The Chronicle of Broadway and me #967(Alice By Heart)

2019年2月~3月@ニューヨーク(その9)

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 『Alice By Heart』(3月3日19:00@Newman Mills Theater/MCC Theater Space)について書いた観劇当時の感想(<>内)。

<ミュージカル版『Spring Awakening』のコンビ、ダンカン・シーク(作曲)+スティーヴン・セイター(作詞・脚本)の新作ミュージカル。共同脚本・演出はジェシー・ネルソン。

 1941年、ドイツ軍による空襲下のロンドン。臨時の防空壕としての地下鉄の駅が舞台。そこは、防空壕(shelter)であると同時に、うまく現実と折り合えない人々が逃げ込んだ、社会からの避難所(shelter)のようでもある。
 その中の一人、夢見がちな少女アリス・スペンサーは、ケガをしてベッドに横たわっている少年アルフレッドのために、大好きな小説「不思議の国のアリス」を読んできかせようとする。そうすることで悲惨な現実から逃れられると信じてでもいるように。そして、激しさを増す爆撃の下、少女アリスは、アルフレッドにソックリの白ウサギに導かれて「不思議の国」に落ちていく……。

 この舞台の魅力は、シーク&セイターの激しさと静謐さを併せ持つ楽曲+リック&ジェフ・クーパーマンのユニークな振付にある。
 ことに振付。
 ここでのクレジットは「choreographed」になっているが、むしろ「movement created」と呼びたくなる“振付”で、ダンスと言うよりはサーカス的な不思議な“動き”。でもって、個々人の動きもさることながら、何人かが組み合わさっての躍動的な動きが見事。
 わかりやすい例は、水煙管を吸う毛虫。10人が縦列になって、つなぎ合った腕を波打たせながら気味悪く進んでいく。個々の動きで一つ挙げると、マッド・ティー・パーティでのいかれ帽子屋や三月ウサギの狂騒的なアクション。これは凄まじい。
 そのユニークな動きで表現するのは、そうした奇妙なキャラクターたちに留まらない。「不思議の国」で起こる奇妙な事象までもを“人力”で表していく。例えば、落ちていくアリスを表現する時のアリスを支えて移動させていく様とか。
 つまり、クーパーマン兄弟の“振付”の成果は、奇妙なキャラクターや「不思議の国」を魅力的に表現すると同時に、その表現の仕方自体も奇妙で魅力的、という二重の“魅力”を生み出していることにある。
 それを実現させる役者たちの力量も素晴らしい。

 加えて小道具のアイディアにもハッとさせられる。
 「不思議の国」にありながらも、戦時下であることを思い起こさせる銃や鉄カブトが奇妙なキャラクターの一部として使われているのだ。どこまでも追いかけてくる現実。その不気味さ。
 地下鉄の駅と「不思議の国」とを行ったり来たりするセットも含め、エドワード・ピアースの秀逸な仕事。

 最終的に物語として救いがあるわけではない。アリスは現実からは逃げ出せない。戦争は続く。その宙ぶらりんな感じが2019年の現実とつながり、見事な舞台表現に満足した観客の心にもわだかまっていく。そんな舞台。>

 アリス役モリー・ゴードン。アルフレッド役は、『Dear Evan Hansen』舞台版のエヴァンやコナーのアンダースタディで、映画版でコナーを演じることになるコルトン・ライアン。
 他に、ウェズリー・テイラー(『Rock Of Ages』『The Addams Family』『SpongeBob SquarePants:The Musical』)、今(2022/2023シーズン)『Bad Cinderella』に出ているグレイス・マックリーン(『Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812』『Molly Murphy & Neil DeGrasse Tyson On Our Last Day On Earth』)、この年の秋に『Tina: The Tina Turner Musical』でブロードウェイ・デビューして週2回ティナを演じることになるヌケキ・オビ=メレクウェ、キャサリン・リカフォート(『Honeymoon In Vegas』『Allegiance』『Disaster!』『Holiday inn, The New Irving Berlin Musical』)等が出演。

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