The Chronicle of Broadway and me #251(A Class Act)

2000年11月@ニューヨーク(その3)

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 『A Class Act』(11月7日19:30@Manhattan Theatre Club)について、「ある楽曲作者の半生」というタイトルで旧サイトに書いた感想です。

<あなたは『A Chorus Line』の作詞家の名前を覚えていますか?
 エドワード・クレバン。この人は実は作曲家でもあったらしく、シティ・センターの地下にある小さな劇場で幕を開けた故クレバンの伝記的ミュージカル『A Class Act』は、彼が曲詞共に手がけた楽曲によって構成されている。
 観たのは正式オープン2日前だったが、よくできた脚本、うまい役者たち、スピーディな演出、魅力的な楽曲、さらに『A Chorus Line』裏話的な興味も相まって、小品ではあるが、観どころの多い舞台に仕上がっていた。

 話は1988年のシューバート劇場から始まる。
 前年に亡くなったクレバンを偲ぶために、ワークショップ時代の仲間たちが集まってくる(1988年はまだ『A Chorus Line』をやっているから、休演日だったんだろうな)。で、このシューバート劇場での催しを起点に、回想の形でクレバンの半生が語られる。1988年の現在と過去とを言ったり来たりしながら。
 エドと呼ばれるクレバンは、控えめな性格だったが、幼い頃から楽曲を作る才能があり、早くからプロを目指した。その様子が、参加したワークショップやプロデューサーとして勤めていたコロンビア・レコーズなどを舞台にしながら描かれる。と同時に、幼い頃から愛し続けた、後に医師になるソフィとのつかず離れずの関係も、要所要所に出てくる。
 そして、『A Chorus Line』。ひょんなことからマイケル・ベネットと出会ったエドは、“作詞家”として仕事を依頼される。作曲のマーヴィン・ハムリッシュと共にトニー賞を受賞して(余談だが、この1975/1976年シーズン、初演版『Chicago』はトニー賞に11部門でノミネートされて無冠!)、結局は最も知られることなった仕事が“作詞家”としてのものだったことは、ブロードウェイで作曲作詞家として成功することを夢見ていたエドを苦しめた。
 次は作曲も、というベネットとの約束は守られず、名誉挽回の気持ちで新たな仕事に挑むエドを、突然病いが襲う。舌ガン。告知してくれたのは、すでに伴侶を見つけていたソフィだった。
 そしてエド・クレバンのいない1988年のシューバート劇場。けれども、仲間たちの心には、様々な姿で彼が生き続けていた。

 というストーリーを書いても、面白さはあまり伝わらないだろう。この舞台の面白さは、ストーリーよりも、虚実ないまぜになった語り口にある。
 第1幕の冒頭、クレバンを偲ぶ集いが催されるシューバート劇場にまず登場して観客に話しかけるのは、誰あろうクレバン自身。集まってきた仲間たちが今は亡きクレバンについて語る言葉に、彼はいちいちコメントをつける。「おいおい何を言ってるんだい」ってな具合に。もちろん仲間たちには彼の姿は見えないし、言葉も聞こえない。以降、過去のシーンでは彼は生きていた頃の彼自身として登場するが、しかし、場面の変わり目では、しばしばナレーターとして説明やコメントを加える。
 実在した人物の半生を、死んでいることを前提に、その人物自身(に扮する役者)が語り起こす。虚構と現実のひとひねり。実在したクレバンと、その人生を描く脚本家との間に、クレバンの人生を語るクレバン役者という存在を挟み込むことで、クレバン像に厚みが生まれる。
 さらに言えば、脚本家(兼演出家)とクレバンの人生を語るクレバン役者が同じ人物(ロニー・プライス)だという二重構造も、実はある。そして、使われている楽曲は、ホンモノのクレバンが作ったものなのだ。
 そうした幾層にも積み重なった虚実の皮膜の向こうから浮かび上がってくるのは、エドワード・クレバンという志半ばにして逝った人物の舞台への熱い思いに重ね合わせるようにして語られる、ロニー・プライスをはじめとする『A Class Act』のスタッフ、キャストの、ミュージカル、ショウ・ビジネスへの愛だ。

 というわけで、ミュージカル・ファンは必見、と言っておこう。

 時空間を行き来する脚本(共同執筆リンダ・クライン)をスピーディな演出ですっきりと見せたロニー・プライスは、どこかウディ・アレンを思わせる少し被害妄想的なクレバンを愛すべき人物として演じて、役者としても光る。
 が、まず目を惹くのは、ソフィ役ランディ・グラフと、ワークショップ仲間の1人で女優を目指すルーシー役キャロリー・カーメロという、ブロードウェイ主演クラスの女優2人の見事な演技だ。
 でもって、他のキャストは、ジョナサン・フリーマン、ナンシー・キャスリン・アンダーソン、ジュリア・マーニー、デイヴィッド・ヒバード、レイ・ウィルス。みんな、うまい。中で特筆すべきは、最後の2人が第2幕中程で一瞬演じた、マイケル・ベネット、マーヴィン・ハムリッシュのソックリぶりか(笑)。

 セット(ジェイムズ・ヌーン)は、アップライトのピアノが1台とイス6脚、ベンチ2つというシンプルなものだが、後ろの壁にあたる部分を、回転する4枚のパネルにし、出入りできるようにしてあるのが、小さなステージ空間をより自由に使うための工夫。
 で、その黒いパネルの裏が、第1幕では黄色なのだが、第2幕では鏡張りに変わっている。その理由は、第2幕に『A Chorus Line』の場面があるから、と言えばわかる人はわかりますよね。

 3月にはブロードウェイで再開幕する予定のこの作品。大きな劇場に移って、どう見せていくのか、興味津々。キャロリー・カーメロは出産のために不参加だそうで、少し残念。>

 『A Chorus Line』を意識して付けられたと思われる『A Class Act』というタイトルだが、「優秀な人物」という本来の意味と同時に、皮肉として使う裏返しの意味もあるようだ。そうした含み(クレバン自身にとっては自虐的な意味)もあると捉えた方が、この作品には相応しい気がする。
 ちなみに、『A Chorus Line』に関しては、「ブロードウェイ物語~コーラスラインの舞台裏」(On The Line: The Creation Of A Chorus Line)という、関係者による文字通りの裏話本がある(ロバート・ヴィアガス/バイヨーク・リー/トミー・ウォルシュ著、講談社)。

 [追記]
 ブロードウェイ版の感想はこちら

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