[Tony2018] 予想/結果と感想

 2017/2018シーズンのトニー賞の予想と結果を再録します。このシーズンは、ちょうど旧サイトから本ブログへの移行時期と重なっていたため、個別のブロードウェイ作品の感想は上げたものの、旧サイトに書いてあったトニー賞については再録しないままだったことに気づいたので、遅ればせながらのアップです(これ以前のシーズンですでに上げてあるトニー賞の予想と結果・感想ついてはこちら→1997/19981998/19991999/20002000/20012001/20022002/20032003/20042004/20052005/20062006/20072007/20082008/20092009/20102010/20112011/20122012/20132013/20142014/20152015/20162016/2017)。
 旧サイトに別々に書いた「予想」と「結果と感想」とを同時にアップしますので、全体に若干編集してあります。ただし、予想や感想の内容には手を加えていません。

 まずは予想と結果の一覧(◎☆は予想時のマーク。ニュアンスは、◎本命=審査員が投票しそう、☆対抗=案外これが獲るかも/獲ってくれないかな、といった感じ)。その後の<>の中が、当時の予想の根拠と、結果についての感想です。

[作品賞]
The Band’s Visit ◎ →受賞
Frozen
Mean Girls
Spongebob Squarepants: The Musical
[リヴァイヴァル作品賞]
My Fair Lady
Once On This island →受賞
Rodgers & Hammerstein’s Carousel
[主演女優賞]
Lauren Ambrose My Fair Lady
Hailey Kilgore Once On This island
LaChanze Summer: The Donna Summer Musical
Katrina Lenk The Band’s Visit ◎ →受賞
Taylor Louderman Mean Girls
Jessie Meuller Rodgers & Hammerstein’s Carousel
[主演男優賞]
Harry Hadden-Paton My Fair Lady
Joshua Henry Rodgers & Hammerstein’s Carousel
Tony Shalhoub The Band’s Visit ◎ →受賞
Ethan Slater Spongebob Squarepants: The Musical
[助演女優賞]
Ariana DeBose Summer: The Donna Summer Musical
Renée Fleming Rodgers & Hammerstein’s Carousel
Lindsay Mendez Rodgers & Hammerstein’s Carousel ◎ →受賞
Ashley Park Mean Girls
Diana Rigg My Fair Lady
[助演男優賞]
Norbert Leo Butz My Fair Lady
Alexander Gemignan Rodgers & Hammerstein’s Carousel
Grey Henson Mean Girls
Gavin Lee Spongebob Squarepants: The Musical
Ari’el Stachel The Band’s Visit ◎ →受賞
[楽曲賞]
Adrian Sutton(Music) Angels In America
David Yazbek(Music and Lyrics) The Band’s Visit ◎ →受賞
Kristen Anderson-Lopez and Robert Lopez(Music and Lyrics) Frozen
Jeff Richmond(Music) and Nell Benjamin(Lyrics) Mean Girls
Yolanda Adams, Steven Tyler & Joe Perry of Aerosmith, Sara Bareilles, Jonathan Coulton, Alex Ebert of Edward Sharpe & The Magnetic Zeros, The Flaming Lips, Lady Antebellum, Cyndi Lauper & Rob Hyman, John Legend, Panic! at the Disco, Plain White T’s, They Might Be Giants, T.I., and Domani & Lil’C(Music and/or Lyrics) Spongebob Squarepants: The Musical
[脚本賞]
Itamar Moses The Band’s Visit ☆ →受賞
Jennifer Lee Frozen
Tina Fey Mean Girls
Kyle Jarrow Spongebob Squarepants: The Musical
[演出賞]
Michael Arden Once On This island
David Cromer The Band’s Visit ◎ →受賞
Tina Landau Spongebob Squarepants: The Musical
Casey Nicholaw Mean Girls
Bartlett Sher My Fair Lady
[振付賞]
Christopher Gattelli My Fair Lady
Christopher Gattelli Spongebob Squarepants: The Musical
Steven Hoggett Harry Potter And Cursed Child, Parts One and Two
Casey Nicholaw Mean Girls
Justin Peck Rodgers & Hammerstein’s Carousel ◎☆ →受賞
[編曲賞]
John Clancy Mean Girls
Tom Kitt Spongebob Squarepants: The Musical
Annmarie Milazzo & Michael Starobin Once On This Island
Jamshied Sharifi The Band’s Visit ◎ →受賞
Jonathan Tunick Rodgers & Hammerstein’s Carousel
[装置デザイン賞]
Dane Laffrey Once On This island
Scott Pask The Band’s Visit
Scott Pask, Finn Ross & Adam Young Mean Girls
Michael Yeargan My Fair Lady
David Zinn Spongebob Squarepants: The Musical ◎ →受賞
[衣装デザイン賞]
Gregg Barnes Mean Girls
Clint Ramos Once On This island
Ann Roth Rodgers & Hammerstein’s Carousel
David Zinn Spongebob Squarepants: The Musical
Catherine Zuber My Fair Lady →受賞
[照明デザイン賞]
Kevin Adams Spongebob Squarepants: The Musical
Jules Fisher + Peggy Eisenhauer Once On This island
Donald Holder My Fair Lady
Brian MacDevitt Rodgers & Hammerstein’s Carousel
Tyler Micoleau The Band’s Visit ☆ →受賞
[音響デザイン賞]
Kai Harada The Band’s Visit →受賞
Peter Hylenski Once On This island
Scott Lehrer Rodgers & Hammerstein’s Carousel
Brian Ronan Mean Girls
Walter Trarbach and Mike Dobson Spongebob Squarepants: The Musical

 このシーズンに登場してノミネーションに名前の挙がらなかった作品は、『Prince Of Broadway』『Escape To Margaritaville』の2作品。

★予想

 まずは順当なノミネーション。去年の『Amelie』のような悲しい出来事はなかった(苦笑)。あえて言えば、演出賞に『Rogers & Hammerstein’s Carousel』のジャック・オブライエンが入らなかったことぐらいか。
 予想に入る前に、とりあえず、今年の賞の枠組み的な部分の特徴を書いておく。
 驚いたのは、主演女優賞候補が6人だったこと。実際、内容的にも出演頻度的にも女優の活躍する作品が多く、選びたくなる気持ちはわかる(me too)。主演男優賞候補が4人になったのは、その帳尻合わせか。
 楽曲賞と振付賞にプレイが1作品ずつ入ったのも意外。どちらの賞も過去に例がなかったわけではないが……。
 あとは、音響デザイン賞の3年ぶりの復活。加えて、装置、衣装、照明、音響、各賞の候補が4から5に増えたこと。この辺の事情は、よくわからない。もっとも、どの事情もよくわからないのだが(笑)。

 [作品賞]は、『The Band’s Visit』が本命、対抗が『Spongebob Squarepants: The Musical』。対照的な2作の“渋ハデ対決”ってことで。
 今シーズンは、音楽的に見れば、この2作に『Mean Girls』を加えた3本しか本当の意味で“新作”と呼べる作品がなかったわけで、ここに、『Escape To Margaritaville』ではなく『Frozen』が加わっているのは、後者に2曲の舞台用書き下ろしがあったから、と考えられなくもない。
 いずれにしても、今シーズンの新作のイチ推しは『The Band’s Visit』です。間違って買って行かれなくなった3月4日昼公演のチケットをプレゼントした同宿の見知らぬアナタ、楽しんでいただけたでしょうか?(冷汗)

 [リヴァイヴァル作品賞]は、本命『Rogers & Hammerstein’s Carousel』、対抗『My Fair Lady』
 『Rogers & Hammerstein’s Carousel』1本に絞ってもいいのだが、当てたいので(笑)。この2作については、6月初旬に配信開始される無料音楽誌「ERIS」23号に、妄想と言ってもいい思い入れ満載の感想を書いたので、よろしければ読んでみてください。正直、今シーズンの印象を、このリヴァイヴァル2作が押し上げてます。

 [主演女優賞]は、去年(ベット・ミドラー)のように簡単にはいかない。てか、毎年難しい。と、まず言い訳して……、本命カトリーナ・レンク(『The Band’s Visit』)、対抗ローレン・アンブローズ(『My Fair Lady』)で。
 『The Band’s Visit』の感想には役者のことは書かなかったが、当然、あの渋い内容を支えているのは、音楽と同時に役者の力なわけで。中でも、レンクの演じたカフェの女主人は舞台の成否を決する難役。一方、アンブローズは、歌うけど歌わない希有なミュージカル女優として、見事にイライザのイメージを覆し、『My Fair Lady』を現代に蘇らせた(「歌うけど歌わない」の意味は感想で詳述)。
 もちろん、他の4人(!)も素晴らしい。新人ヘイリー・キルゴアと並んで『Once On This Island』初演の主演女優ラシャンズの名前があるのもいい感じ。

 [主演男優賞]は、本命トニー・シャルーブ(『The Band’s Visit』)、対抗イーサン・スレイター(『Spongebob Squarepants: The Musical』)。
 実際、誰が獲ってもおかしくないところだが、これまで3度ストレート・プレイで候補になったシャルーブが、ほぼストレート・プレイ的な演技でミュージカルの賞を獲るのに期待。スレイターは八面六臂の献身的な活躍に敬意を表して。
 ちなみに、ハリー・ハデン=ペイトンもジョシュア・ヘンリーも、過去の同役のイメージを更新する挑戦的な演技で、見応え充分。

 [助演女優賞]は、今回最も(勝手に)悩むところ。すなわち、ルネ・フレミングは獲るのか? 結論は次の通り。
 本命リンゼイ・メンデズ(『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)、対抗アシュリー・パーク(『Mean Girls』)。
 フレミングは「You’ll Never Walk Alone」の歌唱だけで充分受賞に値するのだが、同じ『Rogers & Hammerstein’s Carousel』の中にあって、メンデズの存在はやはり大きい。1994年に同じキャリー役を演じたオードラ・アン・マクドナルド(当時「アン」が入っていた)がこの賞を獲ったように、ある意味、儲け役ではあるのだが、それでも今回のメンデズは光っている。アシュリー・パークも、脇役がことごとく魅力的な舞台にあって、憎み切れない“悪役”を喜々として演じ、主演クラスを食う活躍。
 アリアナ・デボーズは、ラシャンズと共に『Summer: The Donna Summer Musical』を引っ張るが、今回は作品が弱かった。ダイアナ・リグは1974年に『Pygmalion』でイライザを、2011年に同作でミセス・ヒギンズを演じた人で、今回の『My Fair Lady』でのミセス・ヒギンズは、言ってみれば名誉職的な配役。もちろん見事だが受賞はないと見た。

 [助演男優賞]は、本命アリエル・スタチェル(『The Band’s Visit』)、対抗ノーバート・レオ・バッツ(『My Fair Lady』)。
 スタチェルは個人的願望(笑)。女の子と見れば「チェット・ベイカーを知ってるか?」と訊いて「My Funny Valentine」を歌う楽隊のトランペット吹き役は、軟派なだけではない存在感で光る。レオ・バッツのアルフレッド・ドゥーリトルはショウ場面で文字通り舞台を攫う。
 ギャヴィン・リーも侮りがたい。て言うか、『Spongebob Squarepants: The Musical』のタコ(日本では「イカルド」が通り名)のショウ場面はアルフレッド・ドゥーリトル並みの目立ちよう。『Mary Poppins』のバート役で注目された人だけのことはある。
 他の2人は、作品中で女性陣に押され気味か。もちろん、そういう役なのだが。

 [楽曲賞]は、本命デイヴィッド・ヤズベク(『The Band’s Visit』)、対抗は大勢のみなさん(笑)(『Spongebob Squarepants: The Musical』)。
 『Angels In America』に行ったらゴメンナサイ。

 [脚本賞]は、唯一映画が元ではない『Spongebob Squarepants: The Musical』のカイル・ジャロウが本命。対抗は、あの映画をよくミュージカルにしたという意味で『The Band’s Visit』のイタマー・モーゼズ。

 [演出賞]は、本命が渋いデイヴィッド・クローマー(『The Band’s Visit』)、対抗が挑戦的なバートレット・シェール(『My Fair Lady』)。

 [振付賞]は、潔くジャスティン・ペック(『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)1本で。素晴らしい。
 ハリポタはどうなんでしょ? 観なきゃダメ?(注:追って観ました)

 [編曲賞]は、本命ジャムシード・シャリフィ(『The Band’s Visit』)、対抗ジョナサン・テュニック(『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)。

 [装置デザイン賞]は、アイディア豊富な『Spongebob Squarepants: The Musical』のデイヴィッド・ジンが本命、対抗はバートレット・シェールとの名コンビぶりが今回も美しいマイケル・イヤーガン(『My Fair Lady』)。

 [衣装デザイン賞]も本命は『Spongebob Squarepants: The Musical』のデイヴィッド・ジン。装置と込みで受賞でいいのでは? 対抗は色彩鮮やかな『Once On This Island』のクリント・ラモス。

 [照明デザイン賞]は、本命ブライアン・マクデヴィット(『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)、対抗タイラー・ミコロウ(『The Band’s Visit』)。

 [音響デザイン賞]は、本命ウォルター・トラバック&マイク・ドブソン(『Spongebob Squarepants: The Musical』)、対抗スコット・リーアー(『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)。

 終盤流し気味でしたが(笑)、予想は以上。>

★結果と感想

<イチ推しにしておいてナンですが、『The Band’s Visit』がここまで獲るとは驚き。脚本や役者はともかく、照明とか音響とかは他の作品に振り分けてあげればよかったのに……って、そういうもんじゃないか(笑)。担当者個人の栄誉でもあるしね。いずれにしても、四度目の正直、ヤズベクの楽曲賞はめでたい。
 唯一にして最大の意外案件がリヴァイヴァル作品賞。候補が3本しかないのに、無印が獲るとは。しかも、獲らなかった『Rogers & Hammerstein’s Carousel』『My Fair Lady』は、『The Band’s Visit』並みに推した作品。獲った『Once On This Island』が悪いというわけではないが、他の2本は感動の度合いが違った。そんな中、絶対だった振付賞と共に、リンゼイ・メンデズが助演女優賞を獲ったのは救い(いずれも『Rogers & Hammerstein’s Carousel』)。

 予想の結果は、本命予想◎で10、対抗予想☆で3の的中ですが、当たった対抗予想の内、振付賞は本命予想に重ねての1点予想だったので、結局12勝3敗。
 いつも難しい予想になる役者を全て本命予想で当てたのが、なによりうれしい。

 まあ、けっこう楽しいシーズンでした。>