The Chronicle of Broadway and me #188(The Scarlet Pimpernel[2])

1999年1月@ニューヨーク(その2)

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 『The Scarlet Pimpernel』(1月1日20:00@Minskoff Theatre)の2度目の観劇。「ねらいの絞り込み」のタイトルで旧サイトに書いた感想。

前回の感想のタイトル は「テイストの不統一」。簡単に言うと“ねらい”が定まっていなかった。
 『Les Miserables』のように重苦しく始まり、しんねりむっつりの夫婦愛の苦悩があり、活劇があり、最後は軽喜歌劇のように終わるというのは、いくらなんでもひどい。
 そう書いたからか(笑)、昨年10月1日にいったんクローズした上で10月10日に再オープンした『The Scarlet Pimpernel』は大幅に手直しされ、きっちり“テイストの統一”された舞台に生まれ変わっていた。
 だからって、すごく素晴らしくなったわけではないんで、けっしてオススメはしませんが、でもまあ前よりはかなりよくなった。

 念のため、前回書いた時代背景を再録しておくと、「1794年フランス。革命の中心となったジャコバン党による粛正の嵐が吹き荒れ、今日もまた貴族たちが断頭台の露と消えていく」、そんな頃の話。

 変更の方針をひと言で言うと、観客にわかりやすく、だ。
 特に1幕前半は、その方針で大きく変わっている。

 改訂前は……。
 牢獄から断頭台に引き出される絶望的な表情をたたえたフランス人たちのシーンから始まる。で、場面が変わって、イギリス人主人公パーシーとフランスの歌姫マルガリータのイギリスにおける結婚式。そこに届いたショーヴランの手紙を受け取って表情の変わるマルガリータ。それを見て疑いを抱くパーシー。そして次が、パーシーと仲間たちが熱く盛り上がってフランスの囚人たちを救いに向かう 1幕最大の見せ場「Into the Fire」となる。

 これが改訂版では……。
 歌姫マルガリータの最後の舞台シーンから始まる。で、上手ボックス席に悪役ショーヴランが、下手ボックスにはパーシーがいて、パーシーはマルガリータが明日結婚する相手として紹介される。パーシーと共に去るマルガリータを未練たらたらで見送ったショーヴランが人々を断頭台に送るシーンが次に来た後、イギリスでの結婚パーティとなる。そこに届いたショーヴランの手紙を受け取って表情の変わるマルガリータ。それを心配そうに見守るパーシー。そして、「Into the Fire」となる。

 この改訂で何が一番違って見えるかと言うと、主人公パーシーのキャラクターだ。
 改訂前は、極端に言うと、事情をよく知らない能天気なイギリス貴族が嫉妬と単純な正義感に燃えてノリやすい仲間とフランスに乗り込む、という印象だった。
 それが改訂版では、初めにマルガリータを間に挟んだパーシーとショーヴランの対立構造を見せ、なおかつパーシーの方が一枚上手らしく見える描き方をしているので、パーシーが様々な事情を見通した上で行動しているのが初めから明らか。そうした“わかってるパーシー”のイメージを補強するように改訂版に新たに登場するのが、ショーヴランに協力を申し出る浮浪者のような外観のヤクザな男。パーシーの変装であることが観客にひと目でわかるメイクで登場する。

 当然ショーヴランの見え方も変わってくる。
 改訂前は不気味な男として登場し、底知れぬ冷酷さを漂わせたりもするのだが、改訂版では最初から、怖いけど結局は笑われるやつになっている。
 つまり、今回の改訂によって、快傑ゾロ的義賊ものとしての姿をはっきりさせたわけだ。とぼけたふりしたヒーローが、強がってるが間抜けな悪役を気持ちよくやっつける活劇。テイストはこの線で統一された。

 パーシーとマルガリータの間のしんねりむっつりした夫婦愛の苦悩というやつも、あっさりした印象に変わっている。
 改訂前はパーシーがマルガリータに疑いを抱いて距離を置くが、改訂版では、パーシーが距離を置くのは、マルガリータに対する疑いのためというよりは、スカーレット・ピンパーネルとしての自分をショーヴランを倒すまで伏せておくため、という感じが強い。
 それに合わせて(あるいは新キャスト、レイチェル・ヨークに合わせてなのかもしれないが)、マルガリータのキャラクターも若干変化。より行動的な印象を受けた。冒頭でショーヴランをきっぱり袖にすることからしてそうだが、最後など、パーシーと共に剣をとって戦ってしまうという勇ましさ。まあ、この辺はヨークの見せ場を増やしたという感じがしないでもないが。

 それ以外の大きな変更は2つ。
 改訂前は“なーんちゃって”だった噴飯もののどんでん返しネタが、今回は最初から予想できるように描かれていたことが1つ。ショーヴランの仕掛けたワナをパーシーが最初から読んでいる、というのを観客に見せておいた。ま、当然の変更。
 もう1つは、「Into the Fire」と並ぶ見せ場だった「The Creation of Man」の振付が全く変わっていたこと。前回は悪役の1人であるプリンス・オブ・ウェールズを巻き込んでのソング&ダンスだったが、今回はパーシーと仲間たちだけの悪ふざけになっていた。おふざけ度が上がった分、面白くなったかも。

 細かい変更についてはとても書ききれない。とにかく、楽曲の並びは大きく入れ替えられ、さらには削られたり新たに加えられたりもしていて、大筋こそ変わらないが全く別ヴァージョンと言っていい改訂の仕方だった。
 が、これほどの改訂を加えて“テイストの統一”を図っても面白さがイマイチなのは、芸の見せ場が乏しいからだろう。改訂前のショーヴラン役だったテレンス・マンが役不足に見えたように、今回もせっかくレイチェル・ヨークをヒロインに持ってきていながら、彼女の魅力を引き出しきれていない。
 変わらぬパーシー役ダグラス・シルズだけは活き活きと演じて大受けだが、どうも野暮ったくていけない。もっとも、その野暮ったさが作曲家フランク・ワイルドホーンのテイストに合っているのだろうが、前回も書いたように、楽曲そのものが魅力に乏しいのは致命的だ。

 今回の改訂はプロデューサーの交替によるもので、新たに出資したのはラジオ・シティ・ミュージック・ホールやマディソン・スクエア・ガーデンのショウを手がけるラジオ・シティ・エンタテインメント。改訂演出を担当したのは、同時に振付も手がけたロバート・ロングボトム(『Side Show』)。
 テレンス・マンに変わってショーヴランを演じたのはレックス・スミス。>

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