The Chronicle of Broadway and me #936(The Lucky Ones/The Sting/One Thousand Nights And One Day)

2018年3月~4月@ニューヨーク(その8)

 オフ及びニュージャージー遠征で観た新作3本について。
 

 『The Lucky Ones』(4月3日19:00@Ars Nova)は、前年(2017年)にオフで2作品(『Sundown, Yellow Moon』『Hundred Days』)を立て続けに上演したザ・ベングソンズ(作曲・作詞・脚本アビゲイル&ショーン・ベングソン)の新作ミュージカル。
 作品のスタイルは『Hundred Days』の「歌で物語を綴るコンサート的なパフォーマンス」に近い。もっとも、役者による演技部分も少なからずあるが。共同脚本サラ・ガンチャー、演出アン・カウフマンというのも『Hundred Days』と同じ組み合わせ(カウフマンは『Sundown, Yellow Moon』も演出)。振付は『Moulin Rouge: The Musical』でトニー賞を獲得したソンヤ・タイア(同作日本版の公式サイトでは「ソニア・タイエ」と表記されているが)。
 『Hundred Days』はベングソンズ2人の結婚前後の実人生を反映した内容だったが、こちらは血縁者にまで話が広がっているようだ(プログラムにある系図を見ると妻アビゲイルの方がメイン)。

 ベングソンズの2人を中心にしたバンド+役者で総勢18人。例によってベングソンズの2人は自分たち自身として歌い演じる。
 翌年(2018年)の問題作『Oklahoma!』でカーリーを演じるデイモン・ダウノ(『Hadestown』)が出ていた。
 

 『The Sting』(4月5日13:30@Paper Mill Playhouse)は、ジョージ・ロイ・ヒル監督による”あの”1973年公開の同名大ヒット映画を舞台ミュージカル化したもの。
 作曲・作詞は『Urinetown』の楽曲作者マーク・ホールマンとグレッグ・コティスのコンビで、『Thou Shalt Not』でブロードウェイ楽曲作者の仲間入りをしたハリー・コニック・ジュニアが追加楽曲を書いている。ハリー・コニック・ジュニアは映画で言えばポール・ニューマンの演じた役で出演もしているから、カンパニーに参加した後に自分用に楽曲を書き足したのかも(ただの推測)。
 いずれにしても、ニューオーリンズ・ジャズ的なスウィング感のあるナンバーが並んだ。加えて、映画で使われた「The Entertainer」をはじめとするスコット・ジョプリンの楽曲(1曲はルイ・ショーヴァンとの共作)もちりばめられている。

 脚本はロバート(ボブ)・マーティン(『The Drowsy Chaperone』)。残念ながら、映画の”あの”面白さには及ばない。ちなみに、映画の脚本を書いたのはデイヴィッド・S・ワード。
 演出ジョン・ランドー(『Urinetown』『Dance Of The Vampires』『The Wedding Singer』『A Christmas Story The Musical』『On The Town』『The Honeymooners』)。振付はウォーレン・カーライル(『A Tale Of Two Cities』『Finian’s Rainbow』『Follies』『Hugh Jackman, Back On Broadway』『Chaplin』『The Mystery Of Edwin Drood』『After Midnight』『On The Twentieth Century』『New York Spring Spectacular』『Hello, Dolly!』)で、タップがたっぷり(笑)。

 映画版でロバート・レッドフォードが演じていたジョニー・フッカー役が、『Kinky Boots』にローラ役で途中出演してブロードウェイ・デビューしていたJ・ハリソン・ジー。この後、『Mrs. Doubtfire』を経て、上演中(2022/2023シーズン)の『Some Like It Hot』で活躍しているのはご承知の通り。
 他に、やはり上演中の『New York, New York』に出ているジャネット・ダカル(『Good Vibrations』『In The Heights』『Wonderland』『Prince Of Broadway』)、トム・ヒューイット(『The Rocky Horror Show』『Dracula, The Musical』『Jesus Christ Superstar』『Doctor Zhivago』『Aamzing Grace』)も出演。
 

 『One Thousand Nights And One Day』(4月5日19:00@Mezzanine Theatre/A.R.T. New York Theatres)は、タイトルから想像がつくように、元に『One Thousand And One Night』(千夜一夜物語/アラビアンナイト)がある。と言うか、同作の変奏として書かれたジェイソン・グロートのストレート・プレイ『1001』を元にして作られているとのこと(このミュージカルの作詞・脚本もグロート)。
 妻の不貞で女性不信に陥ったシャフリヤール王は、夜ごと若い女性を侍らせ、翌朝に首を刎ねるという所業を重ねている。一計を案じた宰相の娘シェヘラザードが王の元に赴き、終わらない話を延々と続けて、悪行を止めさせようとする。
 そのシェヘラザードの語る話が、いつしか現代のニューヨークを舞台にした、ユダヤ人男性とアラブ人女性の恋物語になって……というのが骨子。見た目で言えば、シャフリヤール王がユダヤ人男性になり、シェヘラザードがアラブ人女性になる。人種、宗教、ジェンダーの話が入り交じりながら展開していく興味深い内容(理解と和解の話だと思うが)に、付いていけたとはとても言えない(苦笑)。

 作曲マリサ・ミケルソン。”千夜一夜”部分でのアラビックな要素と現代部分の西欧的な要素とが違和感なく共存していて好印象。

 演出エリン・オートマン。振付カーラ・プーノ・ガーシア。
 制作はプロスペクト・シアター・カンパニー。

 シェヘラザード役のセピデ・モアフィはイランから亡命した両親が住んでいたドイツの難民キャンプで誕生、家族で亡命してアメリカ人になった、という経歴の持ち主。
 シャフリヤール王役はベン・スタインフェルド(『Bloody Bloody Andrew Jackson』)。

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