2005/2006シーズンのトニー賞の予想と結果を再録します(過去シーズンについてはこちら→1997/1998/1998/1999/1999/2000/2000/2001/2001/2002/2002/2003/2003/2004/2004/2005)。
旧サイトに別々に書いた「予想」と「結果と感想」とを同時にアップしますので、全体に若干編集してあります。ただし、予想や感想の内容には手を加えていません。
まずは予想と結果の一覧(◎☆は予想時のマーク。ニュアンスは、◎本命=審査員が投票しそう、☆対抗=案外これが獲るかも/獲ってくれないかな、といった感じ)。その後の<>の中が、当時の予想の根拠と、結果についての感想です。
[作品賞]
The Color Purple ☆
The Drowsy Chaperone ◎
Jersey Boys →受賞
The Wedding Singer
[リヴァイヴァル作品賞]
The Pajama Game ☆ →受賞
Sweeney Todd ◎
The Threepenny Opera
[主演女優賞]
Sutton Foster The Drowsy Chaperone ◎
LaChanze The Color Purple ☆ →受賞
Patti LuPone Sweeney Todd
Kelli O’Hara The Pajama Game
Chita Rivera Chita Rivera/The Dancer’s Life
[主演男優賞]
Michael Cerveris Sweeney Todd
Harry Connick, Jr. The Pajama Game ◎
Stephen Lynch The Wedding Singer ☆
Bob Martin The Drowsy Chaperone
John Lloyd Young Jersey Boys →受賞
[助演女優賞]
Carolee Carmello Lestat ☆
Felicia P. Fields The Color Purple
Megan Lawrence The Pajama Game
Beth Leavel The Drowsy Chaperone →受賞
Elisabeth Withers-Mendes The Color Purple ◎
[助演男優賞]
Danny Burstein The Drowsy Chaperone
Jim Dale The Threepenny Opera ◎
Brandon Victor Dixon The Color Purple
Manoel Felciano Sweeney Todd
Christian Hoff Jersey Boys ☆ →受賞
[演出賞]
John Doyle Sweeney Todd ◎ →受賞
Kathleen Marshall The Pajama Game
Des McAnuff Jersey Boys
Casey Nicholaw The Drowsy Chaperone ☆
[振付賞]
Rob Ashford The Wedding Singer ☆
Donald Byrd The Color Purple ◎
Kathleen Marshall The Pajama Game →受賞
Casey Nicholaw The Drowsy Chaperone
[楽曲賞]
Brenda Russell, Allee Willis and Stephen Bray The Color Purple ☆
Lisa Lambert and Greg Morrison The Drowsy Chaperone ◎ →受賞
Matthew Sklar(Music), Chad Beguelin(Lyrics) The Wedding Singer
Andrew Lloyd Webber(Music), David Zippel(Lyrics) The Woman In White
[脚本賞]
Chad Beguelin and Tim Herlihy The Wedding Singer
Marshall Brickman and Rick Elice Jersey Boys ☆
Bob Martin and Don McKellar The Drowsy Chaperone ◎ →受賞
Marsha Norman The Color Purple
[編曲賞]
Larry Blank The Drowsy Chaperone
Dick Lieb and Danny Troob The Pajama Game ☆
Steve Orich Jersey Boys
Sarah Travis Sweeney Todd ◎ →受賞
[装置デザイン賞]
John Lee Beatty The Color Purple
David Gallo The Drowsy Chaperone ◎☆ →受賞
Derek McLane The Pajama Game
Klara Zieglerova Jersey Boys
[衣装デザイン賞]
Gregg Barnes The Drowsy Chaperone ◎ →受賞
Susan Hilferty Lestat
Martin Pakledinaz The Pajama Game ☆
Paul Tazewell The Color Purple
[照明デザイン賞]
Ken Billington and Brian Monahan The Drowsy Chaperone ☆
Howell Binkley Jersey Boys →受賞
Natasha Katz Tarzan ◎
Brian MacDevitt The Color Purple
なお、このシーズンに登場してトニー賞のノミネーションに挙がらなかったブロードウェイ・ミュージカルは、『Lennon』『In My Life』 『Ring Of FIre』『Hot Feet』の4本。
★予想
<本来ならオフ・ブロードウェイ作品の規模とアイディアである『The Drowsy Chaperone』が最多ノミネーションというあたりに、全体の“小粒感”が見てとれる今シーズンのブロードウェイ・ミュージカル。個人的にも、昨年の『The Light In The Piazza』や『The 25th Annual Putnam County Spelling Bee』に匹敵する決定的作品はない。
したがって、[作品賞]は、候補4作のどれに行ってもいいようなもんだが、おそらく、『The Drowsy Chaperone』が審査員の舞台に対するマニアックな愛情をくすぐって票を集めるのではないか。
マニアックと言えば、『Jersey Boys』や『The Wedding Singer』も別の意味でマニアック。よくできてはいるが、小ぢんまりした印象はぬぐえない。
個人的には、アフリカン・アメリカン版“女の一生”を、音楽的魅力を存分に生かしながら大衆小説的にいきいきとまとめてみせた『The Color Purple』に1票。
昨シーズンに続き、[リヴァイヴァル作品賞]候補は3本。内2本は、ラウンダバウト製作。
個人的には、古臭さを感じさせない楽しい舞台に仕上げた『The Pajama Game』に1票だが、アメリカ舞台人のイギリスの演出家に対するコンプレックスとラウンダバウトに対する反発とから、『Sweeney Todd』が獲る可能性はある。
[主演女優賞]は激戦。昨年逃したサットン・フォスターが最有力か(昨年の方がよかったが)。昨年は助演女優賞候補だったケリ・オハラ、この賞の常連パティ・ルポンも、それぞれ多才ぶりを発揮して驚く。
が、昨年のオフの充実作『Dessa Rose』での役柄を精神的に引き継いで、オンで唯一無二の輝きを見せたラシャンズに、個人的な1票。
[主演男優賞]は、激戦と言うより混戦。一昨年の助演男優賞覇者マイケル・サーヴェリス、今回は脚本賞の候補にもなっているボブ・マーティンといった役者然とした人たちと、本職は音楽畑でこれがブロードウェイ・デビューのハリー・コニック・ジュニアやスティーヴン・リンチたち、それに、ピンポイントのなりきり役者としてブロードウェイにやって来た感のあるジョン・ロイド・ヤング。さて、どう評価するか。
“演技派”ということで言えばサーヴェリス、あるいはマーティンということになるのだろうが、熱演で舞台を引っぱる残りの3人も観逃せない。ヒュー・ジャックマンの例もあるのでコニック・ジュニアの線もあると思うが、個人的には、さりげないコミカルさがよかったリンチを推す。獲らないだろうけど。
女優は[助演女優賞]も激戦。
苦しい舞台の中で1人気を吐くキャロリー・カーメロを推したいが、『The Color Purple』の中盤を支えるエリザベス・ウィザーズ・メンデスの評価は高いだろう。『Urintown』組のミーガン・ローレンス、『Crazy For You』組のベス・リーヴェルも、儲け役として期待通りの見せ場を作る。
[助演男優賞]は、主演のアラン・カミングを食った感のあるジム・デイルで決まりか。個人的1票は、事実上の主役だと思うクリスチャン・ホフに。
[演出賞]は、リヴァイヴァル作品賞のところでも書いたが、アメリカ演劇人のイギリス・コンプレックスからジョン・ボイルに行く可能性はある。個人的には『The Drowsy Chaperone』のアイディアに1票。
しかし、ここで候補にならない『The Threepenny Opera』って、全否定と同様か。
[振付賞]のポイントは、フォッシーの出世作に挑んだキャスリーン・マーシャルがどう評価されるかだが、昨年のウェイン・シレント同様、やはり不利か。
ドナルド・バードのエネルギッシュな正攻法が感動も呼ぶし、最もわかりやすいが、ここは、あえて『The Wedding Singer』のシャレっけに1票。
[楽曲賞]では、審査員はノスタルジーに駆られて『The Drowsy Chaperone』に入れそうな気がするが、『The Drowsy Chaperone』や『The Wedding Singer』の楽曲の作風は、ある種のパロディだろう。ここでは、振付賞と逆に、『The Color Purple』の真っ向勝負に1票投じたい。
[脚本賞]は、スケールは小さいもののアイディアの詰まった『The Drowsy Chaperone』に行くか。
うまいと思ったのは、退屈になってもおかしくない伝記ものを、細かいギャグの積み重ねと語り手の変化で面白く見せた『Jersey Boys』。残る2作も、もちろん悪くないが。
[編曲賞]は、役者の楽器演奏という奇手を見事に生かした『Sweeney Todd』か。
個人的には、懐かしさは残しつつ古臭さを払拭した『The Pajama Game』を支持。
[装置デザイン賞]、[衣装デザイン賞]、[照明デザイン賞]はご覧の通り。
この3賞は候補作選びの基準が見えにくい。装置と照明は本来、併せて評価されるべきものだと思うのだが。そういう意味も含めて、『The Drowsy Chaperone』の比重を重くした。なにしろ、手が込んでいるから。>
★結果と感想
<受賞予想◎で6、個人的投票☆で4、内ダブり1で、9勝5敗。
当たる当たらない以前に、なんだかなあ、な結果です。まあ、昨シーズンと違って、そもそも納得のいく作品がなかったのだから、しかたないのですが。
とにかく、楽曲がオリジナルでない(つまり“ジュークボックス・ミュージカル”の)『Jersey Boys』に作品賞が行ったことが驚き。まあ、他の作品もどんぐりの背比べなことは予想で書いた通りですが、それでも審査員は、楽曲のオリジナル性にだけはこだわるのではないかと思ってました。ブロードウェイも来るところまで来た、という感じです。
業界的にはいろんな思惑が渦巻いているのでしょうが、たとえお祭りとはいえ、なんらかの筋は通さないと、マズいんじゃないですかねえ。ついでに言えば、トニー賞に対するある種の批評たるべきドラマデスク賞もすっかりトニー賞の亜流になって存在意義を失っているし。かなりヤバい。
ラシャンズの主演女優賞だけが救いだったような、今年のトニー賞でありました。>
“[Tony2006] 予想/結果と感想(season summary)” への17件のフィードバック