The Chronicle of Broadway and me #356(Taboo)

2004年1月@ニューヨーク(その5)

 『Taboo』(1月9日20:00@Plymouth Theatre)については、こちらに、「ロンドンの小さな劇場でやっていたというボーイ・ジョージの伝記的ミュージカルをブロードウェイ向けに手直ししたものらしい」と書いているが、そのロンドン(ウェスト・エンド)版の映像を後に観て、ブロードウェイ版とずいぶん違うのに驚いた。
 ロンドン版は、そもそも劇場(ヴェニュー劇場/現レスター・スクエア劇場)が席数400と小さい。ニューヨークで言えばオフ・オフの規模で、通常はスタンダップ・コミックをやるような劇場らしい。なので、猥雑な舞台の熱気が客席にまで押し寄せて来る。そんな印象。
 一方、ブロードウェイ版が上演されたプリムス劇場(現ジェラルド・ショーンフェルド劇場)は席数1,080。「手直し」の理由のひとつは、その規模感の違いにあったのかもしれない。いずれにしても、ブロードウェイ版は、ロンドン版にあった猥雑な熱気が弱まって、それゆえに脚本の物足りなさが目立ってしまう仕上がりだった。

 内容は、カルチャー・クラブで一世を風靡したボーイ・ジョージが有名になる前後、1980年代のロンドンのクラブ・シーンを舞台にした群像劇。中心になるボーイ・ジョージはじめ、当時話題になった有名人が実名で出てくるのが、ある意味“売り”なのだと思う。
 その内の1人がリー・バウリー(発音はバワリーに近いと思うが、この読みで流通しているようだ)。クラブ「タブー」を作った人物で、奇抜なファッションで名を馳せたファッション・デザイナー兼クラブ・プロモーター。彼を舞台上で演じるのが、他でもないホンモノのボーイ・ジョージ。彼が出ていることが、もちろん最大の“売り”。
 音楽の流行がロンドン・パンクからニュー・ロマンティックに移り変わる時代のクラブ・シーンの“顔”の1人だったファッション・デザイナー、フィリップ・サロンをラウル・エスパーザ(『The Rocky Horror Show』『tick, tick…BOOM!』が演じていて、彼が狂言回し的な立ち位置だった気がする。
 ボーイ・ジョージ役はユアン・モートン。これがブロードウェイ・デビュー。

 原案は、ボーイ・ジョージと、演出も務めているクリストファー・レンショウ(『The King And I』『High Society』)。
 楽曲は基本、作曲・作詞ボーイ・ジョージなのだが、「Co-Composer」としてケヴァン・フロスト、「Music Co-Writers」としてジョン・テミス&リッチー・スティーヴンスのクレジットがある。楽曲は、曲目や配置がロンドン版とはずいぶん違っている。
 脚本チャールズ・ブッシュ。
 前述したように、舞台作品としては物足りない(「こんな時代がありました」的再現に終始して、ひねりが足りない)ものだったが、 ボーイ・ジョージ演じるリー・バウリーの、と言うか、リー・バウリーを演じるボーイ・ジョージの異様な迫力は一見の価値があった。でもって、楽曲も悪くなかった。

 前年10月28日プレヴュー開始、11月13日正式オープンで、この年2月8日にクローズしている。
 当て推量に過ぎないが、この年、再開発で誕生した50丁目のワールドワイドプラザ地下にオープンしたオフの複合劇場ニュー・ワールド・ステージズあたりで、あのロンドン版の雰囲気そのままに上演していれば、もっと違った結果が出ていたのかも。

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