The Chronicle of Broadway and me #410(The Woman In White)

2005年6月@ロンドン(その6)

 『The Woman In White』(6月16日19:30@Palace Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<アンドリュー・ロイド・ウェバーの凡庸なオペラ趣味の楽曲と、ハーレクイン・ロマンとゴシック・ホラーの中間のようなヴィクトリア時代の古臭い通俗的なストーリーを、CGを駆使した新奇なセットと演出で救おうとして、果たせなかった作品。
 開幕すぐの第一声からして、別に歌わなくても、と思うほど無理やりなオペラ仕様は、幕間に観客にマネされるほど強烈で、ギャグ寸前だ。>

 原作はミステリーの古典「月長石」(The Moonstone)で知られるウィルキー・コリンズの同名小説(翻訳邦題:白衣の女(びゃくえのおんな))。19世紀半ばのベストセラーらしい。英語版ウィキペディアには、同時代のディケンズの短編ホラー小説「信号手」(The Signal-Man)の要素も使われていると書いてある。冒頭と結末がそうだろう。
 不気味な雰囲気の中での謎解き。ひと言で言えば、そういう話。
 話の核となるのが主要登場人物と瓜二つの人物の存在で、それを利用したワルモノによる遺産目当てのすり替え事件。ありがちで強引だが、けっこう時代を超えて生き続けているパターンでもある。もとよりゴシック・ホラー的なのだから、持っていきようではウケるかもしれない。宝塚歌劇なら、うまく1幕にまとめ上げそうな題材だ。
 が、面白くならない。脚本はシャーロット・ジョーンズだが、原因はもっぱらロイド・ウェバー作曲の楽曲(作詞デイヴィッド・ジッペル)の退屈さにある。
 『Sunset Boulevard』以降、ロイド・ウェバー作品に当たりはない。その『Sunset Boulevard』も、「With One Look」と「As If We Never Said Goodbye」の2曲でなんとか面目を保ったものの、作品の質は高くはなかった。ところが、その『Sunset Boulevard』にあった2曲に相当する楽曲が『The Woman In White』にはない。ほとんどの曲が過去の楽曲を薄めて再生産した感じ。にもかかわらず、それを役者が延々歌い継いで話を進めていくスタイルなものだから、間がもたない。演出(トレヴァー・ナン)では埋められない退屈さが生まれる所以だ。
 おまけに、「CGを駆使した新奇なセット」は、その効果がどうこう言う前に、予算がなくてCG(プロジェクションマッピング)に頼った感が濃厚だった。つまり、『Sunset Boulevard』の無理矢理な豪華さすらなかった。観客はがっかりするしかない。

 前年(2004年)9月に始まって、翌年(2006年)2月にクローズ。2005年のオリヴィエ賞では、新作ミュージカル賞、主演女優賞(マリア・フリードマン)、助演賞(マイケル・クロフォード※)、装置デザイン賞、音響デザイン賞で候補になり、かろうじて音響デザイン賞を受賞している。
 この年の秋にブロードウェイ版がオープンするが、観ないまま終わっているので、ここに結果だけ書いておくと、2005年10月28日プレヴュー開始、11月17日正式オープン、2006年2月19日クローズ。トニー賞では楽曲賞のみ候補になり、受賞せず。

 (※)観た時にはクロフォードはすでに降りていて、彼の演じた悪人フォスコ伯爵役はアンソニー・アンドリューズだった。