The Chronicle of Broadway and me #540(Road Show)

2008年11月@ニューヨーク(その9)

 『Road Show』(11月23日19:00@Public Theater)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<長らくニューヨーク入りが噂されていたスティーヴン・ソンドハイム(楽曲作者)の新作ミュージカル『Wise Guys』が、『Road Show』と名を変えて(内容も変わったようだ)、ついにオフに登場。
 実在した、野心はあるが実直な兄と、ほとんど詐欺師の弟、という兄弟の、19世紀末のゴールド・ラッシュから1930年代のフロリダの不動産ブームに到る40年の、愛と葛藤の物語。
 演出は、このところソンドハイムのブロードウェイ・リヴァイヴァルを続けて演出してきたジョン・ドイルで、2005年の『Sweeney Todd』同様、いっぱいに積み上げられた家具やトランクの山という、細部は具象的で全体が抽象的な装置デザインも手がけ、舞台に濃密な空気感を作り上げて、全1幕2時間のドラマを一気に見せる。
 楽曲は、この作者にしては適度なポップさも含み、親しみ易い。深い感動は生まないかもしれないが、充実したミュージカル体験は得られる舞台だ。>

 題材となったのはアディソンとウィルソンのマイズナー兄弟。兄は不動産業者として、弟は戯曲作者としても知られている。クリーヴランド・アモリーの書いた「The Last Resorts」という彼らの伝記があり(1952年刊)、それを元に、マイズナー兄弟の友人でもあったアーヴィング・バーリンが『Wise Guy』というミュージカルを作ろうとして中途で終わる、ということもあったようだ。
 ソンドハイムもやはり50年代に、その伝記のミュージカル化をオスカー・ハマースタイン二世と相談。プロデューサーのデイヴィッド・メリックが実現に向けてソンドハイムに働きかけるということもあった。と、これはウィキペディア情報。
 この『Road Show』に到るまでの近年の動きは、上掲感想にある『Wise Guys』のタイトルによるニューヨーク・シアター・ワークショップでの上演が1999年10月(演出サム・メンデス、出演ネイサン・レイン、ヴィクター・ガーバー他)、それに手を加えてタイトルも『Bounce』と変更してのシカゴのグッドマン劇場での上演が2003年6月(ソンドハイムと組むのは『Merrily We Roll Along』以来となるハロルド・プリンスの演出※、出演リチャード・カインド、ハワード・マッギリン、ジェイン・パウエル、ミシェル・ポーク他)、同年秋『Bounce』のワシントンD.C.上演、2006年パブリック・シアターで同作の非公開リーディング、と来た上で、全1幕にまとめた『Road Show』としてのこの公演、ということのようだ。

 脚本は、ソンドハイムとは『Pacific Overtures』『Assassins』を共作しているジョン・ワイドマン(『Anything Goes』『Big』『Contact』)。
 ワイドマンの関わるソンドハイム作品には、いつもアメリカ近代史的側面があって興味深い。そこには、表舞台からは見えにくいアメリカの、うすら寒い気配がある。そして、そのうすら寒さは、あらゆる近代国家に共通のものなのかもしれない、と思ったりもする。

 出演は、マイズナー兄弟の、兄がアレグザンダー・ジェミナニ(『Assassins』『Sweeney Todd』『Les Miserables』『Sunday In The Park With George』)、弟がマイケル・サーヴェリス(『The Who’s Tommy』『Titanic』『Assassins』『Sweeney Todd』『LoveMusik』)、兄弟の母がアルマ・クエルヴォ(『Titanic』)、父がウィリアム・パリー(『Passion』『Gypsy』)。アンサンブルで、オンの『Caroline, Or Change』で月を演じていたアイシャ・デ・ハースが出ていた。

 このパブリック・シアター公演、及び『Bounce』のシカゴ公演は、どちらもノンサッチ・レコーズからオリジナル・キャスト盤が出ている。聴き比べてみると面白い。

※ソンドハイムとプリンスの『Bounce』での“復縁”は、前年秋(2002年9月30日)開催の『Merrily We Roll Along』リユニオン・コンサートの成果か。ロニー・プライス、グッジョブ!