The Chronicle of Broadway and me#1048(Some Like It Hot)

2022年11月@ニューヨーク(その6)

 『Some Like It Hot』(11月25日20:00@Shubert Theatre)についての感想。

 『Some Like It Hot』の元になっているのは、もちろん、ビリー・ワイルダー監督の有名な同名映画(邦題:お熱いのがお好き)。その舞台ミュージカル化と聞いて漠然と抱いていたイメージを、仕上がった舞台は超えるものではなかった。

 1933年。禁酒法時代のシカゴで2人のジャズ・ミュージシャン(サックス奏者とベース奏者)がギャングによる虐殺現場を目撃する。追われる2人は、旅公演に出る女性ばかりの楽団に女装して紛れ込み、サンディエゴに向かう。
 2人の内のサックス奏者は楽団の歌手に恋をして、金持ちの男性として彼女の前に姿を現し、一人二役を演じることになる。一方、ベース奏者は気のいい(本物の)大金持ちに見染められ、付きまとわれる。そんなこんなで、いろいろと混乱が起こっているところにシカゴのギャングたちが登場。結局は正体もバレて、さあ、どうなる?
 そんな話。

 今回の舞台ミュージカル化でのストーリー上の最大のポイントは、「女装」という古びたギャグ手法をどうアップデートするかというところにあったと思うが、採った解決策は、ベース奏者をLGBTQの人物に設定することだった。急場を切り抜けるためにやむなく行なった「女装」が彼/彼女のジェンダー意識を解放することになる、という方向で(あるいは逆で、ジェンダー意識の解放を描くために、この題材を選んだのかもしれないが)。
 その設定変更は話に馴染んでうまくいっている。
 が、それで面白くなったかと言うと、疑問が残る。
 こちらが元ネタを知っているせいかもしれないが、最終的には、新味のない話をにぎやかなショウ場面で彩って楽しく見せた、という印象に留まる。やはり題材選びを間違ったのではないだろうか。
 逆に言うと、ブロードウェイ・ミュージカルらしいにぎやかなショウ場面を充分に楽しむことのできる作品ではある。

 楽曲作者のマーク・シャイマン(作曲・作詞)&スコット・ウィットマン(作詞)は『Hairspray』『Catch Me If You Can』組。時代及びジャズ楽団という設定を生かして、ノスタルジックな香りのするイキのいいナンバーが並ぶ。
 脚本はマシュー・ロペス&アンバー・ラフィン。前者は2019/2020シーズンのトニー賞作品賞を獲った2部構成の長尺プレイ『The Inheritance』の作者、後者はコメディアン/脚本家/トーク・ショー司会者、という経歴。出演しているクリスチャン・ボールがジョー・ファレル(脚本家?)と共に補作した、という記述がプレイビルにはある。
 演出・振付ケイシー・ニコロウ(『The Drowsy Chaperone』『Elf』『The Book Of Mormon』『Aladdin』『Something Rotten!』『Tuck Everlasting』『Mean Girls』『The Prom』)。タップを中心に多彩な振付で盛り上げる。ただ、最後のスラップスティックな“追っかけ”は、挑戦的で評価したいものの、意余って力足らずの感があって惜しい。もう一息で名場面になりそうだったのだが。

 サックス奏者ジョー役クリスチャン・ボール(『Jesus Christ Superstar』『Elegies: A Song Cycle』『Monty Python’s Spamalot』『Legally Blonde: The Musical』『On The Town』『Peter And The Starcatcher』『Something Rotten!』『Falsettos』『Charlie And The Chocolate Factory』『Little Shop Of Horrors』)。驚くほど踊ってみせる。
 今回の目玉、ベース奏者ジェリー/ダフネ役J・ハリソン・ジーは、『Kinky Boots』にローラ役で途中参加してブロードウェイ・デビュー。2作目が『Mrs. Doubtfire』。歌って踊れるが、ここでのこの役に合っていたのかどうか、少し疑問に思った。
 ジョーが恋するシュガー役はエイドリアーナ・ヒックス(『Six: The Musical』)。
 ダフネに一目惚れする大金持ち役ケヴィン・デル・アギーラ(『Peter And The Starcatcher』『Rocky』『Frozen』)は味のある好演。この人、『Altar Boyz』の脚本家でもある。
 楽団のリーダー役ナターシャ・イヴェット・ウィリアムズはブロードウェイ作品に途中参加の多い人だが、それだけに安定した歌を聴かせる。