The Chronicle of Broadway and me #383(Dracula, The Musical)

2004年11月@ニューヨーク(その3)

 『Dracula, The Musical』(11月17日20:00@Belasco Theatre)について、観劇当時に旧サイトに書いた感想(<>内)。

<笑っちゃうぐらい仕掛けに凝った作品。でもコメディじゃないところが吸血鬼以上に怖い。
楽曲が弱く、客の入りが悪いのも当然か。ロンドンでスタートすれば当たった(かもしれない)のに。>

 フランク・ワイルドホーン(作曲)の『Jekyll & Hyde』『The Scarlet Pimpernel』『The Civil War』に続くブロードウェイ4作目。前作の3か月弱よりは長く続いたが、それでもプレヴューを入れて5か月とちょっと。前回渡米時に始まるはずだったプレヴューの開始が遅れたので心配したのだが、現実となった。
 以降、ワイルドホーンのブロードウェイ作品は、2011年の春と冬に連続して登場した『Wonderland』『Bonnie And Clyde』が共に2か月弱、2013年のリヴァイヴァル『Jekyll & Hyde』は1か月ちょい、と、いずれも興行的には失敗に終わっている。
 実のところ、初演『Jekyll & Hyde』を追いかけるようにして同じ1997年に始まり、結果的に2年3か月続いた(その内3か月強は休演だが)『The Scarlet Pimpernel』にしても、上演途中でプロデューサーと演出家が替わって大改変を施すという迷走のロングランだったわけで(詳細はこちら)、ブロードウェイで同時進行中の『Jekyll & Hyde』人気に助けられてなんとか続いた感が強かった。その後、日本で翻訳上演され、宝塚歌劇のスタイルにうまくハマって名作のように言われているが、少なくともブロードウェイにおいての『The Scarlet Pimpernel』の評価は、それほど高いわけではない。

 そうした流れで登場した『Dracula, The Musical』は、明らかに『Jekyll & Hyde』路線(ゴシック・ロマンス)への回帰だと思われる。が、これがうまくいかなかった。かなり原作小説(ブラム・ストーカー)に忠実な劇化を試みていて、『Jekyll & Hyde』にあった、いい意味でB級なハッタリが乏しくなっていたことが敗因の一つだろう。
 あざとさ満載で本質はB級なゴシック・ロマンスを資金とアイディアでA級にしてみせた『The Phantom Of The Opera』の、ひと回り小さい二番煎じとしてうまくいったのが『Jekyll & Hyde』。その線を狙っての、大がかりな装置好きのデス・マカナフ(演出)の起用であり、ハイディ・エッティンジャー(装置/『The Adventures Of Tom Sawyer』)の起用だったと思うが、それを生かせる派手な脚本にはなっていなかったということだ。
 よく覚えているのは、原作でも印象的な、ドラキュラが自分の城の壁を逆さになってスルスルと這い“下りる”場面。小説だと背筋が凍るような不気味さがあるのだが、舞台で見せられると笑いそうになった。そういう感覚のズレが随所にあった。

 今回、改めてプレイビルを見て(すっかり忘れていたので)驚いたのが、キャスト。
 ドラキュラ役トム・ヒューイットは明らかに2000年版『The Rocky Horror Show』の印象を引き継いでの出演だと思うが、主要女優陣が、なんと、メリッサ・エリコとケリ・オハラ。
 メリッサ・エリコはヒロインのミナ・マーリー。大コケした2年前の『Amour』の後だが、ここは、ほとんど一枚看板な感じだったのを思い出した。
 そして、ケリ・オハラ。最初にイギリスでドラキュラに襲われるルーシー役。こちらは2年前が『Sweet Smell Of Success』の準主役。で、この次が名作『The Light In The Piazza』。以降、完全にスターになる。本人としては、あまり思い出したくない作品かも(笑)。

 ブロードウェイで短命に終わった後(そのためか、ブロードウェイのキャスト・アルバムは録音されなかった)、ワイルドホーンは楽曲を大幅に変更してスタジオ録音のコンセプト・アルバムを作る。そして、2008年に改訂版『Dracula, The Musical』をオーストリアのグラーツで上演。これは当たったらしい。それを元にした翻訳版が2011年に日本でも上演されている(未見)。ドラキュラ役が後にワイルドホーンと結婚することになる元宝塚歌劇の和央ようか、ヒロインがやはり元宝塚歌劇の花總まり。
 オーストリアで当たるってのと、それを宝塚歌劇(の布陣)で上演するってのが、ワイルドホーン作品の本質を示しているようで面白い。

 作詞・脚本は、ロイド・ウェバーとの共作でも知られるドン・ブラックとクリストファー・ハンプトン。
 振付はミンディ・クーパー。

The Chronicle of Broadway and me #383(Dracula, The Musical)” への20件のフィードバック

  1. ワイルドホーンのドラキュラは、2014年に、韓国でも初上演され、初演に当時27歳だったキム•ジュンスを抜擢したとのこと。キム•ジュンスが抜擢されてからは、ドイツやアメリカ、イギリスでも30代の男性ミュージカル俳優が演じるようになったそうです。

    いいね

      1. 2023年9月に、ドイツのザールラント州のミュージカル団体が、オーストリア•グラーツ版の「ドラキュラ」を初演していたそうです。タイトルロールは、1985年生まれのテノール歌手の方です。インスタで交流しているに、自己申告されました。ライブ収録音源もいただきました。

        いいね

コメントを残す