The Chronicle of Broadway and me #362(Anything Goes)

2004年2月@ロンドン(その3)

 『Anything Goes』(2月10日19:00@Drury Lane Theatre Royal)について観劇当時旧サイトに書いた感想は次の通り(<>内)。

<ほとんど文句なしに楽しかったのが、『Anything Goes』。最初は、ちょっと地味かと思ったが、中盤からダンス入りショウ場面で俄然盛り返す。役者も揃って、ダンスの質もウェスト・エンドとは思えないほどレヴェルが高い。切り口に新しさはないし、話の古臭さはぬぐいきれなかったが、ホントのミュージカル好きなら、まずは必見。>

 観劇好きなら誰しも、「最初に動いたものを親と思う」的な作品があるのではないかと思うが、自分の場合は1988年、初めて訪れたニューヨークで観たパティ・ルポン版『Anything Goes』がそれ。
 エセル・マーマン主演による1934年の初演以来、初のブロードウェイ・リヴァイヴァルで、すっかり古びていたコール・ポーターの半世紀以上前のヒット作を現代に通用するように手直しした改訂版だったわけだが(観た時はそんなことは知らなかったが)、それでも十分にノスタルジックな作風。それが逆に、フレッド・アステアの幻影を求めて海を渡った極東の島国の住人の欲求にピタリとハマった。巡り合わせ、と勝手に解釈している。
 以来、この作品は個人的定番の1つとして自分の中で特別な位置を占めている。であるがゆえに、生半可な再演では納得しかねる、という面倒臭い心理にもなる。
 そこをクリアしたのだから、ロンドンものに過剰な期待はしていなかったという前提があったとしても、けっこう楽しい出来だったのだと思う。上記の感想を読む限りは。

 実のところ、かなりバカバカしい筋書きを、細かいギャグの積み重ねと楽しいショウ場面とコール・ポーターのシャレた楽曲で乗り切っていく改訂版の脚本は、穴を穴と感じさせない、よく考えられた作りにはなっている。なので、演出の手際がよく、役者たちに(コメディとソング&ダンスの)力量があれば、まず大崩れはしない。
 その点、このプロダクションは元々がナショナル・シアターの製作だけあって、手堅かった(ナショナル・シアターで2002年12月に開幕の後、2003年9月にウェスト・エンドに移って来ている) 。
 そこが物足りないと言えば物足りないところ。
 ナショナル・シアターの作るブロードウェイ・ミュージカルのリヴァイヴァル版は、その他のロンドン産ミュージカルと比べると端正な感触の仕上がりになる。なんと言うか……少しばかり襟を正した感じ。経験上そう思っているが(1993年『Carousel』、1999年『Oklahoma!』)、これも例外ではなかった(ちなみに映画館で観た「ナショナル・シアター・ライブ」の『Follies』にも同じ感想を持った)。
 そのあたりが「ちょっと地味かと思った」という感想につながるのだが、まあ、そこにプラスアルファを求めるのは欲ばり過ぎなのだろう。

 演出トレヴァー・ナン。振付スティーヴン・ミア(2005年にマシュー・ボーンと共同で『Mary Poppins』の振付を手がける人)。
 主役のリノ・スウィーニーを演じたのはサリー・アン・トリプレット。この人が、例えばパティ・ルポンと比べるとイマイチ華がなかった、というのも全体の地味な印象に反映されてはいる。ま、パティ・ルポンと同じくらい華のある人というのも、なかなかいないのだが(笑)。

 最後に蛇足で付け加えると、この観劇で一番覚えているのは、家族と来ていた隣の席の10代半ばぐらいの男の子が終始つまらなそうに貧乏ゆすりしていたこと。反応は人それぞれだわな(苦笑)。