The Chronicle of Broadway and me #743(Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812) & The Chronicle of Broadway and me #868(Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812[2])

2013年9月@ニューヨーク(その4)2016年11月@ニューヨーク(その2)

 『Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812』(9月28日14:30@Kazino)のオフ版と、その3年後に観た2016年のブロードウェイ版(11月17日19:00@Imperial Theatre)とについて、旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<“グレイト・コメット”こと『Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812』の原作は、トルストイの小説「戦争と平和」。
 同作の中心人物であるナターシャとピエールを中心にした群像劇で、やはりタイトルにある1812年とはナポレオンによるロシア侵攻の年。この舞台で描かれるのは、その前夜で、原作小説で言えば第2巻の後半にあたるようだ。

 2012年にオフのアルス・ノーヴァ劇場で上演した後、翌2013年、ダウンタウン寄りのミートパッキング地区に建てたテント状の仮設劇場カジノ(という名前)で再演。そのカジノ劇場は間もなくブロードウェイ劇場街にポッカリと空いた更地に移される。
 その時の公演を観たが(2013年9月28日)、ロシア歌謡的なものやオペラからハウス・ミュージック的なものまでをキャバレー音楽の意匠でくるんだような濃密な楽曲群と、華やかかつ重厚に映る骨董めいた装置で彩られた舞台空間の中に客席が混在するテント劇場ならではの雰囲気が、爛熟期のロシアを思わせる退廃的でエキセントリックな空気を生み出して刺激的だった。
 バンドはリズム隊の他にアコーディオンや木管も含み、それらミュージシャンとは別に、アンサンブルの役者たちもギターやヴァイオリンやパーカッション等を奏でるあたり、旅芸人の即興劇的印象も強い。そうした要素に呼応して、役者の演技もかなり熱っぽい。この時の公演が高い評価を受け、オフのトニー賞とも言うべきオビー賞他を受賞している。

 その後、間にマサチューセッツ公演を挟んで登場してきたブロードウェイ版は、そうした空気を生かすべくインペリアル劇場の舞台と客席を改造。階段状に客席を設えた、19世紀にあったかもしれない高級ナイトクラブといった仕様にしてあり、舞台上にもかなりの数の客席がある。席によってはテーブルもあって実際に飲み物がサーヴされてもいる。もちろん、随所にオフの時同様の骨董めいた装置も誂えてある。
 というわけで、オフの時の雰囲気をほぼ再現、熱い舞台に仕上がった(余談だが、この客席の改造により、少なくとも観に行った時点では、客入れにかなり時間がかかっていた)。

 楽曲作者のデイヴ・マロイは、脚本、編曲も手掛け、オフ版では役者としてピエールを演じるというマルチな才能を発揮している。
 演出レイチェル・チャフキン、装置ミミ・リエン。>

 ナターシャ役は、オフ版が『Hamilton』でイライザ・ハミルトンを演じることになるフィリッパ・スー、ブロードウェイ版がデネイ・ベントン(ベントンが後に『Hamilton』にイライザ・ハミルトン役で途中出演するのは面白い)。
 ピエール役でデイヴ・マロイが出ていたのはテント劇場カジノがミートパッキング地区にあった時までで、テントがブロードウェイ劇場街に移った時(最初の観劇時)のピエール役はデイヴィッド・エイベルズ、ブロードウェイではジョシュ・グローバン(ブロードウェイ・デビュー)だった。
 他に、ブリテン・アシュフォード、ルーカス・スティール(『The Threepenny Opera』)、アンバー・グレイ(後に『Hadestown』)、グレイス・マクリーンといった面々がオフ/オン共通で出演している。

 演出のレイチェル・チャフキンは2016年にオフで幕を開ける『Hadestown』を手がけることになる。書き落としているが、振付はサム・ピンクルトン。

 上掲写真は、左がブロードウェイ劇場街に移った後のテント劇場カジノ(開演前に劇場の外で呼び込み音楽を演奏していた楽団員あるいは役者)、右がオンのインペリアル劇場。

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