The Chronicle of Broadway and me #368(Assassins/Assassins[2])

2004年4月@ニューヨーク(その6)/2004年7月@ニューヨーク(その8)

 『Assassins』(4月23日20:00&7月15日20:00@Studio 54)の初演は、オフ・ブロードウェイのプレイライツ・ホライズンズ。1990年12月18日から翌1991年2月16日まで上演されている(演出ジェリー・ザックス)。残念ながら、その頃は年に1度、5月頃にだけ渡米していたので、観ていない。
 スティーヴン・ソンドハイム(楽曲)×ジョン・ワイドマン(脚本)のコンビの『Pacific Overtures』 に次ぐ2作目のミュージカルで、タイトル通り、アメリカ大統領の「暗殺者たち」が主人公。成功した者も未遂に終わった者も含めて、全員が実在の人物。
 このブロードウェイ版は、当初2001年の上演が予定されていたが、同年に同時多発テロが起こったため、この年まで延期された。延期の理由の内には、作品の題材が不穏であることが含まれていたのだろうと思う。
 幕間なしの全1幕。演出はジョー・マンテロ。振付ジョナサン・バタレル。
 ブロードウェイでは初の上演であるけれども、トニー賞ではリヴァイヴァル扱いとなった。

 登場する暗殺者は9人。
 リンカーンを暗殺したジョン・ウィルクス・ブース、ジョン・F・ケネディを暗殺した(とされる)リー・ハーヴェイ・オズワルド。この2人は極東の島国に住む異邦人でも知っている。残りの7人は、プレイビルに書かれたプロフィールを読まないとわからない。フォードやレーガンの暗殺未遂は、事実として知ってはいても犯人の名前までは覚えていない。といったことも含め、この作品は、アメリカ人と、それ以外の国の住人(ことに極東の島国の住人)とでは、ずいぶん感じ方が違うだろうなと思う。まあ、あらゆる作品がそうなのだが、これは特に。その時代の空気感を肌で知っているかどうか、とか。

 ともあれ、その9人の暗殺者(になる者たち)が時代を超えて集合。見本市の射撃場で銃を渡され、銃器商に唆されて大統領を撃つことになり(「C’mere and kill a President」)、その一部始終が観客に披露されていく。まるでヴォードヴィルの演目のように。
 それは、様々な時代のアメリカに生きた、市井の人たちの巻き起こす、あるいは巻き込まれる驚きの物語。しかし、驚きはするけれども自分の人生もそうなっていたかもしれないと思わせる、もうひとつの自分の物語。
 そういうことなのだと思う。つまりは、大統領暗殺事件を民衆視線で逆照射してアメリカの歴史を見直してみる試み。

 ソンドハイムの楽曲は、描かれる時代と作品のスタイルを反映して、多くがメディスン・ショウやヴォードヴィルの音楽のようであり、それまでの作品の楽曲とはやや趣が異なる。時代感を出すためだろう、広く知られた楽曲のメロディの引用も散見される。
 “バラッド歌い(The Balladeer)”という役名の付いた語り部によるトラディショナル・フォーク・ソング調の歌が用意され、暗殺者たちのドラマをつないでいくのも特徴的。それは一見(一聴)陽気だが、裏に不安が隠されているようでもあり、舞台の基調となる不穏な雰囲気を醸成する効果を生んでいる。

 しかし、この作品でソンドハイムの楽曲以上に印象に残るのは、何度も鳴り響いて、その度にドキッとさせられる銃声だったりする。
 観終わった時には精神的にかなり消耗してしまっている、そんな作品だ。

 出演者は、暗殺者たちを扇動する銃器商がマーク・クディッシュ、バラッド歌いがニール・パトリック・ハリス、ジョン・ウィルクス・ブースがマイケル・サーヴェリス。
 面白いのは、オフ版では別の役者が演じていたリー・ハーヴェイ・オズワルドをニール・パトリック・ハリスがバラッド歌いとの二役で演じていること(二役と言うより、バラッド歌いが実はオズワルドだった、という印象があるが)。実は、オフ版以前のリーディングの際にはこの両役を同じ役者が演じていたようで、当初のアイディアに戻したということになるのだろうが、この配役については2ヴァージョンが各地の上演で混在しているようだ。

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