The Chronicle of Broadway and me #465(In The Heights) & The Chronicle of Broadway and me #504(In The Heights[2])

2007年2月@ニューヨーク(その2)/★2008年4月@ニューヨーク(その2)

 日本でも2021年7月30日から上映が始まる映画版『In The Heights』。その紹介記事をこちらに書きました。
 いい機会なので、舞台版の感想も上げておきます。
 

 リン=マニュエル・ミランダの出世作『In The Heights』がオフ・ブロードウェイに登場したのは2007年2月8日(~7月15日)。
 同作のことは前年の7月末にプレイビルのサイトで「A new Latino-infused musical」として紹介されているが、その記事に出てくる関係者の名前は、まず3人のプロデューサー、次いで演出のトーマス・カイルと振付のアンディ・ブランケンビューラー、段落が変わって脚本のキアラ・アレグリア・ヒューディズと来て、その後にようやく楽曲(+原案/主演)のリン=マニュエル・ミランダ。主要スタッフでミランダより後に名前が出てくるのは、編曲のアレックス・ラカモアだけだ。
 2005年7月にコネティカットで1週間ほどの試演が行なわれているが、海外在住の一観客の耳に聞こえて来るほどの評判にはなっておらず(ミランダがジョージア・ホロフ作詞賞という賞を受賞してはいる)、プレイビルのサイトにおいてすら、この時点でのミランダはほぼ無名だった。
 

 『In The Heights』(2007年2月11日19:00@Theatre A/37 Arts)

 そんなわけで予備知識ゼロで臨んだオフ公演。観た後に旧サイトに書いた感想は次の通り(<>内)。

 <マンハッタンのワシントン・ハイツを舞台にしたキューバ系住民の話。なので、音楽はサルサを軸に、時にヒップホップの方にまで振れる。設定は現代だが、どこかノスタルジックな雰囲気なのは、しみじみとした心温まるコミュニティを描いているせいか。内容に際立ったところはないが、楽曲もよく、後味のいい舞台だ。>

 サイトには書かなかったが、観てすぐに思ったのは、松竹新喜劇みたいだなということ。三世代の人々のホロっとさせるところのある人情喜劇だからで、加えて、ラップ/ヒップホップを使いながら尖がった印象がないのも新鮮だった。妙に新しぶっておらず、確かな作風を持っていることに好感を持った、ということだ。
 ただし、「キューバ系住民の話」と書いていることからわかるように、ドミニカやプエルトリコのことは聞き逃している。まあ、細かいことは他にもたくさん聞き逃しているのだが(笑)。なので、内容は、正確に言うと「ドミニカやプエルトリコやキューバなどカリブ海の島々からやって来た移民たちの話」ということになる。

 『In The Heights』(2008年4月6日19:00@Richard Rodgers Theatre)

 で、翌2008年のブロードウェイ公演。
 劇場は後に『Hamilton』が上演されることになるリチャード・ロジャーズ劇場。
 プレヴュー開始は2月14日、正式オープン3月9日。正式オープンの1か月後に観て旧サイトに書いた簡潔な感想は、次のようなもの(<>内)。

<基本的な感想はオフの時と変わらないが、前回よりもさらに深い感銘を受けたのは、オンに移ったことによるカンパニーのモチベーションの高さゆえか。この作品がトニー賞を獲っても驚かない。必見。>

 結局、この年のトニー賞でミュージカル作品賞、楽曲賞、編曲賞、振付賞を獲り、2011年1月9日までのロングランとなるわけだが、トニー賞に関して言えば、この年はライヴァルが少なかったが故の複数受賞という面もないではない。とはいえ、ブロードウェイに移っての3年近いロングランは、この地味な作品の持つ根源的な面白さを証明していると言っていいだろう。

 かつて来日公演もあり、最近は翻訳上演もされたので、ご覧になった方もいらっしゃるだろうし、なにより映画版を観る方の興味を削ぐことになるので、あらすじ紹介のようなものは省くが、全体に穏やかに見えても、作品の根本にカリブ海の島々からの移民に対する抑圧への抗議の意識が潜んでいることは指摘しておく。

 出演者は、語り部にして小さなボデガ(スペイン語圏でのデリ)を経営する主人公ウスナビ役がリン=マニュエル・ミランダ、ウスナビの敬愛する老女アブエラ役がトニー賞候補になったオルガ・メレディス(映画版にもただ1人同じ役で出演)、ウスナビが憧れるヴァネッサ役が2009年版『West Side Story』でトニー賞を獲るカレン・オリーヴォ、ウスナビの年下のいとこ役がここから3作続けてトニー賞候補となるロビン・デ・ヘスス、小さなタクシー会社を経営する中年夫婦役がジョン・エレーラ(オフ)→カルロス・ゴメス(オン)と『A Chorus Line』初演オリジナル・キャストのプリシラ・ロペス、その娘ニーナ役がマンディ・ゴンザレス、タクシー会社の従業員でニーナと恋仲のベニー役が『Hamilton』でワシントンを演じるクリストファー・ジャクソン、エネルギッシュな美容院のオーナー役が『On Your Feet!』でグロリア・エステファンの母親を演じるアンドレア・バーンズ、美容院の従業員カーラ役が2011年の『Wonderland』で主人公アリスを演じるジャネット・ダカル。
 こうして見ると、若手役者たちのスプリングボードになった作品だとわかる。
 なお、上記の役の内、プリシラ・ロペスの演じたタクシー会社経営者の妻は映画版には登場しない。その他、舞台版と映画版ではストーリーにも細かい違いが多々あるが、まあ気にするほどではない。

 映画版も面白い。近年のミュージカル映画の中では出色だと思うので、ぜひご覧ください。

The Chronicle of Broadway and me #465(In The Heights) & The Chronicle of Broadway and me #504(In The Heights[2])” への44件のフィードバック

コメントを残す