The Chronicle of Broadway and me#1061(Shucked)

2023年5月~6月@ニューヨーク(その5)

 『Shucked』(5月29日19:00@Nederlander Theatre)は、カントリー畑(という表現がこの作品には相応しいかと)のシンガー・ソングライター、ブランディ・クラークとシェイン・マカナリーの楽曲による新作ミュージカル。
 脚本は『Tootsie』のロバート・ホーン。そのせいか、全体の感触は、どことなく’60年代のTVコメディっぽい。……と思ったら、実際にそうだったようだ。元ネタは『Hee Haw』というタイトルのTVバラエティ番組で、1969 年から1991年までオンエアされたとか。そのスケッチ部分の拡大なのか。なるほど、狂言回し(ストーリー・テラー)を名乗る男女の存在も、それっぽい(この2人には、ちょっとした秘密がある)。

 舞台はジョージア州コブ郡。州都アトランタの北西に位置する。アトランタの人種多様化に伴い、1960年代頃から白人層が近隣のコブ郡に移動し始めて、農業地帯の郊外住宅地化が進んだらしい。そんなこともあってか、人種差別主義的傾向が強いところでもあるようだ。
 ともあれ、登場人物たちは、同地でトウモロコシを作る農業従事者と、それを蒸留してウイスキーにする酒造業者。そこに、フロリダにいた詐欺師が一枚加わる。
 たいして話があるわけではない。
 トウモロコシが不作になり、予定していた結婚を延期せざるえなくなった農業従事者の男女がいて、先進的な女性の方(メイジー)が救済を求めてフロリダ州タンパへ出向く(この土地の人々は滅多にトウモロコシ畑の外に出ていかないらしい)。そこで出会った詐欺師(con man)をトウモロコシの医者(corn doctor)と勘違いしたメイジーは、彼(ゴーディ)をコブに連れ帰る。ゴーディはゴーディで、トウモロコシはともかく、土地の下にカネになる原石が眠っていると踏んで同行する。帰還後は、ゴーディを妄信するメイジーと、明らかに怪しいと訝る他のみんなが対立。反発してゴーディと結婚すると言い出すメイジー、それを阻止しつつ(なぜか)ゴーディを脅して口説こうとするメイジーの従姉ルル、どうしていいかわからず悶々とするメイジーの婚約者ボー、原石を持ち出して早くトンズラしたいゴーディの4人を中心に、ドタバタが始まる。

 そもそもコーンがポルノを意味したり、コーニー(corny)がダサいという意味だったりするあたりから始まって、どうやらダジャレが満載された作品のようで。加えて、『The Music Man』のパロディがあったり、『The Book Of Mormon』への言及もあった模様。まあ、そんな、笑いでいっぱいのミュージカル。
 基本的には”田舎賛歌”なのだろうが、個人的にはイマイチ制作側の意図がつかめないまま終わった。”女性賛歌”と言うにはメイジーの行動がやや中途半端だし。笑ってくれればいい、というのであれば何も言うことはないが、もう少し骨太な何かがあるのかと思っていたので、そこは期待外れ。なんとなく丸く収めるあたりに’60年代のTVコメディっぽさを感じたというわけだが。
 もっとも、楽曲は聴きどころが多かった。

 演出ジャック・オブライエン(『Damn Yankees』『Hairspray』『Dirty Rotten Scoundrels』『Dr. Seuss’ How The Grinch Stole Christmas!』『Catch Me If You Can』『Love Never Dies』『It’s Only A Play』『The Front Page』『Charlie And The Chocolate Factory』)。振付サラ・オグリビー(『Goldstein』『Almost Famous』)。

 メイジー役キャロライン・インナービクラー(ブロードウェイ・デビュー)。ボー役アンドリュー・ドゥランド(『The Burnt Part Boys』『The Robber Bridegroom』『Head Over Heels』『Ink』)。ルル役アレックス・ニューウェル(『Once On This Island』)は力強いフェミニズムの歌「Independently Owned」でショウ・ストッパーになる。そのニューウェルと共にトニー賞候補になっているのが、ボーのおとぼけ兄貴ピーナッツ役ケヴィン・カフーン(『The Lion King』『The Rocky Horror Show』『Chitty Chitty Bang Bang』『The Wedding Singer』『The Shaggs: Philosophy Of The World』)。ゴーディ役ジョン・ベールマン(『Tootsie』)。ストーリー・テラーはグレイ・ヘンソン(『Mean Girls』)とアシュリー・D・ケリー(ブロードウェイ・デビュー)。

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