The Chronicle of Broadway and me #651(Love Never Dies)

2011年7月@ロンドン(その2)

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 『Love Never Dies』(7月25日19:30@Adelphi Theatre)について旧サイトに書いた観劇当時の感想(<>内)。48時間限定で行なわれた無料ストリーミング配信に合わせて2020年4月25日に先行して上げておいたものに追記しました。

<あの『The Phantom Of The Opera』の続編にして、愚作。
 今回の舞台は、20世紀初頭のニューヨークはコニー・アイランド。パリを逃れてアメリカに渡ったファントムがコニー・アイランドで(別人として)興行で成功している、という設定。
 そこに、歌手として名声を得ているクリスティーンを呼び寄せる。カネに困っている夫のラウルと一人息子も共に。となれば、その後展開するドラマは、前作同様、ファントム、クリスティーン、ラウルの三角関係。……という話には正直あまり関心はない。ラウルがダメ男になってる、とか、どうでもいい。なにしろ、前作のストーリーにも思い入れはないから。
 ただ、言えるのは、元になったフレデリック・フォーサイス(脚本にクレジットあり)の小説『The Phantom Of Manhattan』(翻訳邦題:マンハッタンの怪人)の設定を生かして、舞台をマンハッタンの新設オペラハウスにしておけば、こんなチープな感じにはならなかっただろう、ということ。
 『The Phantom Of The Opera』の面白さというのは、大時代的なゴシック・ホラーを大仕掛けな装置と大袈裟な音楽(オペラ的なものとシンセサイザーによるユーロビート~ヘヴィメタルとの強引な組み合わせ)で賑々しく見せたところにある。その雰囲気醸成のために、古色蒼然としたオペラ座という舞台設定は不可欠だった。
 それが、当時は賑わっていたとはいえ、どこか場末感の漂うコニー・アイランドでは、スケールが小さすぎるし、神出鬼没のファントムが棲息している気がしない。事実、ここでのファントムは神出鬼没の存在ではなく、さほど恐ろしくもない。新世紀になって、すっかり神通力を失った格好だ。
 おまけに、実際の装置も、前作に比べるとチープで、アイディアも不足している(その分をプロジェクター処理で補おうとしているが、成功していない)。

 当然のごとく作曲(+共同脚本)はアンドリュー・ロイド・ウェバーだが、その他のスタッフは、ほぼ前作から変わっている(変わらないのは、編曲のデイヴィッド・カレンと、前作に作詞でクレジットされているチャールズ・ハートが今回補作詞で加わっているぐらい)。さらに言うと、装置、照明のクレジットに“original”の表記が付いていて、振付も“new”の表記付きで 2人目のクレジットがあるところから想像するに、かなりの手直しが行なわれたのではないだろうか(昨年3月正式オープン)。なんにしても最大の問題は、プロデューサーがアンドリュー・ロイド・ウェバー自身(+彼の会社リアリー・ユースフル・グループ)だというところにあると思う(前作のプロデューサーは、キャメロン・マッキントッシュ+リアリー・ユースフル・グループの前身とも言うべきリアリー・ユースフル・カンパニー)。的確な判断が全くできていない。自分でプロデュースを続ける限り、自作の成功は2度とないだろう。
もっとも、楽曲にも特筆すべきものがないのだが。

 と言っていたら、8月27日公演で幕を下ろした。となれば、とりあえず、観られてよかった、と言うべきか。>

 演出ジャック・オブライエン。振付ジェリー・ミッチェル。

 ファントム役はオリジナル・キャストのラミン・カリムルーがまだ出ていたが、クリスティーン役はすでにシエラ・ボーゲスが降りていてセリア・グレアム、ラウル役もジョーゼフ・ミルソンからデイヴィッド・サクストンに替わっていた。マダム・ジリー役はオリジナルのリズ・ロバートソン。