The Chronicle of Broadway and me #697(Bring It On The Musical)

2012年7月@ニューヨーク(その2)

 『Bring It On The Musical』(7月29日15:00@St. James Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<昨シーズンの末に突然登場し瞬く間に消え去った『Leap Of Faith』の上演劇場に、入れ替わって姿を現したのが『Bring It On The Musical』。ハイ・スクールのチアリーディングの話、と聞いて、『High School Musical On Stage!』的な作品を想像していたが、ドラマとしては、はるかによくできていた。
 元は2000年の同名映画らしい(未見)が、かなり手を加えてあるようだ。ショウ場面も力が入っていて、観どころは多い。ことに、チアリーディングのアクロバティックな場面は、明らかにその道のプロが加わっていて、スリリングで迫力充分。それだけでも観る価値がある。

 ワスプ(WASP)色の濃い優良校で競争を勝ち抜き、夢だったチアリーディングのキャプテンとなって順風満帆のキャンベル。ところが、突然の学区変更により、低所得者層が多く人種も雑多な学校に転校になる。当然のごとく、ここで新たに仲間を募ってチアリーディングのチームを作ることになるわけだが、そこでヒロインであるキャンベルが“ひどい裏切り”をする展開がユニーク。
 住む世界の違う彼女に心を開いてくれた新たな“仲間”たちに、彼らの弱みにつけこむようなウソを言って、やる気にさせ、チームを作るのだ。と言うのも、転校するはめになった裏に、かわいい顔をした空恐ろしい後輩の謀略があったことがわかり、キャンベルが手段を選ばないほどの激しい復讐心を燃やしたからなのだが、結局は自分も、自分を陥れた相手と同類だったことに気づき、目を覚ます。が、時すでに遅く、“仲間”たちの心は冷めきって……。
 後の展開はご想像にお任せしたいが(笑)、メインになるのは、後輩との戦いではなく、裏切ってしまった新たな“仲間”からの信頼の回復であり、その過程でのヒロインの人間的成長、ということになる。
 ここで、うまいのは、ヒロインの裏切りを観客に納得させる“悪役”(=後輩)のキャラクター表現。極端に裏表のある自分本位の女子なのだが、彼女の裏の顔を表わすショウ・ナンバーがあって、そこでは、まるで舞台版『Spider-Man: Turn Off The Dark』に出てくる怪人たちのように大袈裟で徹底した“ワル”になる。その誇張した表現が、①表のドラマのシリアスな雰囲気を中和させる、と同時に、②この世の悪ってやつは実のところ笑えるくらいにひどいことを知らしめもする。
 ※(追記)後輩が“怪人”のようになるのはヒロインの妄想の中。“裏の顔を表わすショウ・ナンバー”自体は乙女チックな表現になっていて、それが逆に怖い。その後、“怪人たち”的な顔も表に出てくる。
 あと、ヒロインにくっ付いて回る三枚目キャラながら肝心のところでビシッとキメる、『Hairspray』で言えばペニーに当たる役、ブリジェットの存在も効いている。

 そのブリジェットを演じたライアン・レッドモンドや、キャンベル役のテイラー・ラウダーマンを含め、主要キャスト5人は全員ブロードウェイ・デビューだが、その内、新たな“仲間”の中心ダニエル役は、来日もしたアポロ・シアター版『Dreamgirls』で第三の女ローレルを演じたエイドリアン・ウォーレンだった。

 作曲/トム・キット(『Next To Normal』)+リン・マニュエル・ミランダ(『In The Heights』)、作詞/アマンダ・グリーン(『High Fidelity』)+リン・マニュエル・ミランダ、脚本/ジェフ・ウィッティ(『Avenue Q』)、演出・振付/アンディ・ブランケンビューラー(『In The Heights』振付)と、ここ10年ほどの間にブロードウェイに登場した力作・話題作に関わったスタッフが集結しての直球勝負。さて、当たるか。>

 2012年7月21日プレヴュー開始、8月1日正式オープン、同年12月30日クローズ。残念ながら半年もたかなったが(※注→次回観劇の感想参照)、それでも、この作品は、アリアナ・デボーズがブロードウェイ・デビューを飾った舞台として歴史に名を残すことになる。

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