を出ていく船を見ながら、過去を振り返りつつ歌う。

 ♪八月の風が向きを変えた。漁船が海へ出ていく。

 …と、まず少女の頃のヒロインが歌いだし、次は現在のヒロインとのデュエットになる。

 ♪船が消えるまで見ている。すぐに冬がやって来る。船たちが夜の闇に溶け込んでいくまで見ている。八月の月の下。

 そして、少女が消えて現在のヒロインのソロになる。

 ♪ここに来ることは誰も知らない。なぜだかわからないが、ここに来ると泣きそうになる。死ぬ前にはわかるだろう、海から帰って来る船を数える理由が。(最後につぶやくように)昔、私を愛していると言った男の子がいた。

 町を去って再び帰って来る、この“男の子”とヒロインとの意識のズレがドラマの核心になっていく。短い楽曲だが、彼女の孤独な青春を感じさせる含蓄がある。>

 こうした抒情性に覆われた舞台だった。

 その「August Wind」を歌う現在のヒロインに扮していたレイチェル・タッカーは、ウェスト・エンドで『We Will Rock You』『Wicked』(エルファバ)に出ていた人。帰ってくる成長した“男の子”役マイケル・エスパー(『American Idiot』)。
 他に、フレッド・アップルゲイト(『The Sound Of Music』『Young Frankenstein』『Happiness』『La Cage Aux Folles』『Sister Act』)、サリー・アン・トリプレット(ウェスト・エンド『Anything Goes』)。

 脚本ジョン・ローガン(後に『Superhero』『Moulin Rouge: The Musical』)&ブライアン・ヨーキー(『Next To Normal』『If/Then)。
 演出ジョー・マンテロ(『Love! Valour! Compassion!』『Proposals』『A Man Of No Importance』『Wicked』『Assassins』『Laugh Whore』『Pal Joey』『9 To 5』『Dogfight』)。振付は今シーズン(2022/2023シーズン)の新作『A Beautiful Noise: The Neil Diamond Musical』を手がけているスティーヴン・ホゲット(Once『Peter And The Starcatcher』『Rocky』)。