The Chronicle of Broadway and me#1060(Lerner & Loewe’s Camelot)

2023年5月~6月@ニューヨーク(その4)

 『Lerner & Loewe’s Camelot』(5月28日15:00@Vivian Beaumont Theatre/Lincoln Center)の感想。

 『Camelot』のブロードウェイ初演は1960年12月。1963年1月まで2年強のロングランを記録している。
 今回のプロダクションはバートレット・シェール演出@リンカーン・センターの黄金期ブロードウェイ・ミュージカル・リヴァイヴァル・シリーズ(という企画が表立ってあるわけではないが)の『South Pacific』『The King And I』『My Fair Lady』に続く第4弾、ということになる。ロジャーズ&ハマースタイン作品2本の後のラーナー&ロウ作品2本目。
 それらの中では『My Fair Lady』に最も感銘を受けた。理由の1つ(にして最大)は、現代にリヴァイヴさせる意味を強く感じるリヴァイヴァルだったから。詳細は同作の感想をお読みいただきたいが、その点、今回の『Lerner & Loewe’s Camelot』は、アラン・ジェイ・ラーナーの脚本に基づいてアーロン・ソーキン(『To Kill a Mockingbird』)が改変を施し、オリジナルのファンタジー色(魔術師の存在等)を払拭しているにもかかわらず、作品自体の”古典感”までは拭えなかった。それぞれの人物像は現代的になってはいるのだが。

 原作はテレンス・ハンベリー・ホワイトの四部からなる小説「The Once And Future King」(翻訳邦題:永遠の王)。アーサー王伝説を扱ったその小説の、後半のエピソードが採用されている(ちなみに、前半部分を元に作られたのが邦題『王様の剣』で知られる1963年のディズニー・アニメーション『The Sword In The Stone』)。
 中世のイングランド。石に刺さった剣エクスカリバーを抜いてキャメロットの王となったアーサーは政略結婚を嫌っていたが、やはり政略結婚を嫌って逃げていた結婚相手グネヴィアと偶然出会い、惹かれ合って結婚する。理想の国造りを目指す2人の気持ちは一致し、名誉と正義を重んじる”円卓の騎士”を集める。それに立候補してきたフランスの騎士ランスロットは、礼儀正しいものの不遜とも思える強い自我を隠さない若者。そのランスロットと彼に反発しているように見えたグネヴィアが恋に落ちるのが物語の肝。そこに、アーサーが15歳の時に結ばれたモーガン・ル・フェイ(初演では魔術師)との間に生まれたモルドレッドが、グネヴィアに対する敵意も露わに突如現れ、彼の奸計に嵌ったアーサー、グネヴィア、ランスロットの3人は、引き返せない窮地に陥る。

 アーサーとグネヴィアの出会いあたりまでは、いきいきした人物描写と快活な演出とが相まって面白い。が、中世にあって(ある種)平和的な理想の王国を作ろうという話は、やはり根本的にファンタジーで、フレデリック・ロウの美しく豊かなメロディが流れると、皮肉なことに浮世離れ感がいっそう強まる。
 加えて、アーサー、グネヴィア、ランスロットの三角関係が、そういうことも現実にはあるだろうなとは思うが、舞台全体の空気の中ではドラマのためのドラマに見えて、しっくり来ない。モルドレッドの存在も含め、(元々の言い伝えにある事件とはいえ)展開に伏線がなさすぎてご都合主義に感じる。
 こうしたことは全てアラン・ジェイ・ラーナーによる元の脚本の弱さに起因していて、それこそ2019年版『Oklahoma!』ぐらいの大胆な改変を行わない限り、補強のしようがない。

 ここで思い出すのは、この作品について語られる時に必ずと言っていいほど言及されるJFKのこと。ケネディ大統領が暗殺されるのは、本作のブロードウェイ初演版が幕を下ろした年の11月だが、その翌月に出たライフ誌に載ったインタヴューでジャクリーン・ケネディが、ジョン・F・ケネディが『Camelot』のオリジナル・キャスト・レコーディングを好んで聴いていた、と発言した。ことに最後のナンバーであるリプライズの「Camelot」を。そこで歌われているのは、かつて存在した輝かしい国の記憶。
 この出来すぎのようにも思われるエピソード(ケネディとラーナーがハーヴァード大学の同級生だったという事実も含めて)が、批評家の評価は賛否両論だったという『Camelot』という作品に、後から実体以上の付加価値を与えたのではないかという気がするが、どうだろう。今となっては幻想だったことがわかっている淡い希望に対する郷愁と共に。
 脚本(ソーキン)も演出(シェール)も手を尽くして現代的なシャープさを持つ舞台に仕上げはしたものの、’60年代初頭という特殊な時代の中で辛うじて命脈を保った(のではないかと個人的には思う)作品を、混迷を極める60年後の今、”現在性”を持つ作品としてリヴァイヴさせるまでには到らなかった。

 振付のバイロン・イーズリー(『Slave Play』)、殺陣(fight direction)B・H・バリー(超ヴェテラン!)、共にいい仕事。
 

 アーサー役アンドリュー・バーナップは重要な難役を清新な印象でこなす。
 グネヴィアのフィリッパ・スー(『Hamilton』『Amélie, A New Musical』)がキャストの目玉だと思うが、期待に違わぬ出来。これも(弱い物語の中で)難役。
 ランスロット役ジョーダン・ドニカはトニー賞助演男優賞候補に挙がっているが、残念ながら(ことにトニー賞予想を書く上で残念ながら)休演。が、バートレット・シェール版『My Fair Lady』での”無意識過剰”なフレディ役から想像するに、なるほど候補になりそう。ちなみに代役のクリスチャン・マーク・ギブズも健闘。
 他に、芝居の重石的マーリン(初演では魔法使い)/ペリノア役デイキン・マシューズ(『Rocky』『Waitress』『To Kill a Mockingbird』)、モーガン・ル・フェイ役マリリー・トーキングトン(ブロードウェイ・デビュー)、モルドレッド役テイラー・トレンシュ(『Matilda The Musical』『The Curious Incident Of The Dog In The Night-Time』『Hello, Dolly!』『To Kill a Mockingbird』)といった顔ぶれ。

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