The Chronicle of Broadway and me #886(War Paint)

2017年3月~4月@ニューヨーク(その7)

 『War Paint』(4月2日15:00@Nederlander Theatre)についての観劇当時の感想。配信音楽誌「ERIS」19号(2017年6月)に書いた原稿からの抜粋(一部編集)です(<>内)。

『War Paint』は、それぞれトニー賞主演女優賞を2度受賞している、パティ・ルポン(68歳)とクリスティーン・エバーソール(64歳)の共演が話題。
 2人が扮するのは、ヘレナ・ルビンスタイン(ルポン)とエリザベス・アーデン(エバーソール)という、長年にわたってライヴァル関係にあった化粧品業界のパイオニア。「War Paint」とは、元々はネイティヴ・アメリカンの戦闘用の化粧を意味し、それが転じて化粧品のことを指すようになった、ということだと思う。この作品においては暗喩としてライヴァル2人の“戦い”も意味しているのだろう。
 同タイトルのリンディ・ウッドヘッドによる2人の評伝他が今回の舞台の発想の元としてクレジットされている。

 作曲スコット・フランケル、作詞マイケル・コリー、脚本ダグ・ライト、演出マイケル・グリーフというスタッフは、エバーソールに2度目のトニー賞をもたらした『Grey Gardens』の主要メンバー。
 荒れ果てた豪邸で世捨て人のように暮らす、ジャクリーン・ケネディのいとこと、その母の2人のドラマという、やはり実話を元にした『Grey Gardens』は、2006年にオフで幕を開け、翌2007年にブロードウェイに移ってトニー賞に絡んだ作品で、どちらかと言えばストレート・プレイ的要素の強い渋いミュージカルだったが、『War Paint』も似た印象。2人の先進的な女性の凛とした人生が、かっちりとまとまった濃密なドラマとして描かれる。

 楽曲としては、主な舞台設定が第二次大戦前のアメリカであることから、スウィング・ジャズ的な要素を基調としているが、主演の2人には、それぞれの個性に見合ったドラマティックな歌唱場面を用意して、音楽的にも手堅い作り。
 個人的には、終盤でのパティ・ルポンの熱唱にガツンとやられた。>

 女性であると同時に移民でもあった2人。貧しい生まれながら事業で成功を収めるという人生は、アメリカン・ドリームでもあるのだろうが、そうした爽快感はない。圧倒的な男性優位の社会の中で、「美容」という独自のマーケットを生み出し、競争に明け暮れ(ざるをえなかっ)た2人の半生を通して見えてくるのは、アメリカが豊かになったと言われる時代(設定は1935~1964年)を実は息苦しく生きた多くの女性たちの姿なのかも。例えば『The Hours』のローラのような。
 そんなことを思わせる後味だったと思う。

 パティ・ルポンのトニー賞受賞作品は『Evita』『Gypsy』で、この後『Company』で3度目の受賞となる。クリスティーン・エバーソールの受賞は『42nd Street』『Grey Gardens』
 なお、この『War Paint』では2人仲良く主演女優賞候補になっている。

 主要な出演者は他に、ジョン・ドセット(『Hello Again』『Gypsy』『Newsies The Musical』)、ダグラス・シルズ(『The Scarlet Pimpernel』『Little Shop Of Horrors』Peter Pan『Living On Love』)。

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