The Chronicle of Broadway and me #415(Lennon)

2005年9月@ニューヨーク(その2)

 『Lennon』(9月21日20:00@Broadhurst Theatre)は、ジョン・レノンの楽曲を使った“ジュークボックス・ミュージカル”。
 別途アップしてある「2006年の“ジュークボックス・ミュージカル”の状況」という論考の対象作品の1つ。下の感想の中にも出てくるが、その論考での分類に従うと、“ジュークボックス・ミュージカル”としての“型”は、A=原アーティストの伝記的内容を持つ『Buddy』型と、C=はっきりしたストーリーのないレヴュー『Smokey Joe’s Cafe』型の折衷。“オリジナル演奏との距離感”は、①アレンジ=オリジナル演奏に“倣う”派、②楽曲の内容表現=オリジナル演奏の表現に“近い感触”派(分類の詳細は上記論考をご覧ください)。

 以下、観劇から1年後にまとめた感想(<>内)。

『Lennon』については、観劇直後に次のように印象を書いている(「」内)。

 「ごぞんじビートルズのジョン・レノンの半生を描いた作品。ジョン役の主演者が1人いるのではなく、登場する9人全員が入れ替わり立ち替わりジョンを演じるという、言ってみれば(宮本亜門の)『アイ・ガット・マーマン』のスタイルにしたのは、“そっくりショウ”になるのを防ぐ(と言いつつ1人激似な役者がいるが)と同時に、語り口に客観性を持たせる、という意味では成功している。
 が、ジョンがあまり面白い人物に見えないのは痛い。ヨーコ・オノの厳しい監修下(監視下?)にあったのが原因だろう。“最終的にはいい人”として描いては、本質的ロックンローラー、ジョンの魅力は伝わるまい。」

 半生を描いているわけだから、先の分類で言えば、とりあえず伝記的なA型なのだが、単純に主人公の人生のストーリーを追うといった作品ではなく、そこに擬似コンサート的なC型の要素が入ってくる。『アイ・ガット・マーマン』のスタイル、ということには、そういう意味も含まれる。
 一方、この作品の“オリジナル演奏との距離感”は、①アレンジが“倣う”派、②楽曲の内容表現が“近い感触”派。
 つまり、全体としては、ジョンの人生を楽曲に即してたどりつつ、ジョンが楽曲に込めたであろうメッセージをもう1度みんなで確かめ合おう、といった内容の舞台になっている。

 つまらないのは、ジョンの人生と楽曲に対する解釈が、もっぱら“純粋さ”と“平和希求”という線に絞られていること。それはヨーコ・オノが築き上げようとしているジョンの(半ば)虚像なのではないかという議論は脇においたとしても、そうした視点からは、ジョンの人生についても楽曲についても新たな発見が生まれるはずもなく、観ている側にとっては驚きがない。したがって、歌われるジョンの楽曲も演劇的な奥行きを伴わず、まるで、ジョン・レノン・トリビュート・コンサートのごとき印象。舞台ミュージカルにした意味が見えてこないのだ。
 使われているのは、もちろんジョン・レノンの楽曲だが、ソロとして発表したものがほとんどで、ビートルズ時代の楽曲は「The Ballad of John And Yoko」及び少数のカヴァー曲に限定されている。
 ソロになってからのジョンの楽曲は、(特に詞において)例えば「Imagine」に代表されるようなシンプルでストレートな表現に傾き、なおかつメッセージ色の強いものが多くなったが、ここで歌われるのも、もっぱらその系統の楽曲。なので、舞台は、よりプロパガンダの色合いが濃くなり、その分だけ表現が平板になっていく。
 個人的には、ビートルズが現役の頃からファンだし、ジョンの楽曲のメッセージには共感を覚えるが、しかし、そうした楽曲をミュージカル作品の中で歌うことで、さらに新たな何かを生み出そうというのでない限り、高いチケット代を払って劇場で観る気にはならないというのが正直な気持ち。まあ、ジョン・レノンを知らない若い世代に彼の真価を改めて伝えよう、ということなのかもしれないが、だとしたら、その舞台はブロードウェイではないと思う。
 テレンス・マンやチャック・クーパーら実力派の役者たちも、なにやら手持ち無沙汰に見えてしかたがなかった。>

 「激似な役者」と言っているのはウィル・チェイスのこと。もちろん似せてメイクしていたわけだが。
 上記3人以外の6人は、『In The Heights』でニーナを演じることになるマンディ・ゴンザレス、やはり 『In The Heights』 でカレン・オリーヴォからヴァネッサ役を引き継ぐマーシー・ハリエル、『Saturday Night Fever』に出ていたジュリー・ダナオ=サルキン、短命に終わった『Good Vibrations』から早速移ってきたチャド・キンボール、MTC版『The Wild Party』などオフでの活躍の多いジュリア・マーニー、これがブロードウェイ・デビューで後に『Grey Gardens』『The Book of Mormon』『The Prom』といった話題作に出ることになるマイケル・ポッツ。

 原案・脚本・演出のドン・スカルディーノはストレート・プレイに関わることの多い人(『A Few Good Men』)で、TVドラマの演出でも知られているらしい。役者時代も ストレート・プレイ が多かったようだが、ブロードウェイ版『Godspell』や、『旅立て女たち』あるいは『今の私をカバンにつめて』の邦題で知られるオフの『I’m Getting My Act Together and Taking It on the Road』のオリジナル・キャストでもあったという。

 7月7日プレヴュー開始、8月14日正式オープン、同年9月24日クローズ。

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