The Chronicle of Broadway and me #440(Hot Feet)

2006年4月@ニューヨーク(その3)

 『Hot Feet』(4月23日15:00@Hilton Theatre)は、アース・ウィンド&ファイアのレパートリーだった楽曲を使った“ジュークボックス・ミュージカル”。
 別途アップしてある「2006年の“ジュークボックス・ミュージカル”の状況」という論考の対象作品の1つ。下記感想中にもあるが、その論考の分類に従うと、“ジュークボックス・ミュージカル”としての“型”はB=使われる楽曲の原アーティストと関係のないストーリーが展開される『Mamma Mia!』型。“オリジナル演奏との距離感”は、①アレンジ=オリジナル演奏に“倣う”派、②楽曲の内容表現=オリジナル演奏の表現に“近い感触”派(分類の詳細は上記論考をご覧ください)。

 以下、観劇の約半年後に旧サイトにまとめた感想(<>内)。

<ここ(「2006年の“ジュークボックス・ミュージカル”の状況」)で採り上げた6作中、最も完成度が低かったのが『Hot Feet』だ。
 この作品に関しては、観劇後に書いた次の文章で言い尽くしていると言ってもいい(「」内)。

 「アース・ウィンド&ファイアの楽曲を使ったミュージカルだが、他のいくつかの作品のストーリーやスタイルをゴチャ混ぜにして作り上げたた印象(注:タイトルを挙げてあるのが類似した作品)。
 内容は、わがままな女性スターに代わって急遽ダンス・カンパニーの主演の座に着いた少女が(『42nd Street』)、悪魔の陰謀で(『Damn Yankees』)赤い靴を履き、踊り狂って死んでしまう(大筋はアンデルセンの『De røde sko』邦題:赤い靴)というもの。
 見どころは、そのダンス・カンパニーのレッスンや本番のダンス場面だが。その際に流れる楽曲の歌い手はバンドの一員で舞台上に姿は見えない(『Movin’ Out』)。一方、ドラマ部分では登場人物が時折、アース・ウィンド&ファイアのヒット曲をとってつけたように歌う(『Mamma Mia!』)。
 ダンスには一部観るべきところもあるが、ストーリーが陳腐で、演出もたどたどしく、長すぎるダンス部分がドラマと融合していない。早晩クローズするのでは?」

 とりあえず先の分類に当てはめると、“型”は『Mamma Mia!』同様に楽曲の原アーティストと関わりのないストーリーを持つB。そして、“オリジナル演奏との距離感”は、①のアレンジが“倣う”派、②の内容表現が“近い感触”派。
 ――と書いてくると、やはりダンスを表現の中心に据えた“ジュークボックス・ミュージカル”『Movin’ Out』と同じになってくるのだが、実際には、内容表現は“近い感触”派と言うより、BGM派とでも呼びたくなるぐらいに舞台にとって楽曲の意味が薄い。『Movin’ Out』にとっては(時代・地域・心情において)ビリー・ジョエルでなければならなかったが、それだけの必然性が、ここでのアース・ウィンド&ファイアにはないのだ。
 この作品が短命に終わった原因は、前述したように、「ストーリーが陳腐で、演出もたどたどしく、長すぎるダンス部分がドラマと融合していない」と全般にわたって多々あるのだが、根源的には、この“楽曲の必然性のなさ”が、失敗の最も大きな原因なのではないだろうか。
 元々がダンサー、振付家である、原案・演出・振付のモーリス・ハインズは、やはり振付家であるトワイラ・サープが手がけた『Movin’ Out』の成功を見て、自分もストーリーを持ったダンス・ミュージカルを作ろうと比較的簡単に考えたのではないか。
 近年再評価の機運の高まるアース・ウィンド&ファイアの楽曲を使えば、ある程度の支持は得られるだろう。いや、オリジナル楽曲のヒットの大きさはビリー・ジョエルに負けてはいないのだから、広い層にアピールしないとも限らない。少なくとも、そんな思惑を出資者には吹聴したはずだ。
 そうした安易な企画に出資する人がいるという事態が、すでに、ブロードウェイにおける“ジュークボックス・ミュージカル”隆盛(と言っても、たいして当たってはいないのだが)の弊害なのだという気がしてならない。>

 前述のモーリス・ハインズはグレゴリー・ハインズの兄。
 脚本のヘルー・プターは詩人・小説家。

 主演のダンサー役ヴィヴィアン・ニクソンはデビー・アレン(『Sweet Charity: The Concert』)の娘だとか。
 他に、『Jelly’s Last Jam』のオリジナル・キャストでチムニー・マンを演じたキース・デイヴィッド、同じく『Jelly’s Last Jam』組で次の『Noise/Funk』ではメインのシンガーだったアン・デュケスネイが出ていた。

 2006年4月20日プレヴュー開始、4月30日正式オープン、7月23日クローズ。

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