The Chronicle of Broadway and me #404(Dessa Rose)

2005年4月@ニューヨーク(その10)

Dessa Rose』(4月17日19:30@Mitzie E. Newhouse Theater)について旧サイトに書いた観劇当時の感想は次の通り(<>内)。

<スティーヴン・フラハーティ(作曲)、リン・アーレンズ(作詞・脚本)、グラシエラ・ダニエル(演出・振付)という『Ragtime』のスタッフによるオフの新作。
 リンカーン・センターと組んだグラシエラ・ダニエルだから、当然“野心作”の系譜で、19世紀半ばのアメリカ南部を舞台に、逃亡奴隷となった黒人女性と彼女を匿うことになる白人女性の、人種差別、性差別との葛藤を描く。と言うとひたすら重い印象だが、重い中にもユーモアと救いがあり、豊潤な楽曲、歌唱・演奏によって、素晴らしい舞台に仕上がっている。
 レイチェル・ヨーク(主役の1人)ってこんなにうまい人だったんだ、と、失礼ながら驚いた。>

 原作はシャーリー・アン・ウィリアムズが1986年に発表した同名小説。
 19世紀半ばに実在したという2人の女性。他の奴隷たちの逃亡を助けた奴隷(映画『Harriet』に描かれたハリエット・タブマン以外にもいたわけだ)と、やはり奴隷の逃亡を助けた白人農園主。その2人が、もし出会っていたら。そう考えてウィリアムズはこの小説を書いたらしい。彼女自身、カリフォルニアの綿花や果実の農園で働く黒人の両親の元で育った人だったようだ。1944年生まれだから、公民権運動真っ只中の世代か。
 詩人でもあり歌手でもあり大学教授でもあったというウィリアムズは、残念ながら1999年に54歳で亡くなっているが、ミュージカルの作者たちは生前の彼女から直接許諾を得て製作を進めていた、とプレイビルに書いてある。

 そのプレイビルのクレジットによれば、主人公の2人は、奴隷のデッサ・ローズが16歳から80歳、農園主ルースが20歳から84歳まで、それぞれ64年の歳月を劇中で生きることになる。まずは80歳と84歳として現れ、それぞれの過去を振り返りながら交互に語り部となる。つまり、若い頃の自分を再現しながら、一方で年老いた語り部にもなる。時代を超えて行き来するわけだ。
 にもかかわらず、2人の役者はメイクアップを変えることなく、ショールを肩にかけるか外すかの他は、姿勢や表情の変化で年齢を表現する。役者に技量があればこその演出だが、面白い。

 ルース役が前述のレイチェル・ヨーク(『Victor/Victoria』『The Scarlet Pimpernel』)。難役。
 一方のデッサ・ローズ役は本作と同じフラハーティ×アーレンズ×ダニエルのチームによる『Once On This Island』初演でスターになったラシャンズ。なのだが、日曜夜公演だったせいだろう、代役でケニータ・R・ミラー。彼女は、この年暮れにオープンの『The Color Purple』初演でブロードウェイ・デビュー(主演はラシャンズ)。その後、『Xanadu』『Once On This Island』再演に出演している。
 他に、ルースと愛し合う奴隷ネイサン役がノーム・ルウィス、デッサ・ローズのことを本に書いて世に出ようとする中途半端で結局酷いヤツになる白人アダム役(重要!)がマイケル・ヘイデン、など。

 物語の最初に、若いデッサ・ローズの恋人としてケインという奴隷が出てくる。彼はバンジョーを持っているのだが、そのバンジョーゆえにやがて殺されることになる。そんな彼が生前、デッサ・ローズに「Ol’ Banjar」という歌を歌って聴かせる。バンジョーはアフリカ起源であり、奏でられる音楽は白人に侵されることのない心の拠り所である、という意味の歌を。
 小品だが、大切な1曲。今回オリジナル・キャスト盤を聴き返しながら、この作品がリアノン・ギデンズともつながっていることに気づいた。