The Chronicle of Broadway and me #646(Death Takes A Holiday)

2011年6月~7月@ニューヨーク(その5)

 『Death Takes A Holiday』(7月2日19:30@Laura Pels Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<モーリー・イェストン(『Nine』『Grand Hotel: The Musical』『Titanic』、そして宝塚ファンには『Phantom』で知られる作曲・作詞家)の新作で、文字通りの“死”が人間の姿をして、とある公爵の別荘を訪れる、という話。
 元はイタリアのアルベルト・カゼーラの戯曲『La Morte In Vacanza』で、ウォルター・フェリスによる英語翻訳版プレイが『Death Takes A Holiday』としてアメリカでもヒットしたようだ。その後、映画化もされ(1934年)、日本公開時の邦題が『明日なき抱擁』。今回のミュージカル化にあたっては、トーマス・ミーハンとピーター・ストーンが手を加えている。

 人間の生の喜びについて知りたいと思った“死”が、休暇をとって人間の世界で暮らしてみる。“死”が休んでいるわけだから、死ぬべき人も死なず、人々は妙な多幸感に包まれる。そんな中で“死”は、婚約者のいる若い娘と惹かれ合うようになる。娘の生命を慮る“死”は、自らの正体を明かして立ち去ろうとする。が、深く“死”を愛した娘は命を惜しむことなく“死”と共に、この世を去る。
 ――というメインの話はともかく、若くハンサムな貴族の姿をした“死”の登場で、公爵邸に集う人々がイキイキするのが皮肉でおかしい。元が戯曲だけあって、各登場人物もよく描き込まれている。

 イェストンの楽曲は、時に優雅で時に情熱的で時に陽気。渋く、ほどほどに重厚感のあるセットと相まって、黄昏ゆくイタリアの貴族階級の気分(を描きたかったのでは?)をよく表している。役者もうまく、充実した舞台だった。
 ところで、開幕直後、別荘に向かう車が事故に遭うのだが、そこに、“死”と恋の落ちる件の娘も乗っていて、一瞬行方不明になる。そして、何事もなかったように現れる。明らかに一度死んでいるのだが、“死”が休暇中だったために死ななかったわけだ。
 これ、今回のミュージカル化で付け加えられたエピソードなのかどうかわからないが、“死”に魅入られるヒロインが“死”のおかげで一命を取り留める、というのは『Elisabeth』(エリザベート)と同じだな、と思いながら観た。
 9月4日までの期間限定公演。>

 演出ダグ・ヒューズ。振付ピーター・プッチ。

 出演は、イギリスからやって来た主演ジュリアン・オヴェンデンの他に、ジル・ペイス(『The Woman In White』『Curtains』)、レベッカ・ルーカー(『The Secret Garden』『Show Boat』『The Music Man』『Mary Poppins』)、リンダ・バルゴード(『Passion』『La Cage Aux Folles』『The Pirate Queen』『Jerry Springer: The Opera in Concert』)、マット・キャヴェノー(『Urban Cowboy: The Musical』『Grey Gardens』『A Catered Affair』)、マラ・デイヴィ(『A Chorus Line』『Irving Berlin’s White Christmas』)、マックス・フォン・エッセン(『Jesus Christ Superstar』『Dance Of The Vampires』『The Baker’s Wife』『The History Of War』)、ジョイ・ハーマリン(『Cyrano: The Musical』『Candide』『La Bohème』『Fiddler On The Roof』『Shine!』)、ドン・ステフェンソン(『Parade』『By Jeeves』『Dracula, The Musical』)といった面々。