The Chronicle of Broadway and me #397(Monty Python’s Spamalot)

2005年4月@ニューヨーク(その3)

 『Monty Python’s Spamalot』(4月14日20:00@Shubert Theatre)について観劇直後に残した感想。

<今最もチケット入手困難な作品の1つになっているのが、アーサー王の物語を扱った『Monty Python’s Spamalot』。“モンティ・パイソンの”と言うだけでわかる人にはわかる、ナンセンスで毒のある作風。現在の人気は、それを知るモンティ・パイソン世代のアメリカ人を呼んでいるからか。
 『The Producers』と似た香りがするが、比較すると、残念ながらミュージカルとしての濃度は薄い。役者の“アク”で引っぱる感じがなきにしもあらず。それはそれで楽しいが。>

 そして次が、その2か月後ぐらいに書きかけて、結局サイトにはアップしなかった感想(<>内)。

<TVシリーズ『Monty Python’s Flying Circus』が本国イギリスの国営放送BBCでスタートしたのは1969年10月のこと。日本では、アイパッチ時代のタモリが出演したりする日本オリジナル部分をくっつけて、東京12チャンネル(現テレビ東京)で1976年からオンエアされたが(邦題:空飛ぶモンティ・パイソン)、アメリカでも、その2年前の1974年から、ミュージカル・ファンには舞台関係の映像を流すことでで知られるPBSでオンエアされ始めていたらしい。
 それにしても、あれほどイギリス的な(と個人的に思っている)モンティ・パイソンがアメリカでこんなに人気があるとは思わなかった。

 ブロードウェイ・リヴァイヴァル版『The Rocky Horror Show』の時と似ている。『Monty Python’s Spamalot』の観客の反応を観ながら、そう思った。
 『The Rocky Horror Show』は、 1973年にロンドンの劇場で幕を開け、話題作となった後、 『The Rocky Horror Picture Show』 として映画化された。この映画がアメリカでカルトな人気を得て、熱狂的なファンたちによるパーティ状態の盛り上がりの中で上演が繰り返されているのは、ごぞんじのことと思う。そして、2000年版『The Rocky Horror Show』の時には、あの映画を観る時のように反応している観客が数多く見受けられた。
 どういう反応か。自分のお気に入りの(よく知っている)場面が現れるたびに大喜びする。そういう反応だ。

 『Monty Python’s Spamalot』もそう。
 例えば――。
 中世の騎士が従者を連れて現れる。パッカパッカと馬に乗って。……と思ったら、従者が、両手に持った半分に割ったココナッツの殻を打ち合わせて蹄の音を出している。
 あるいは、主人公(?)たちの行く手に立ち塞がる巨大な黒い騎士。強いのかと思うと、ただ愚直に向かってくるだけで、簡単に腕を切られ、足を切られ、それでも無防備に向かってくるが、主人公(?)たちはめんどうになって相手にせずに去る。
 こうしたシーンは、一般的には、一拍置いて(ギャグの意味を飲み込んでから)笑いが起こる。
 が、この作品では違った。前者では従者が、後者では黒い騎士が、舞台に出てくるやいなや、大きな笑いと拍手が起こった。つまり、観客(の多く)は、そうしたキャラクターが出てくるのを知っていて、思った通りに出てきたので“ウケた”のだ。
 『Monty Python’s Spamalot』は、1975年公開のイギリス映画『Monty Python And The Holy Grail』(邦題:モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル)の“かなり忠実な”舞台ミュージカル化だが、この映画、本国イギリスよりひと足早くロスアンジェルスでプレミア公開するなど、前年にTVシリーズ『Monty Python’s Flying Circus』のオンエアがアメリカで始まっていたこともあり、特にアメリカでのプロモーションに力を入れたという。結果、この映画は大当たりとなる。
 そういう背景があっての今回のミュージカル版の人気であり、2000年版『The Rocky Horror Show』同様、映画版を観ていた人たちが多かったがゆえの今回の反応なのだろう、と、ちょっと違和感を覚えながら、客席で思った。>

 要するに、作品の実態(実体)を離れて過剰にウケてる、と思ったわけだ。
 そもそもがアーサー王の聖杯伝説のパロディな上に、30年前の映画の舞台ミュージカル化であり、ミュージカルとしての作りがミュージカルのパロディになってる。当然のごとく、モンティ・パイソン組である作曲ジョン・デュ・プレ&エリック・アイドル×作詞エリック・アイドルの楽曲は既聴感(どこかで聴いたような感じ)が強い(この辺が『The Producers』と似ている)。でもって、テーマ曲とも言える「Always Look on the Bright Side of Life」は既存のよく知られている楽曲(1979年のモンティ・パイソン映画『Life Of Brian』で使われた楽曲で、発表当時こそ広まらなかったが、その後ヒットし、この時点では世界的に知られていると言ってもいい)。
 早い話、ブロードウェイ・ミュージカルの新作としてはオリジナリティに乏しい。もちろん、そういう作品があってもいいし、よくできてもいるのだが、持ち上げられ過ぎるとちょっと引っかかるよね、という感じ。結局、トニー賞で作品賞を獲ってしまうのだが(ちなみに、楽曲賞、脚本賞は逃す)。

 脚本もエリック・アイドル。
 演出は、なんとマイク・ニコルズ。振付ケイシー・ニコロウ。

 最初の感想に「“アク”で引っぱる」と書いた役者だが、ビリングのトップに並ぶのは、デイヴィッド・ハイド・ピアース、ティム・カリー、ハンク・アザリアの3人。この時点では、むしろ映画・TVで知られていたピアースとアザリア(ブロードウェイ・デビュー)だが、カリーはもちろん『The Rocky Horror Show』のオリジナル・キャスト。
 その他に、クリストファー・シーバー、マイケル・マッグラス、クリスチャン・ボールといった強者が揃っていたが、彼ら以上に強烈な印象を残したのが「湖の乙女」を演じたサラ・ラミレズ(『The Gershwins’ Fascinating Rhythm』『A Class Act』)。トニー賞で助演女優賞を獲るのも納得。

 なお、この作品のプレイビルには、本来の作品ページの前に架空のミュージカル(フィンランド製)の作品ページを載せてある、というモンティ・パイソンらしい仕掛けがあった。

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