The Chronicle of Broadway and me #343(Big River)

2003年7月~8月@ニューヨーク(その6)

 『Big River』(8月3日15:00@American Airlines Theatre)リヴァイヴァル版のことは、この回の渡米の概観『Avenue Q』と併せて、「新鮮な発想が演出の根本にあり、オープンしたての熱気とあいまって、充実した舞台に仕上がっていた」と書いて褒めている。にもかかわらず、旧サイトに個別の感想をアップしなかったこともあって、存在をすっかり忘れていた。
 この舞台、2015年のリヴァイヴァル版『Spring Awakening』に先駆けてブロードウェイに登場した、デフ・ウェスト・シアター(Deaf West Theatre)の作品なのだ (製作はラウンダバウト・シアターとの共同)。

 デフ・ウェスト・シアターについての説明を、そのリヴァイヴァル版『Spring Awakening』の感想から引くと次の通り 。
 「デフ(deaf)という名称からもわかる通り、耳の不自由な人のために手話を用いた表現をする団体として1991年に発足している。(中略)その活動は、単に舞台袖に手話解説者を置いて観客にセリフや状況の説明をするといったものではなく、耳の不自由な(同時に発声も不自由な)役者と共に舞台を作っていこうというもの。」
 『Spring Awakening』 に10年以上先行する、この『Big River』でも、同様の試みが行なわれ、すでに見事な成果を上げている。

 サブタイトルに「The Adventures Of Huckleberry Finn」とあるように、原作はマーク・トウェインの同名傑作小説(邦題:ハックルベリー・フィンの冒険)。舞台には、狂言回しとして、作者マーク・トウェインも出てくる 。
 その設定を生かして、このリヴァイヴァルでは、大きな本のページ(挿絵付き)がセットとして用意され、 トウェイン の書いた“物語”であることが強調される(装置レイ・クラウセン)。その空気感と、 デフ・ウェスト・シアターならではの、役者の手話アクションや、演技だけをする役者とその役のセリフ/歌を担当する役者との“シンクロ共演”が、うまく溶け合っていく 。
 ちなみに、主人公ハックの声はトウェイン役者が兼ねていて、もう1人の主人公である逃亡奴隷ジムは当のジム役者本人が声を出す。
 ハックを演じているのはタイロン・ジョルダーノ。ジムはマイケル・マッケルロイ。トウェインはダニエル・H・ジェンキンズ。
 その他の役者は、複数の役、あるいは複数の声、あるいはその両方を担当している。

 第2幕の終盤、「Waitin’ For The Light To Shine」という1幕でハックが歌った楽曲を、今度は全員のコーラスでゴスペル的に再び歌う。その最終部分の何小節かで突然、歌と演奏が消え、舞台上の役者たちの手話の動きだけが残る 。
 この舞台の全てを象徴するような印象的なシーンだった。

 演出・振付はジェフ・カルホウン。

 リヴァイヴァル版『Spring Awakening』の時と同様、期間限定公演だった。

 『Big River』のブロードウェイ初演は1985年。1984/1985シーズンのトニー賞で、ミュージカル作品賞、楽曲賞(作曲・作詞ロジャー・ミラー)、脚本賞(ウィリアム・ハウプトマン)、他計7部門の受賞を果たしている。