The Chronicle of Broadway and me #364(Jerry Springer: The Opera)

2004年2月@ロンドン(その5)

 『Jerry Springer: The Opera』(2月11日19:45@Cambridge Theatre)について観劇当時に書いた感想は次の<>内の通り。旧サイトより。

<問題作、として捉えられているらしい『Jerry Springer: The Opera』は、意外なほど生真面目な作り。“過激”さもさほどではなく、仏教徒には何を騒ぐのか不明なほど。ゆえに、むしろ構成の薄さが気になったしだい。
 オペラ的歌唱のできる役者がそろっているが、楽曲の質は“?”。>

 ジェリー・スプリンガーとは、本人の名を冠したアメリカのTV番組「The Jerry Springer Show」の司会者。1991年9月から2018年7月まで放送された高視聴率の長寿番組だった(つまり、この公演時、番組は継続中)。番組自体も一般に「Jerry Springer」と呼ばれるようで、この舞台作品のタイトルは、スプリンガー個人ではなく番組名を指すと思われる。
 と言うのは、舞台が同番組の体裁で作られているから。

 この番組、日本でも「ジェリー・スプリンガー・ショー」のタイトルで1998年から2000年の間に深夜枠でオンエアされたことがあるらしいので、ごぞんじの方もいらっしゃるかと思うが、もっぱら男女間のトラブルを抱えている視聴者を何組かスタジオに呼んで対決させる、というのが基本的なスタイル。
 彼らの罵り合いや赤裸々な告白の応酬を、スプリンガーが平然とさばくように見せて、実のところ、けしかけ、過熱させていく。暴力に訴えようとする出演者もいるので、屈強そうなセキュリティが控えていたりする(ちょうどプロレスのレフェリーのように)。対決が激しければ激しいほどスタジオの観客も盛り上げる。……と、まあ、はっきり言って悪趣味な内容。

 その視聴者の対決部分の言葉の応酬をことごとくオペラ的歌唱にしたのが、この作品のアイディア。スプリンガー以外は全員が歌う。全体が教会の礼拝のような空気に包まれているのも、かしこまったオペラの気分を醸し出す。
 第1幕では、いつものように視聴者たちが登場。オペラ的な大仰な趣向と身も蓋もない下世話な歌の内容の落差が笑いを呼ぶ。ところが、その最後の出演者の1人にスプリンガーが銃で撃たれてしまう。
 第2幕になると、生死の境をさまようスプリンガーの前に、第1幕に出ていた連中が、神や悪魔や天使やキリストやマリアやアダムやイヴとなって現れ、禅問答ならぬ宗教観問答のような、その実、痴話喧嘩のようなものが始まり、現世同様スプリンガーがその対決を仕切ることになる。
 ちなみに、スプリンガーは、最後に現世のスタジオに戻って息を引き取る。実在の生きている人なのに(笑)。

 作曲・共同作詞・共同脚本のリチャード・トーマスは、もっぱらコメディ分野で活動してきた音楽家。共同作詞・共同脚本・演出のステュワート・リーはスタンダップ・コミックでもある人。いかにも、そういう人たちが作った作品だ。

 これまたナショナル・シアターの製作。2002年夏にエディンバラ・フェスティヴァルでコンサート形式で上演されたものを、ナショナル・シアターの芸術監督だったニコラス・ハイトナーの要請で完全舞台化したらしい。こういうオリジナル作品だとナショナル・シアターは冒険する。
 前年(2003年)の4月から9月までナショナル・シアターで上演後、11月に同じキャストのままケンブリッジ劇場に移り、2005年2月まで公演を続けている。
 2005年のブロードウェイ公演が予定されたが、キャンセルになった。これまたイギリスとアメリカの好みの違いが出た形か。ニューヨークでは2008年にカーネギー・ホールで上演されることになる。

 ジェリー・スプリンガー役はマイケル・ブランドン。

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