The Chronicle of Broadway and me #676(Merrily We Roll Along)

2012年2月@ニューヨーク(その3)

 『Merrily We Roll Along』(2月18日14:00@City Center)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<シティ・センター恒例、なかなかリヴァイヴァルされないミュージカルをコンサート形式でリヴァイヴァルする“アンコールズ!”シリーズの1作として登場したのが『Merrily We Roll Along』
 スティーヴン・ソンドハイム(作曲・作詞)の興行的失敗作(1981年のブロードウェイ初演は、プレヴュー52回、本公演16回で終了)として有名で、その後、ロンドンやアメリカ各地で何度かリヴァイヴァルが試みられているが、いずれも期間限定公演だったようだ。
 もう1つ、この作品が有名なのは、次第に時を遡っていくという特異な設定を持つこと(元はジョージ・S・カウフマンとモス・ハートの書いた1934年の同名戯曲)。
 いったいどんな話だ? はたして理解できるのか? と心配したが、百聞は一見に如かず。とてもわかりやすい舞台だった。もっとも、過去のリヴァイヴァルで加えられた改善を踏まえてのリニューアル上演だったようだが(楽曲も含め、かなり手が加えられている様子)。

 簡単に言うと、ミュージカルの楽曲作者コンビだったフランクリンとチャーリー、そして劇評家であるメアリーの友情物語。
 開幕直後は1980年代初頭、フランクリンは成功した作曲者であり、大物映画プロデューサーでもある。が、彼の周囲の人間関係は妙にギクシャクしている。その理由は、彼が友情や愛情を犠牲にしてでも現世的な成功を求めてきたことにあることが、過去に遡るにつれ、わかってくる。
 時間が少しずつ巻き戻り、事情が少しずつ見えてくる。ミステリーの謎解きのような、その展開が面白い。
 と同時に、若返っていく登場人物たちの傷ついた関係も少しずつ蘇っていき、古き佳き時代になっていく(時代が遡る際、実在の有名人と出演者との合成写真を映し出して、世相をユーモラスに表現。年配の客にバカウケしていた)。終盤、若き3人が出会った1957年に到る頃には、観客は、ほろ苦くも清々しい気持ちになってくる。
 それは感傷かもしれない。が、過去の持っていた可能性に思いを馳せることで、かすかな希望も湧いてくる。現世的な成功だけに価値があるとされるバブルを迎えようとする時代に、作者たちは、そうした意図を抱いてこの舞台を作ったのではないか。そんな気がする。

 楽曲はイキイキしていて魅力的。中でも、『In The Heights』の楽曲作者にして主演者だったリン=マニュエル・ミランダ演じるチャーリーが、自分を裏切ったフランクリンを揶揄して歌う「Franklin Shepard, Inc」は、その『In The Heights』のラップを思わせる躍動感に満ちている。ミランダを起用した由縁だろう。
 出演者で言えば、メアリーを演じたセリア・キーナン=ボルジャーも、出世作『The 25th Annual Putnam County Spelling Bee』同様“屈折した純真さ”を見事に表現。狂言回し的立場で、ミュージカル的には見せ所が少ない難しい役だと思うが、芝居の要になっていた。
 フランクリン役は最新リヴァイヴァルの『Anything Goes』で優男ビリーを演じたコリン・ドネールだが、ここでは甘さを生かしつつ、複雑な“悪役”をうまく演じていた。>

 脚本ジョージ・ファース(『Company』)。
 演出ジェイムズ・ラパイン(『Sunday In The Park With George』『Into the Woods』『Falsettos』『Passion』『Amour』『The 25th Annual Putnam County Spelling Bee』『Sondheim On Sondheim』)。振付ダン・クネクテス(『Xanadu』『Lysistrata Jones』)。

 主要な出演者は他に、アダム・グラッパー(『The Wild Party』『La Bohème』)、エリザベス・スタンリー(『Company』『Cry-Baby: The Musical』『Million Dollar Quartet』)、ベッツィ・ウルフ(『110 In The Shade』『Everyday Rapture』)。

 7年後に観た2019年オフ・ブロードウェイ・リヴァイヴァルの感想に<「開幕直後は1980年代初頭」というのは、初演の設定で、シティ・センター版は違っていたのかもしれない。プログラムが出てこないので確認できないが>と書いているが、“出てきた”プログラムには、やはり冒頭シーンの年代は書かれていなかった。もっとも、特定していないだけであって、(逆行する)時代の流れから言って1980年代初頭であることは動かないだろう。
 なお、初演版とこのシティ・センター版はキャスト盤が出ているので、楽曲の変更については容易に比較が可能。