The Chronicle of Broadway and me #977(Between Gods And Kings: A New Rock Show/We Are The Tigers)

2019年3月~4月@ニューヨーク(その9)

 ロック系の楽曲によるオフのミュージカル2本について。
 

 『Between Gods And Kings: A New Rock Show』(3月28日22:00@Bedlam)は、ダウンタウンのハズレにある小さなバーでの公演。
 紹介記事に「イマーシヴ」という語を見かけたが、要するに、ちゃんとしたステージがあるわけではなく、バーカウンターの上や客のいるフロアを使って間近で演技するという……。そういう意味ではまさに没入型(笑)。

 元になっているのは、エウリピデスの書いたギリシア悲劇『Bacchae』(邦題:バッコスの信女)。
 バッコスは英語読みではバッカス、つまりゼウスの子の1人ディオニュソスのこと。故郷テーバイの治政者である王ペンテウスが自分に反抗的であることを怒ったディオニュソスが、自身の信者である女たちを狂乱させてペンテウスを八つ裂きにする。その女たちの中にはペンテウスの母アガウエーも混じっている。実は、それ以前に、そのアガウエーとディオニュソスの亡母セレメーが姉妹で、セレメーの死にまつわる因縁話が存在していて……とまあ、調べるとそういう話。
 話がそんな風である上に、キーボード、ギター、ドラムスというバンドに加えて、ディオニュソス役がギターを、もう1人ポリュドロス(セレメーやアガウエーの兄弟)を演じる役者がベースを、それぞれガンガン弾きながら演技をし、歌うので、ヘヴィー・メタル・バンドの演劇的コンサートを観ている気分。

 作曲・作詞ニール・ダグラス・ライリー、作詞・脚本オースティン・ラファー&マギー・ハースクロウィツ。創案はライリーとラファー。
 演出家のクレジットがないってことはライリーとラファーがそれも兼ねているのかも。
 おいしいエール・ビールを飲みながら(1ドリンクはマスト)、ヘェ~こんなのもアリなんだな、と面白く観た。
 


 『We Are The Tigers』(3月31日19:00@Theatre 80 St Marks)は元々は2015年にロスアンジェルスでプレミア上演された作品らしい。

 歯車が嚙み合っていないチアリーディングのチームのメンバーが、合宿のために集まった家の中で正体不明の殺人者に殺されていく、という話で、普通なら、ホラーのコミカルなパロディだったり、あるいはサスペンスフルなスリラーだったりするところなのだが、そのどちらでもないというのが不思議なところ。
 むしろ、仲間同士の心理戦(自身の体調とか悪癖とかチーム内のパワハラとか恋愛とかに関する)の様相が強く、そのあたりは似た題材の『Bring It On The Musical』『Mean Girls』と似ていなくもないし、楽曲だけ聴いていると、まさに、その(ちょっと苦い現代的青春物語)系統。にもかかわらず、2幕を通じて(ほぼ)合宿のために集まる家の地下室だけを舞台にしたドラマは、閉所恐怖症的空気が濃厚で弾けるところがない。
 実は、第1幕の最後に真犯人でない人間が逮捕されることになり(そうとわかっていて関係のない仲間の1人を警察に差し出す)、第2幕は、その1年後という設定。再び殺人現場に集まったメンバーが真犯人は誰なのかを探り合うという構造は、明らかにスリリングなミステリー。なのだが、そこもあまり緻密に作られているとは言えない。
 というわけで、けっして完成度が高いわけではないのだが、そのどこか曖昧でダウナーでドラッギーな雰囲気が(西海岸産のせいか?)なぜか印象に残る。そんな奇妙な作品。

 作曲・作詞・脚本プレストン・マックス・アレン。
 演出マイケル・ベロ(『Between The Sea And Sky』)。振付キャサリン・ロアティ。

 キャプテンのライリー役ローレン・ザクリン(『Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812』)は、2023/2024シーズンの新作ミュージカル『Once Upon A One More Time』に人魚姫役で出演予定。
 他に、ウォヌ・オーガンフォウォラ(『A Bronx Tale The Musical』『Summer:The Donna Summer Musical』)、ジェニー・ローズ・ベイカー(『Fiddler On The Roof』『Between The Sea And Sky』)ら。

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