The Chronicle of Broadway and me #361(We Will Rock You)

2004年2月@ロンドン(その2)

 『We Will Rock You』(2月9日19:30@Dominion Theatre)は、ロック・バンド、クイーンの楽曲によるジュークボックス・ミュージカル。観劇当時、次のように書いている(<>内)。

『Mamma Mia!』に続くウェスト・エンドのヒット作『We Will Rock You』。あちらがアバなら、こちらはクイーン。作りの丁寧さは前者の方がまだしも、と思わせるあたりに問題が。ロック礼賛のわりに、エルヴィス理解に代表されるロックの捉え方が紋切り型なのも興醒め。>

 開幕当時(2002年5月14日)の評論家の評価も否定的だったらしいが、観客には馬耳東風。結果的には12年に及ぶロングランになっている。さすがロンドン。“あざとい”ミュージカルがウケます(詳細はこちら)。

 近未来(300年後らしい)のロンドンが舞台。巨大資本の支配の下、画一化された社会では全員が同じ音楽を聴き、楽器の使用は禁じられ、ロック・ミュージックは忘れ去られている。
 そのディストピア観が、まず陳腐なのだが、さらに、「どこかに楽器が隠されていて、それを救世主が見つけるだろう」という預言があり、それを信じる反体制分子のボヘミアンたちと、その野望を潰そうとするキラー・クイーンという名の支配者(印象は『The Who’s Tommy』のアシッド・クイーン)とが戦っている、という安易なRPG的設定が明らかになる。
 救世主となるのは、学校に馴染めないパンキッシュな男女。男はガリレオという名で、女はスカラムーシュと名乗ることになる。
 こうしたロック・ミュージックに関するキーワードは、登場人物の名前だけでなく、会話の中にも惜しみなくちりばめられ、笑いを呼ぶ。もとよりシリアスな感触はないが、こうなるとコメディと言うより冗談のようだ。
 それが結局、功を奏したのだと思う。派手なセットと映像をバックに、わかりやすい冒険物語が進み、クイーンの楽曲が次々に演奏されれば、ロンドンの観客は大満足だ。

 個人的に唯一面白いと思ったアイディアは、ボヘミアンたちの隠れ家となっている“ハートブレイク・ホテル” の場所がトッテナム・コート・ロード駅の廃墟だという設定。と言うのも、上演されていたドミニオン劇場の下に同駅があるから。
 ちなみに、伝説のギターはクイーン(ロック・バンドの方)の聖地ウェンブリー・スタジアムの廃墟に隠されている。そのギターを使って演奏された「We Will Rock You」がオンラインで流され、キラー・クイーンは滅び、世界は自由を取り戻す。

 脚本のベン・エルトンは、未見に終わったアンドリュー・ロイド・ウェバー作曲のミュージカル『The Beautiful Game』(2000年)で作詞・脚本を担当。
 演出はクリストファー・レンショウ(『The King And I』『High Society』『Taboo』)。振付アーレン・フィリップス(ウェスト・エンド及びブロードウェイの『Saturday Night Fever』で演出・振付)。

 役者は、ガリレオ役のトニー・ヴィンセントはすでに降りていたが(→ミグ・アイサ)、スカラムーシュ役ハンナ・ジェイン・フォックス、キラー・クイーン役シャロン・D・クラーク、それに、ボヘミアンのメインの女性ミート役ケリー・エリス、過去を知る老人ポップ役ナイジェル・プラナーといったオリジナル・キャストが残っていた。