The Chronicle of Broadway and me#1046(1776)

2022年11月@ニューヨーク(その4)

 『1776』(11月23日20:00@American Airline Theatre)についての感想。

 『1776』を初めて観たのは1997年の9月。今回と同じく、ランダバウト・シアター・カンパニーによるリヴァイヴァルだった。
 その感想にも書いてあるが、初演は1969年で劇場を替えながら1972年まで3年近いロングランを記録。でもって、その時に観たリヴァイヴァル版も、11月16日までの限定公演の後、劇場を移って都合11か月ほど続いている。内容については、「アメリカ独立宣言の起草から採択に到るまでを描いた、ディベート・ミュージカルとでも言うべき作品」と要約。けっこう細かく書いているので読んでみてください。
 その四半世紀前のリヴァイヴァルと、そこからさらに四半世紀前まで続いていた初演版とは、後者を観たことはないが、ある程度は似ていたと思う。少なくとも今回の個性的なリヴァイヴァルよりは。

 すでに喧伝されていることだが、今回、舞台に登場する独立宣言の採択に関わった歴史的人物を演じるのは、フィーメイル、トランス、ノン・バイナリーと表現される役者たち。でもって、近い時代の史実を扱っている『Hamilton』同様、演じる彼らの(いわゆる)人種も、歴史上の人々と違って様々。
 この2つが今回のリヴァイヴァルの最大の特徴。

 その前者、役者のジェンダー条件を絞ったことが大きく採り上げられがちだが、その意味というか効果は、すぐに気がつく形で表われているわけではない。
 個人的には、「女性」を演じる役者が登場した時に、「なるほど」と気づいた。この舞台には2人だけ「女性」と設定されているキャラクターが登場するのだが(トーマス・ジェファーソン夫人マーサ・ジェファーソンとジョン・アダムズ夫人アビゲイル・アダムズ)、今回のように、先に挙げたジェンダー認識の役者たちが演じる「男性」と設定されているキャラクターばかりが登場する中に、やはり同じジェンダー認識の役者が「女性」として登場すると、「女性」だから女優として「女性」を演じることを自然なことと捉える感覚が揺らぐのだ。「男性」性ではない人が「男性」を演じることと、「男性」性ではない人が「女性」を演じることが等価に見えてくるというか。つまりは、ジェンダー・ギャップの本質が垣間見えるというか。しかも、その2役を演じている役者は、「男性」と設定されているキャラクターも演じていたりして。
 しかし、まあ、そうした個人的な発見を云々する以前に、幕開きで役者たちが舞台にずらりと並んだだけで客席が湧く感じに、ジェンダー・ギャップについての認識は、少なくともブロードウェイに足を運ぶ観客の間では、着実に浸透しつつあるのかもしれない、と思ったりもした。

 一方、後者の(いわゆる)人種の違いを超えたキャスティングの効果は、後半一気に表われる。独立宣言に黒人奴隷の解放を盛り込むかどうか、という議論の場面で。
 これについては、これからご覧になる方もいらっしゃると思うので、あえて詳述しないが、いろいろと考えさせられる場面になっている。なお、ここで黒人奴隷の解放に反対して「Molasses To Rum」というナンバーを激しく歌うエドワード・ラトレッジ役を通常演じているサラ・ポーカロブも、観た日に代役だったメフリー・エスラミニアも、エスニック系。そのあたりも興味深い。

 改めて書くと、作曲・作詞シャーマン・エドワーズ、脚本ピーター・ストーン。
 今回の演出・振付はジェフリー・L・ベイジ(ジェフリー・ペイジ名義で『Violet』の振付)、共同演出ダイアン・ポーラス(『The Donkey Show』『Hair』『The Gershwins’ Porgy And Bess』『Pippin』『Finding Never Land』『Waitress』『Jagged Little Pill』)。幕を多用する簡易な装置(スコット・パスク)も含め、旅回りの一座風な全体の装いが内容と合致して、よかった。

 主演のジョン・アダムズ役はオリジナル・キャストのクリスタル・ルーカス=ペリーからクリストリン・ロイド(『Dear Evan Hansen』)にすでに替わっていた。敵役のジョン・ディキンソン役がキャロリー・カーメロ(『Falsettos』『Parade』『A Class Act』『Funny Girl: The Concert』『Elegies: A Song Cycle』『Baby』『Lestat』『The Addams Family』『Scandalous: The Life And Trials Of Aimee Semple McPherson』『Finding Neverland』『Tuck Everlasting』)だったのは大きい。他に、トーマス・ジェファーソン役エリザベス・A・デイヴィス(『Once』)、ベンジャミン・フランクリン役ペイトリーナ・マーレイ等。あと、ナンシー・アンダーソン(『A Class Act』『Wonderful Town』『She Loves Me』@N.J.『The Piper』『Yank! A WWⅡ Love Story』『Peter Pan』@N.J.)が、ジョン・ディキンソン役、トーマス・ジェファーソン役のアンダースタディを兼ねつつジョージ・リード役で出演。
 そして、ジョン・ウィザースプーンとアビゲイル・アダムズ役がアリソン・ケイ・ダニエル、ライマン・ホールとマーサ・ジェファーソン役がエリン・リクロイ。つまり(繰り返しになるが)、「女性」と設定されているキャラクターを演じた2人は「男性」と設定されているキャラクターを演じてもいたわけだ。

The Chronicle of Broadway and me#1046(1776)” への4件のフィードバック

コメントを残す