The Chronicle of Broadway and me #363(Chitty Chitty Bang Bang)

2004年2月@ロンドン(その4)

 『Chitty Chitty Bang Bang』(2月11日14:30@London Palladium Theatre)については、観劇当時、旧サイトに次のように書いている(<>内)。

<派手な装置こそ最近のウェスト・エンド的だが、作りは(たぶん昔のウェスト・エンド的に)律儀なほどに丁寧だったのが『Chitty Citty Bang Bang』。なので、案外楽しめた。
 でも、まあ、ここまで映画版をなぞると、映画に負けるのは必定。あくまでお子様向き、ということか。
 ビートルズ世代にはうれしい配役あり。>

 20世紀初頭のイングランド。
 浮世離れした男やもめの発明家は、2人の子供にせがまれて、ポンコツになったレースカーを苦心して手に入れる。その過程で知り合った大手菓子メーカーの社長令嬢を加えた4人で、オーバーホールしたそのクルマ「チキ・チキ・バン・バン」に乗って海辺にピクニックに出かける。
 そこで発明家が子供たちに話して聞かせるのは、某国の国王がチキ・チキ・バン・バンを手に入れようとすることで彼らが巻き込まれる、奇想天外な冒険話だった。

 元は1968年の同名映画(邦題:チキ・チキ・バン・バン)。日本でも同年暮れに公開されている。
 007でおなじみイアン・フレミングの原作を、ミュージカル・ファンには『Charlie And The Chocolate Factory』『Matilda: The Musical』の原作小説作者として認識されているはずの作家ロアルド・ダールと、監督のケン・ヒューズとが共同で脚色。
 原作がイギリスの児童小説、楽曲作者がリチャード・M・シャーマン&ロバート・B・シャーマンの兄弟、主演がディック・ヴァン・ダイク、(魔法使いではないものの)主張するヒロイン、男女の子役、特撮(!)によるファンタジー、という要素は、まんま映画版『Mary Poppins』を引き継いでいる。ただしディズニー映画ではない。
 観た時は中学生だったが、楽しく観て、サウンドトラック・アルバムを買い、けっこう愛聴した。名曲「Hushabye Mountrain」とか、今でも気がつくと口ずさんでいることがある。

 さて、舞台版。
 シャーマン兄弟が6曲を新たに書き下ろしているが、それは、ひとつには、映画版にあった野外ロケやクルマのアクションといった、舞台では生かせない動的要素を、ショウ場面で補おうという作戦の結果だと思われる。裏返すと、元になっているのが007映画ばりとまでは行かないものの、かなり広範囲にわたるアクション系の物語で、しかも興味の半分は楽しい仕掛けのクルマに集まりがち。なので、そこを定まった舞台の枠の中でどう見せるかに腐心しているわけだ。
 で、そこは欲張らずに、狙いをファミリー層に絞り、一点豪華主義で空飛ぶクルマには予算をかけ、ドラマ部分を手堅く作って、楽しいショウ場面をほどよくちりばめた。そういう印象の舞台。
 「空飛ぶ」と言っても、アームで支えて客席前方に迫り出してくる程度だった(と思う)が、それでも、クルマのセットを設置するために劇場の回り舞台を取り外す大改造だったとか。当時、最も高価な舞台装置としてギネスブックに載ったらしい。

 演出はロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの芸術監督だったエイドリアン・ノーブル。振付はジリアン・リン(『Cats』!)。

 主要なオリジナル・キャストはすでに降りていたようで、観た時は、発明家がオーストラリアのポップ・スター、ジェイソン・ドノヴァン(11年前に観た『Joseph And The Amazing Technicolor Dreamcoat』のジョーゼフ役)、社長令嬢はキャロライン・シーンだった。
 「ビートルズ世代にはうれしい配役」と書いているのは国王(男爵)役で出ていたヴィクター・スピネッティのこと。ビートルズ映画の常連だった人だ。
 男爵夫人役のサンドラ・ディッキンソンがやけに色っぽかった覚えがあるが、映画でも色っぽい扮装で出てきたりするから、役者の個性というより演出だったのだろう。そういうあたりがロンドンぽい気がする。

 このウェスト・エンド版は2002年春にオープンして2005年まで続いている。
 ちなみに、2005年春にオープンしたブロードウェイ版は、その年の暮れにはクローズ。両国の好みの違い(あるいは観客が舞台ミュージカルに求めるものの違い)がくっきり出る結果となったようだ。

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