The Chronicle of Broadway and me #335(Urban Cowboy: The Musical)

2003年5月@ニューヨーク(その6)

 『Urban Cowboy: The Musical』(5月11日15:00@Broadhurst Theatre)に関しては、こちらに書いたように、2月28日にプレヴューを開始し、3月27日正式オープンしたものの、不入りのため3月29日の公演で閉幕と発表……から一転、翌々日の31日には公演を再開する、という騒ぎがあった。
 最終的には5月18日まで続演。無事こうして観ることができたわけだが、案の定の失敗作。とはいえ、楽曲作者ジェイソン・ロバート・ブラウンが舞台上で演奏するというオマケが付いていて、観た甲斐はあった。

 元になったのは1980年公開の同名映画で、主演はジョン・トラヴォルタ。日本でも話題になった。目玉はロデオ・マシーン(英語では「mechanical bull」)での競技場面。ロデオの牛の背中部分だけを再現してガックンガックン動く機械が、当時、日本にも登場したような気がする。
 音楽的な特徴は1970年代のカントリー・ヒット満載のサウンドトラックで(何曲かは映画用に録音されてして公開時にヒットしている)、その背景には、主な舞台となっているのが、ギリーズ・クラブ(Gilley’s club)というパサデナに実在したカントリー・バー&レストランだということがある。その店にロデオ・マシーンもあった。店名の由来は共同経営者でもあったミッキー・ギリーというカントリー・シンガーの名前で(ジェリー・リー・ルイスの従兄弟だそう)、彼のライヴが店の“売り”のひとつだったらしい。

 もちろん、このミュージカルでもギリーズ・クラブのライヴ・ステージが再現される。そのハウス・バンドでピアノを弾き、時折歌っていたのがジェイソン・ロバート・ブラウンだった、というわけだ。
 ちなみに、ジェイソン・ロバート・ブラウンは、音楽監督と編曲を兼ねてもいる。

 楽曲は、まずは、そのジェイソン・ロバート・ブラウンの書き下ろしが5曲。珍しいのは、ジェフ・ブルメンクランツ、ボブ・スティルマンという、演劇世界では役者として活躍することの多い人たちが、それぞれ3曲と1曲を提供していること。
 残りは(と言っても半分以上だが)、映画で使われた楽曲から何曲かと(アン・マレーのカントリー・チャートNo.1ヒット「Could I Have This Dance」とか、やはりカントリー・チャートでNo.1になり、ホット・チャートでも5位を記録したジョニー・リーの「Lookin’ For Love」とか)、その時代以降の(つまり1970年代~2000年ぐらいまでの)カントリー系のヒット曲を新たに持ってきた、ということのようだ。
 やはり短命に終わった『The Look Of Love』の変更の例もあるので、念のため、プレイビルのサイトでオープニング・ナイトの曲目を調べたら、観た回の方が1曲少なかった。まあ、大騒ぎした割には小さな変更だ。

 「脚本がひどい」と概観に書いているが、実のところ、ひどいのは話そのもの。
 映画の脚本を書いたのは、アーロン・レイサムと監督のジェイムズ・ブリッジズ。この舞台版の脚本も、やはりレイサムが、これまでもっぱらトミー・テューンの下で演出助手をしてきていたフィリップ・オースターマンと組んで書いている。が、映画の前に、エスクァイア誌に書いたレイサムの取材記事があるらしい。その元ネタの主人公が面白くない。
 カネを貯めて故郷の田舎町に土地を買うつもりでヒューストンに働きに来た若い男が主人公。イキのいい娘と意気投合して速攻で結婚するが、ジェンダーについて古い価値観を持つ男は娘を自由にさせない。その象徴がロデオ・マシーンで、自分は乗るが娘には乗るなと言う。独立心の強い娘は隠れてロデオ・マシーンの練習を始める。そこに憎まれ役の男が登場。絵に描いたように主人公が嫉妬心を燃やし、事態は混乱していく。
 終盤にはサスペンスフルな展開も用意されているし、最後はハッピーエンドになるのだが、それ以前に、主人公のキャラクターがバカバカしく感じられて、話についていく気が失せてしまう。四半世紀近く前の、この内容の映画を、わざわざ持ち出してきた理由が全く理解できない、というのが当時の率直な感想だった(実は、この主人公のようなマッチョな価値観が世代を超えて根強く残っていたことが後に露わになったりするわけだが)。

 こうした主人公に対する違和感は、映画に対しても(仮に公開の1980年頃に観ていたとしても)個人的には同じように抱いたと思うが(実際には後追いで観てゲッ!と思ったが)、それでも映画には、ひとつは風俗的な面白さがあった。なにしろ、話題のロデオ・マシーンの“本場”で撮っているわけだし。加えて旬の役者、最初のピークにあったトラヴォルタ(1977年『Saturday Night Fever』→1978年『Grease』)と人気急上昇中のデブラ・ウィンガー(1978年『Thank God It’s Friday』)を観るという楽しみも、当時はあっただろう。
 が、舞台にはどちらもない。
 と言っては後に活躍することになる主演の2人に失礼かもしれないが、主人公役マット・キャヴェノー、相手の娘役ジェン・コレッラ共に、これがブロードウェイ・デビュー。コレッラは後の片鱗が見えるパキッとしたキャラクターで、まだしもだったが、キャヴェノーは後に演じる役から逆算して、明らかに役柄が違っていたと思う。少なくとも、トラヴォルタのようなセクシーさは感じられなかった。
 もちろん、ロデオ・マシーンやカントリー・バーといった特殊な風俗も、現場で撮った映画には、舞台版は臨場感で遠く及ばない。プラス材料と言えば、陽気なショウ場面ぐらいか。
 逆に言うと、主人公のキャラクターを変えて別のストーリーにしてしまえば、面白くなった可能性もある。あるにはあるが、そうなると“四半世紀前のヒット映画の舞台ミュージカル化”という客寄せのネタがなくなるし。と、まあ、そういうことなのだろう。

 演出は、『A Class Act』のロニー・プライス。振付は、シティ・バレエのプリンシパル・ダンサーだったメリンダ・ロイ。
 主人公の叔父(伯父?)役のレオ・バーメスターはブロードウェイ初演版『Les Miserables』の初代テナルディエで(プレイビルで確かめたら1988年に観た時も彼だった)、その後、『The Civil War』『Thou Shalt Not』で出会っているが、この4年後に亡くなっている。その妻役のサリー・メイズは、1993年リヴァイヴァル版の『She Loves Me』でトニー賞助演女優賞にノミネートされた人。

The Chronicle of Broadway and me #335(Urban Cowboy: The Musical)” への23件のフィードバック

コメントを残す