The Chronicle of Broadway and me #334(The Look Of Love)

2003年5月@ニューヨーク(その5)

 『The Look Of Love』(5月8日20:00@Brooks Atkinson Theatre)は、4月4日にプレヴューを開始して、ひと月後に正式オープン、6月15日に幕を下ろしている。まあ、そもそもが期間限定公演だったということもあるが、全く盛り上がることなく、あっという間に終わった、という印象がある。

 そのあたりの“うまくいっていなかった感”の一端が表れているっぽい事実に、今回調べていて気がついた。プレイビルの公式サイトにある『The Look Of Love』のページを見てのことだ。
 そこでは作品の内容を次のように紹介している。

 [1960年代から1970年代にかけてのバート・バカラックとハル・デイヴィッドのクラシック・ポップ・テューンにスポットライトを当てたレヴューで、「Beginnings」という2人による新曲が1曲加えられている。]

 え、新曲なんてあったっけ? と、驚く。
 そのページの下の方に掲載してあるオープニング・ナイトのプレイビル(サイトではなく小冊子の方)の曲目ページを見ると、確かに、第2幕最後に出演者全員で歌うナンバーとして、「Beginnings」という曲が載っている。全ての曲目の後ろに発表年がカッコ付きで書かれているが、そこには確かに(2003)とある。えーっ!? と思いながら自分の観た回(正式オープンの4日後)のプレイビルで確認すると、そんな曲は載っていない。ってだけでなく、けっこう曲順が変わっているし、選曲そのものも変わっている。特に第2幕。
 1か月に及ぶプレヴューを経てのオープンにもかかわらず、そのわずか4日後に、これだけの変更が加えられるというのは、しかも書き下ろしの新曲が削られるというのは、間違いなくプロダクション内部に混乱があったということだ。
 「手堅い作りだが、アン・ラインキングの振付を含め、新鮮味は全くない。」というのが観劇当時書き残した唯一の感想だが、思った以上に現場は大変だったということか。

 以下、想像、ってか、邪推だが(笑)。
 ラウンダバウト・シアター(製作)の共同芸術監督であるスコット・エリス(演出)が、会員(サブスクライバー)向けの目玉演目を急ぎ作る必要があり(非営利団体は年に何本かの魅力的な公演を用意して、それらのチケットを優先的に予約できるようにすることで会員を獲得する)、『Steel Pier』で仕事をした脚本家のデイヴィッド・トンプソンと音楽監督のデイヴィッド・ラウドに相談し、デイヴィッド・トンプソンが『Chicago』で一緒だった振付のアン・ラインキングに声をかけた、と。でもって、その4人が、あまり時間をかけずに作ることができて、ラウンダバウトの客層に受ける作品として、バカラック&デイヴィッドのレヴューを思いついた。そういうことではないか(原案はこの4人の連名)。
 そんな風に才人は集まったものの、核となるアイディアがバカラック&デイヴィッドの楽曲ってことだけでは如何ともしがたく、どこと言って特徴のない、通り一遍のショウが出来上がってしまった、と。
 まあ、1980年代以降、ほぼ没交渉だったはずのバカラック&デイヴィッドに新曲を書かせたのは手柄だが(ボツ曲を持ってきた可能性もないではないが)、それもすぐに使われなくなったんだから、どうしようもない。

 出演者は、リズ・キャラウェイ、ジョナサン・ドキューチッツ、キャパシア・ジェンキンズ、ジェイニン・ラマーナ、それに、ラインキング絡みで『Fosse』から、ユージン・フレミング、シャノン・ルウィス、レイチェル・ラック、デズモンド・リチャードソンといった顔ぶれが揃う。珍しいところでは、サルサのケヴィン・セバージョも出ていた。