The Chronicle of Broadway and me #436(Grey Gardens)

2006年2月@ニューヨーク(その6)

 『Grey Gardens』(2月21日20:00@Playwrights Horizons)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。

<JFKの妻だったジャクリーンの従姉妹で、1度はJFKの兄と婚約していた実在の女性とその母親の葛藤のドラマ。
 元になった同名の有名なドキュメンタリー映画があるらしい。
 ブロードウェイかと見紛うばかりの役者を揃えて、さながら演技合戦の様相。装置その他もお金がかかっている力作。苦いが、笑いのまぶし方がうまく、繁栄と没落をくっきりと対比させた構成も見事。>

 舞台となるのは「グレイ・ガーデンズ」と呼ばれるロング・アイランドの邸宅で(フィッツジェラルド『グレイト・ギャッツビー』を思わせる)、第1幕が華やかな1941年、第2幕が没落後の1973年。主演のクリスティン・エバーソール(『Lady In The Dark』『42nd Street』)は、第1幕で母イーディス・ブーヴィエ・ビールを、第2幕で娘“リトル”・イディ・ビールを演じる。これが、この作品の肝。
 その“仕掛け”の伏線が、第1幕の前に置かれた短いプロローグの描写。朽ちてしまった「グレイ・ガーデンズ」が現れ、薄暗い建物の窓の中で、古いレコードのオペラティックな歌が流れる。言い争う女性2人の声が聴こえた後、レコードの歌に合わせて衰えた声で歌いながら表に出てくるのは、年老いた女性。そこで古い屋敷のセットが捌けて、現れるのは明るく豪華な邸宅の内部。レコードの歌はいつしか、そこでピアノをバックに歌っている女性の美しい声になり……。
 プロローグの年老いた女性が、第2幕で再登場する1973年時点の母イーディスで、演じるのはメアリー・ルイーズ・ウィルソン(『Cabaret』)。プロローグでのウィルソンの歌を歌い継ぐようにして第1幕に歌いながら登場するのが1941年時点の母イーディスで、それがエバーソール。ドラマの核心は簡単に言うと、娘に対する母のライヴァル意識と支配欲をめぐる母娘の葛藤。
 第1幕の娘“リトル”・イディ役はサラ・ゲテルフィンガー(『Dirty Rotten Scoundrels』)だが、第2幕になると、第1幕で母としてゲテルフィンガーに対抗意識を燃やしたエバーソールが、さっきまで自身の演じていた(ここからはウィルソン演じる)母イーディスに抗う娘“リトル”・イディとして登場する。
 観客の目には期せずして「因果応報」あるいは「輪廻」のようにも映る。そうではないにもかかわらず。そういう不思議な“仕掛け”。
 まあ、それが狙いだったかどうかはわからないが、エバーソールの二役というアイディアから、この題材のミュージカル化を考えたとしても不思議ではない。そのぐらい面白い趣向だし、エバーソールにハマった企画だった。
 それにしても、没落後の、猫屋敷と化し、時代とかけ離れて生きている母娘を捉えた、あのドキュメンタリー(後にDVDで観た)に映し出された現実から、そこには描かれていない、かつての「グレイ・ガーデンズ」全盛期をイメージして第1幕を作り上げたのは素晴らしい(脚本ダグ・ライト)。

 そうした“仕掛け”と同時に、作者たちがやりたかったことが、この作品のノスタルジックな音楽なのだろう。第1幕の1941年という設定から、さらに時代を遡って、『Ziegfeld Follies』に代表される華やかなレヴューが全盛を極めた1920年代前後を思わせる、典雅な気分の楽曲が並ぶ。それが、アメリカで成功したアイリッシュ“上流階級”を描いた物語の空気と溶け合って、儚さを伴う『グレイト・ギャッツビー』的な雰囲気を醸成。魅力的だ。
 音楽のノスタルジックな感触は、1973年を描く第2幕でも(多少、皮肉な調子や不穏さは混じるが)大きくは変わらない。と言うのも、母娘が過去の記憶の中で生きているから。そこも面白いところ。とはいえ、第2幕の音楽は、それだけでは終わらない展開もあり、見事。
 作曲スコット・フランケル、作詞マイケル・コリー。この2人は後に、今作同様、脚本のダグ・ライトと組んで、やはりノスタルジックな『War Paint』を世に送り出す。

 演出マイケル・グリーフ(『Rent』『Never Gonna Dance』)、振付ジェフ・カルホウン(『The Best Little Whorehouse Goes Public』『Grease!』『Annie Get Your Gun』『Big River』『Brooklyn: The Musical』)。

 「ブロードウェイかと見紛うばかりの役者」と当時書いているのは、上記の他では、ジョン・マクマーティン(『Show Boat』『High Society』『Sweet Charity: The Concert』『Into the Woods』)、マット・キャヴェノー(『Urban Cowboy』)、マイケル・ポッツ(『Lennon』)といった面々のことを言っているのだろう。おそらく、このオフ公演の時点で、ブロードウェイ行きを考えてキャスティングされていたと思われる。

 という訳で、『[title of show]』同様、この作品もブロードウェイに行くのだが(それも、この年の秋に)、そこでクリスティン・エバーソールは、メアリー・ルイーズ・ウィルソンと共にトニー賞を獲ることになる。

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