The Chronicle of Broadway and me #672(Iron Curtain/Queen Of The Mist)

2011年11月@ニューヨーク(その6)

 オフの興味深い2作品について。

 『Iron Curtain』(11月25日20:00@Baruch Performing Arts Center)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<設定が面白い。
 ベルリンの壁(1961~1989年)が作られる以前、1950年代半ばのニューヨークで買い手のつかないミュージカル楽曲を書き続けている作曲家・作詞家のコンビが、KGBに誘拐されてソ連に連れ去られる。彼の地の舞台関係者がホンモノっぽいミュージカルを作りたがっている、というのが、その理由。図らずも自分たちの夢を叶える機会を得た2人は、意気揚々と“プロパガンダ・ミュージカル”を作り始める。が、やがて様々な矛盾が噴出し始め……、という話。
 冷戦というバカバカしい構図の中で右往左往する人々が面白おかしく描かれていくわけだが、さりげなく芸術と政治の関係性についても触れられていて、そこは苦い。
 時代設定に則って’50年代的なミュージカルが半ばパロディ的に展開されるのがミュージカル好きにとっては楽しみの1つで、楽曲もうまく作られている(作曲スティーヴン・ワイナー、作詞ピーター・ミルズ)。ただ、装置その他が予算のなさを感じさせて若干寂しくもあった。

 開演前にロビーのモニターで、冷戦時代の東側のミュージカル事情を伝えるドキュメンタリー(ドラマ?)が流されていたが、現実というのは、いつも創作以上にバカバカしいものではある。>

 脚本スーザン・ディラーロ(この作品でジョナサン・ラーソン賞を受賞、とプログラムにある)。
 演出カーラ・レイチェル。振付クリスティーン・オグレイディ。


 『Queen Of The Mist』(11月27日16:30@Gym At Judson)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<楽曲作者マイケル・ジョン・ラキウザ(『Hello Again』『Chronicle Of A Death Foretold』『Marie Christine』『The Wild Party』『See What I Wanna See』『Bernarda Alba』)の新作で、ナイアガラの滝を樽で下った初めての女性アニー・エドソン・テイラーが主人公。
 数奇な運命を辿るテイラー(1838~1921)の半生を描いて、ラキウザ(脚本も)は、聖俗入り乱れて大衆を扇動しようとするアメリカのセンセーショナリズムと、それに翻弄される人々の悲哀を浮かび上がらせる。ルーツ・ミュージックとオペラとを融合させたがごとき楽曲も充実。いい舞台だった。
 主演のメアリー・テスタは、最近では『Xanadu』での怪演が印象深いが、『Marie Christine』では重厚な演技も見せた。その幅が、今回はテイラーというキャラクターに見事に生きていた。

 期間限定公演で、すでに終了。ところで、この小さな劇場、初めてだったのだが、今年の夏に『Lysistrata Jones』が上演されたのはここだったようだ。>

 「樽で下った」というのは、樽の中に閉じこもって滝を落下した、ということ。特に賞金がかかっていたわけではなく、それで名を売って、なんとか稼いで食いつなごうとした、ということらしい。
 アニー・エドソン・テイラー(Annie Edson Taylor)の「数奇な運命」については、英語版ウィキペディアに詳しい(日本語版は内容が中途半端)。

 演出ジャック・カミングス三世。振付スコット・リンク。

 出演は他に、ジュリア・マーニー(MTC版『The Wild Party』『A Class Act』『Lennon』『Saved』)、スタンリー・バホレックら。
 

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