The Chronicle of Broadway and me#1054(Almost Famous)

2022年11月@ニューヨーク(その12)

 『Almost Famous』(11月29日19:00@Bernard B. Jacobs Theatre)についての感想。

 『Almost Famous』は、キャメロン・クロウ監督による2000年の同名映画(邦題:あの頃ペニー・レインと)の舞台ミュージカル化。元がファンの多い“青春の名画”だけに、企画自体を危ぶんだが、残念ながら予感は当たった。丁寧に作られてはいるものの、薄味に終わっている。
 もっとも、脚本(作詞も)をキャメロン・クロウ自身が手がけているので、観客としても納得するしかないのだが。

 大学教授で教育熱心な未亡人である母の方針で、ポップ・カルチャーから隔離されて育てられたウィリアムだったが、そんな母に反抗して家出した姉の置き土産であるロックのレコードを密かに聴き込んで、ひとかどのロック少年になる。
 1973年、15歳になったウィリアムは地元サンディエゴのアンダーグラウンド紙に無料で記事を書いている。その筆力が認められ、ブラック・サバスのコンサート評を依頼されたウィリアムは、その取材の過程で、前座バンドのスティルウォーター、そして彼らの周辺にいつもいる女性ペニー・レインと出会う。
 そこから始まるウィリアムの、憧れのロック・スターたちのリアルな姿を目撃する旅。そしてペニー・レインへの淡い恋心。

 そもそもの映画の脚本はキャメロン・クロウが自分の体験を元に書いたらしいが、1973年という微妙な年が鍵。’60年代後半のロック・ミュージックに対する幻想がほぼ消えつつあり、ロックが冷徹なビジネス世界のものになり始めた頃。そんな時代を舞台に、夢の残滓に未練を残しながらも片足はカネ儲けに踏み込んでいく、言わば過渡期のロック・バンドとその周辺の人々を、愛憎半ばの思いで描き出した。それも、四半世以上前の“大人になりかけの少年”だった自分というフィルターを通して。でもって、そこに少なからず懐古の情を交えながら。そういう作品。
 その1973年という微妙な時代の空気は、映画でなら再現して媒体に真空パックすることが可能だが、常に現実世界の観客を前にする舞台での再現はむずかしい。しかも、映画化からも22年、設定の時代からはほぼ半世紀が経っているわけで……。
 このミュージカル版がうまくいかなかった最大の原因は、その点にあると思う。舞台で“あの時代”を再現しようとすればするほど、出来の悪いパロディに見えてしまう。そういう瞬間が、観ていて何度かあった。

 その点、作曲トム・キット(共同で作詞も)の楽曲は、“あの時代”の音楽的な雰囲気を巧みに再現していた。楽曲それ自体も、けっして悪くない。ただ、一番おいしいところを、映画でも印象的だったエルトン・ジョンの名曲「Tiny Dancer」に持っていかれる構成になっていては、いかんともしがたい。その他にも映画の挿入歌が何曲か使われていて、そういう意味では、この作品はトム・キットにとって、ジェイソン・ロバート・ブラウンにとっての『Urban Cowboy: The Musical』、リン・アーレンズ&スティーヴン・フラハーティにとっての『Rocky』に当たる、とも言える。職人仕事、というところか。

 演出ジェレミー・ヘリン。振付サラ・オグリビー。

 ウィリアムズ役ケイシー・ライクスはブロードウェイ・デビュー。ペニー・レイン役ソレア・ファイファーは、2019年にシティ・センター「アンコールズ!」版『Evita』で主役エヴァを演じた後の、やはりこれがブロードウェイ・デビュー。スティルウォーターのギタリストでウィリアムズと心を通わすラッセル役は本来はクリス・ウッドだが、観た回は代役でヴァン・ヒューズ。ウィリアムズの母役はアニカ・ラーセン(『Zanna, Don’t!』『All Shook Up』『Miracle Brothers』『Xanadu』『Myths And Hymns』『Beautiful: The Carole King Musical』)。

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