The Chronicle of Broadway and me#1058(Bad Cinderella)

2023年5月~6月@ニューヨーク(その2)

 シンデレラが主人公の2作品『Bad Cinderella』『Once Upon A One More Time』を続けて観た。しかし、これほど似通ったミュージカルが同じ時期に登場したのは、ある種の必然ですかね。
 まずは、その第1弾。

 『Bad Cinderella』(5月27日14:00@Imperial Theatre)はアンドリュー・ロイド・ウェバーの新作ミュージカル。
 ウェスト・エンドで2021年にプレヴューを開始、コロナ禍で一時中断の後、同年8月に正式オープンして翌年6月まで続いた『Cinderella』に手を加えてのブロードウェイ移植だったが、トニー賞で全く候補にならなかったせいか、6月4日でのクローズを発表している。

 それも無理ないか、と、観て思った。
 よく知られた題材を扱っている割には、改変の根本のアイディアに新鮮な驚きがない。それが決定的だが、加えて、楽曲、演出、振付、いずれも決め手を欠く(群舞を生かした振付は活気があっていいかな、と思ったのだが、後述する理由で評価が下がった)。
 あえて言えば、王子の母(つまり女王)のキャラクターを、シンデレラの義母に勝るとも劣らない強力なものにしたあたりが見どころだが、肝心のシンデレラの印象が、”バッド”と付けた割には従来とさほど違って見えないのが、なにより痛い。

 超ざっとストーリーを紹介すると。
 不良として知られるシンデレラと、親に愛されずに育ったっぽいセバスチャン王子(元の話に出てくる王子チャーミングはドラゴンとの戦いで亡くなっていて、その弟)とは、共に自分の居場所がないと感じていることもあり、幼い頃から惹かれ合っていた。それを知ったシンデレラの義母が、自分の実子を王宮に送り込むために女王と結託して2人の仲を裂こうとする。
 王子の結婚相手を決める舞踏会が開かれることになり、義母とその娘たちから置き去りにされたシンデレラは、魔法使い的な整形外科医の力を借りて華やかな扮装で城に乗り込むが、ワイルドな格好の彼女しか知らない王子は正体に気づかず、成り行き上、義母の連れ子と結婚することになる。ところが結婚式にチャーミング王子が現れ、同性の恋人との結婚を宣言する。彼は、押しつけられる結婚を嫌って死亡を装っていたのだった。セバスチャンが結婚したと思ったシンデレラは町を出ようとするが……後は推して知るべし。

 随所に現実社会に対する様々な揶揄を潜ませてあるようだが、どうにも上っ面。
 1つには、最初こそ反逆者然として登場するシンデレラが、その後は(セバスチャンを好きなので町を離れたくないという事情があるにせよ)不満を言いつつも唯々諾々と現実と折り合っているように見えるから。ことに、義母のウソを信じて”物語の世界観的に美しく”変身するあたり、若さゆえとはいえ残念(もっと違った展開が考えられたのでは?)。前述したように、シンデレラ像が、例えば、あのディズニー・アニメーション版の愚かしさからも、それほど離れているようには見えない。
 もう1つは、王族の支配する世界を作者が肯定的に捉えているから。主人公たちの恋愛が成就すればOK、というのが、この物語世界の限界。まあ、ロイド・ウェバー男爵ですからねえ。

 作詞は『The Woman In White』でロイド・ウェバーと組んでいるデイヴィッド・ジッペル(『City Of Angels』『The Goodbye Girl』『The Best Is Yet To Come: The Music Of Cy Coleman』)。
 脚本エメラルド・リリー・フェネル。補作アレクシス・シアー。
 演出ローレンス・コナー(リヴァイヴァル版『Les Miserable』『School Of Rock The Musical』リヴァイヴァル版『Miss Saigon』)。振付ジョアン・M・ハンター(『On A Clear Day You Can See Forever』『Grease』@N.J.『School Of Rock The Musical』『Disaster!』Annie』@N.J.『Unmasked』)。前述したように振付は悪くなかったのだが、『Once Upon A One More Time』の振付も同趣向。好みはともあれ、向こうの方が派手だったので割を食った。

 義母役はキャロリー・カーメロ(『Falsettos』『Parade』『A Class Act』『Funny Girl: The Concert』『Elegies: A Song Cycle』『Baby』『Lestat』『The Addams Family』『Scandalous: The Life And Trials Of Aimee Semple McPherson』『Finding Neverland』『Tuck Everlasting』『Sweeney Todd』)。『1776』に続いての憎まれ役で舞台を支える。
 女王役はグレイス・マクリーン(『Natasha, Pierre and the Great Comet of 1812』『Molly Murphy & Neil DeGrasse Tyson On Our Last Day On Earth』)。カーメロとの丁々発止は最大の見もの。
 シンデレラ役リンディ・ヘナオ。名前の発音からも、『On Your Feet!』でブロードウェイ・デビューしていることからもわかるように、ヒスパニックのようだ。
 セバスチャン役ジョーダン・ドブソンはこの日代役でクリスチャン・プロブスト。頼りなげな感じも、途中で見せるキレのいいダンスも悪くなかった。
 魔法使い的な整形外科医役クリスティナ・アコスタ・ロビンソン(『Summer:The Donna Summer Musical』)の不気味な印象は、まるで『The Who’s Tommy』のアシッド・クイーン。彼女の演技に問題はないが、演出としては二番煎じ感を否めない。
 義母の連れ子の1人アデール役サミ・ゲイルはパティ・ルポン版『Gypsy』のベイビー・ジューンを演じていたようだ。
 他に、連れ子の片割れマリー役モーガン・ヒギンズ。生き返る(笑)ムキムキのチャーミング王子役キャメロン・ロイヤル。

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